第115話 カルカタ猛攻撃
日本軍はダイヤモンド・ハーバーを起点にカルカタへ攻撃を開始した。インパール作戦の主要目標である以上は大軍勢が動員されて充実した装備を振り上げる。兵站に関しても海上輸送と陸上輸送を組み合わせて万全を期した。イギリス本国軍は大慌てで防衛に戦力を回して対応を試みる。ここにインド最大の激戦が繰り広げられた。
「迫撃砲と重擲弾筒の支援を下に突撃する! 着剣!」
ガチャガチャ…
「まだ行くな! 機関銃は掃射せよ! 手榴弾は投擲するんだ!」
「なんですか! 聞こえませーん!」
「何とか聞け!」
カルカタを目の前にしてイギリス本国軍の頑強な抵抗に遭う。流石に前線拠点を構えている以上は生半可ではいかなかった。歩兵砲と機関銃の陣地が構築されて突撃を明確に拒絶する。海上から攻略部隊を送り込む都合で重装甲の機甲部隊は投入できなかった。それ以前に機甲部隊はビルマから総攻撃の最中で余剰が存在しない。石原莞爾の命によりインドを制覇せんとエンジンを轟かせた。
したがって、敵陣突破は日本軍らしからぬ力攻めが行われる。このために精鋭部隊を集結させた。彼らはニューギニアの山岳地帯を電撃的に走破した強者である。1日で数十キロを踏破せしめた。彼らの装備は軽装と言わざるを得ない。高火力は迫撃砲と重擲弾筒に限られたが、士気は有頂天に達してイギリス軍を脅かした。
「そら砲弾が飛ぶぞ」
「軽機関銃はよいか!」
「いけます! いけます!」
「よし、次の弾着より突撃を行う!」
「無茶苦茶だぜ。まったく」
「だからこそ面白い」
敵軍は旧式化の著しいルイス軽機関銃を持ち出す。コンクリートに固められた陣地は少数と雖も機関銃の掃射は侮れなかった。これに25ポンド砲など野砲も到着して突撃を許さないと言わんばかり。日本軍も負けじと81mmと60mmの迫撃砲、40mmの重擲弾筒を叩き込んだ。迫撃砲は世界的な兵器だが重擲弾筒は画期的を極める。歩兵が携行できる火器としては優秀どころでなく、その一撃は50mm級迫撃砲に匹敵するにもかかわらず、日本兵が一人で効果的に運用できる程に簡便化された。この名手は敵を直接に視認せずとも敵陣を吹っ飛ばす。木や岩に固定して直射を試みる者まで現れた。
「どけぇ! どけぇ!」
「なんだ? 少しは礼儀を…」
「臼砲が通る! 弾着に巻き込まれたくなかったら止まれぇ!」
「おっと、こいつは危ない。突撃は一時中止だ!」
「はい!」
「こりゃまずい。伏せろぉ!」
迫撃砲と重擲弾筒の砲撃に軽機関銃の掃射が加わる。インドの過酷な大地でも簡便な兵器は有効に働いた。迫撃砲と重擲弾筒が高い面性圧力を発揮して着弾の度に敵兵の悲鳴が耳に入る。有効範囲は野砲に匹敵するが高精度を捨てている以上は精密に期待できなかった。それこそ軽機関銃による弾幕の出番だが射手の負担は大きい。大和魂を滾らせて突撃するところで静止が入った。
「いくぞ! これぞ攻城兵器なりぃ!」
「耳をふさげ!」
「衝撃に備えろぉ!」
一様に地面に突っ伏して両耳を塞ぐ光景に異様を覚えるが至極当然の反応だ。日本軍は高い機動力を有する攻城兵器を開発する。それは九八式臼砲といって旧態依然とした臼砲と思いきや、最新のロケット技術を含めることで、大口径と簡便の両立に成功した。歩兵が数名で運搬可能な木製台座に砲弾の構成はシンプル。大発でも運搬できて奇襲兵器にもってこいだ。唯一の弱点としては迫撃砲にも劣る射程距離で接近する必要が呈される。ロケットの改良により射程距離の延長を図るが微々たるものに止まった。
しかし、いざ着弾した際の破壊力は艦砲に匹敵しよう。両耳を塞がなければ鼓膜がギタギタに破れた。その衝撃波は半径数十メートルに達して身体を硬直させる。何よりも人間の本能たる恐怖心を呼び起こした。味方にとっては心強いことこの上ないが敵方にとって大災厄に括られる。これが数発も撃ち込まれては堪らずと退避を始めるがみすみす逃すはずがなかった。
「突撃ぃ!」
敵機関銃と歩兵砲の弾幕が落ち着いた瞬間を狙って銃剣突撃を敢行する。各々の好きな言葉を雄叫びに変えた。天皇陛下万歳や大日本帝国万歳は鉄板である。出身地の方言も混じった。イギリス兵にとって異国の言語が濁流が如く聴覚に流れ込んでくる上に小銃に着剣して突っ込んでくる。
「機関銃陣地を制圧せよ! 手榴弾投げろ!」
「不発弾は勘弁してくれよ!」
「おりゃー!」
目ぼしい遮蔽物で一旦静止すると機関銃陣地を睨んだ。機関銃とは恐ろしい。銃剣突撃を片っ端から薙ぎ払った。味方の迫撃砲と重擲弾筒の支援砲撃は継続中だが精度には期待できないことは前述の通り。コンクリートのトーチカだけでなく土壁を拵えて衝撃波と破片から兵士を守った。イギリス本国軍の矜持と言わんばかり、植民地軍と異なり、少し退避すれど戦意は衰えない。
小隊単位で手榴弾を投げ込んで一時的な制圧を試みた。手榴弾は携行性を重視した小型化で破壊力は旧型より劣る。数量を投げて面制圧力を底上げするが掃射は続けられた。まさに死に物狂いの抵抗に遭っている。カルカタを前に攻撃は停止を余儀なくされ、数十メートル進むことが精一杯では態勢の立て直しを許し、カルカタの前線拠点を制圧して機甲部隊がインパールから雪崩込む計画が破綻した。機甲部隊が逆に包囲されて壊滅は笑えない。
「歩兵のお守りは戦車の仕事だい。どきなぁ」
「遅いぜ。まったくよぉ」
「すまねぇ。道路が混んでいてな。機関銃陣地は任されたぞ」
「チハが来た! チハに続けぇ!」
「いよっしゃぁ!」
「手榴弾はまだあるぞ!」
ダイヤモンドハーバーに揚陸艦が大集結して各方面へ振り分けた。カルカタ攻撃に歩兵中心で軽装の部隊は困難を認める。ニューギニアの山岳地帯突破は奇跡なんだ。そう何度も繰り返されては教訓にならない。したがって、後続組は上陸から直ちに前線へ急行した。敵陣を前に前進も後退もできないと聞いて救援せずしてどうする。
ダイヤモンドハーバーから到着したのは旧式化したチハ改の群れだ。すでに前線から退いて後方の警戒や内地の訓練に使用される。現行の主力中戦車に比べて火力と防御力は遥かに劣った。しかし、信頼性は極めて高く数百キロを走破しても故障しない。隘路をスイスイと走破できる機動力は未だ健在で侮れなかった。さらに、小型デリックで揚陸可能な簡便性が強襲に適している。
「突っ込めぇ! チハの足は速い!」
「その機関銃は踏みつぶしてやるわ!」
「チハが来ればこっちのもんだ。いくぞ!」
チハ改は47mm速射砲を振り回した。対戦車と対地を両立した傑作戦車砲が猛威を振るう。重機関銃の掃射は50mmの装甲が阻んだ。37mm歩兵砲が徹甲弾を装填しても変わらない。エンジンを轟かせて無理矢理に突破口をこじ開けた。前大戦時から戦車が歩兵に与える圧力は尋常じゃないと相場が決まっている。あれだけ頑強な抵抗を見せて来たイギリス兵は持ち場を放棄して遁走を開始した。機関銃は鹵獲せず踏み潰す。敵兵は捕虜にせず車載機銃がハチの巣に変えた。何かに隠れている物と者は榴弾が破砕する。
「背中を見せたらいけねぇ」
「頭だ。頭を撃て」
「無茶言わないでください。そんな芸当は小隊長しかできないんです」
「そうか。九九式は良い小銃だから簡単に当てられるんだがな」
「俺たちは自動小銃なのに隊長だけ小銃って」
「弾は一緒だから良いだろう。私に半自動小銃はに合わず、中隊長が認めてくれた」
歴史に埋もれる英傑はここにもいた。名もなき兵士と言うが軍内では有名な射撃の名手である。半自動小銃が普及した現在においても十六葉八重表菊を刻んだ小銃を頑なに手放さなかった。小隊長が旧態依然とした小銃を抱えて部下が最新鋭の半自動小銃はチグハグであるが、弾薬自体は同一で軽機関銃も共通のため、特段支障は来さないと追認を得る。
「カルカタ一番乗りを目指す。遅れるな!」
続く




