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旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます  作者: 竹本田重郎


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第119話 失意のマウントバッテン

マウントバッテンは当初の余裕が一変した。




 今となっては頬が削げている。




「チャーチル首相よりご命令が…」




「なんだ」




「この手紙が直接お伝えします。内容は誰一人として確認しておりません」




「…」




 インドの戦いは思うようにいかなかった。それどころか、逆に攻め立てられる始末である。カルカタは陥落してインドの対ビルマ戦線が次々と食い破られた。日本軍の航空隊を殲滅しようとアメリカに頭を下げて戦闘機と爆撃機を供与してもらう。それがどうした。日本軍の新型機はもちろん老兵に討ち取られている。制空権を喪失した後は悲惨と相場が決まった。円筒陣地の防御線は片っ端から爆撃ないし襲撃を受けて破壊される。仮に復旧させても重機甲部隊が蹂躙して何も残さなかった。正面に集中していると側面に快速機甲部隊が登場する。日本軍の得意技だがまんまとしてやられた。




 マウントバッテンを筆頭に情報戦は何よりも重視している。少数精鋭の空挺潜入部隊を投じて情報収集と後方攪乱に努めた。日本軍の動きは丸わかりのはず。彼が掴まされたのは欺瞞情報ばかりだった。どこをどう攻めても、どこをどう守っても、どこから逃げても。敵の罠に嵌って部隊単位で壊滅した。あまりにもおかしい。精鋭部隊とコンタクトを図るために物資の空挺投下の際に判明した。その投下地点にはアジア人が群れている。




「私を解任するか…海軍上がりめ」




「いかがいたしましょうか…今なら握りつぶすこともできます」




「聞くまでもない。握りつぶす」




「かしこまりました。最後までお供いたします」




 情報戦にも完敗を喫した。




 マウントバッテンの頬が削げて当然だった。これに追い打ちをかけるようにチャーチル首相が手紙を送る。その内容は極めて簡潔に綴られた。現時点をもってマウントバッテンはインド方面の司令官を解任する。司令官の代わりを寄こすこともなかった。インド方面から完全に撤退してドイツを攻め落とすことに集中する。




 チャーチル首相はマレーの屈辱を返すなど息巻いた。しかし、ファシスト・イタリアやナチス・ドイツの枢軸国を叩くが優先である。極東の日本は独自陣営を立ち上げて自主自立を訴えた。前大戦後の主張を繰り返す格好だが理解できないこともない。大東亜と枢軸国を天秤にかけると一気に枢軸国へ傾いた。




 したがって、アジアから手を引くと姿勢を転換する。




「なんだ、何が起こっている。どうしてだ」




「落ち着いてください。セイロンティーを入れましょう」




「すまない」




「私は味方です。しょせん、海軍上がりに陸戦はわからないのです」




 本国で何が起こっているかわからなかった。とてもだが、一方的な解任を受け入れられるわけがない。マウントバッテンは怒りと失意が同時に訪れてヘナヘナと椅子に座り込んだ。副官はすかさず身体を支えて部下にセイロンティーを淹れるように命じる。ティーにスコーンは欠かせなかった。




 実際にイギリス本国では日英同盟の残滓なのか知日派が息を吹き返す。日本が一方的に攻撃してきた。いいや、水面下で回避のために交渉は行われている。無茶な要求を突き付けたアメリカに責任を転嫁してやった。チャーチルが対日強硬を敷いたことも批判して止まらない。日本はナチスやファシストに比べて良識を堅持して話のわかる国だった。




 チャーチル首相が知日派の圧力に屈したとは思えない。しかし、目の前のヨーロッパ戦線に集中すべきという声は正しかった。フランス解放のノルマンディー上陸作戦を控えている。そんな中でインドで遊んでいる暇はないはずだ。インドに割く戦力があればファシストを殲滅してナチスを焼き払う。




「報告します!」




「なんだ。私は極めて機嫌が悪い」




「何卒、何卒」




「私が代理する。なんだ」




「これを…」




 空気の読めない士官がドタドタと駆け込んできた。いかに重要な報告もタイミングが存在する。マウントバッテンが失意に塗れて不機嫌でも報告を放り入れる程の内容だ。副官が代理を申し出て受け取るが素っ頓狂な声でそっくりそのままを読み上げてしまう。




「マ、マダガスカル島に上陸船団が向かっている!」




「なにい!」




~マダガスカル島~




 マダガスカル島はアフリカの要衝と機能した。




 大西洋から喜望峰を経由してインド洋に出るに際して中継局を為す。フランス領だったが自由フランスとヴィシーフランスに分かれた際にイギリスが承継した。ドイツの攻撃を受けるも弾き返している。今日もインドの戦いを対岸の火事と中継局の仕事を全うした。




 そこへジョークが飛び込んでくる。




「はぁ? マダガスカル島に上陸船団が迫っている? 何を言っているんだ」




「まったくだ。日本が来れるわけがないだろう。誤報だと突き返せ」




「だな。誰がつまらんジョークを言い始めた」




 マダガスカル島に上陸船団が迫っていると言う緊急報告に表情を顰めた。日本軍の拠点から6000キロという距離がある。日本本土からハワイまでよりも遠かった。こんな距離を進んでくるわけがない。仮に来たとしても十分に撃退できる戦力を持っていた。きっと日本軍の撒いた欺瞞情報で踊らされていると現地から安全を報告してあげよう。




「なんだ? 警報? おいおい…」




「おふざけはやめろ。訓練でも嫌だな」




「文句を言って…」




「み、港に停泊している貨物船に駆逐艦が!」




「な、なんだ。何が起こっている」




 けたたましいサイレンの警報が鳴り響いたかと思えば港の方から轟音が聞こえてきた。なんだなんだと見てみれば停泊中の貨物船や駆逐艦と次々と爆沈している。貨物船はインド戦線に運送する爆発物を満載した。駆逐艦はそもそも可燃性の危険物を積載する。本国より地中海からスエズ運河を通ってインドへ送る方法もあれど、ドイツの空軍は健在であり、海軍のUボートやSボートは未だに脅威として残された。したがって、多少遠回りでも大西洋を迂回してマダガスカル島を中継する。マダガスカル島の中継局としての機能が喪失すればインド戦線に与える影響ははかり知れなかった。




「く、空襲だ! 潜水艦もいるぞ!」




「本当にマダガスカルを落としに来ると言うのか…」




「武器を持て! 上陸してくるぞ!」




「日本軍は本当に魔術を使っている…」




 港だけではない。マダガスカル島内陸部の基地も空襲を受けていた。敵機の姿は一機も見られないにもかかわらず、各地から猛烈な爆発音が聞こえるどころか、地震のごとき揺れが襲い掛かる。どこからともなく爆弾が飛んできた。あまりの出来事に日本軍は魔術を使っていると噂が現実味を帯びる。




 これの下手人は数百キロメートルも離れた海洋に浮かんでいた。マダガスカル島攻撃任務に充当される。陸軍の潜航艇が輸送任務から離れて攻撃任務に努めた。輸送任務のために格納庫を有するが、この格納庫に最小限の改造を施すことで武装でき、特に簡易的な噴進弾は既存の射出機により発射できる。噴進弾の中でもパルスジェット式は安価なこともあり奇襲兵器に最適だった。本来は海軍の仕事でも太平洋の戦いに忙しい故に陸軍の潜水艦が出張する。




「特殊潜航艇は無事だろうか。我々が楽な仕事をしているのに…」




「彼らは死地へ好んで赴いて必殺の雷撃を敢行する。それに敵艦に爆薬まで設置します。帰還は絶望的…」




「海軍の仕事だ何だは関係ない。日本が勝利するために欠かせなかった。彼らは自ら死することを厭わず、ただ祖国の勝利を信じて疑わず、故郷に残した家族を守るために」




「今からでも上陸できませんか! マダガスカル島に切り込みを!」




「馬鹿を言うな! それで喜ぶか! 我らが生きて帰って再びマダガスカルかイギリスの島を攻撃する! その時こそ歓喜してくれる!」




 マダガスカル島は見えないが喧騒に満ち溢れた。




続く

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