第109話 大東亜決戦機
新型爆撃機を背にしている。
「辻閣下のご命令だ。イギリス海軍の栄光を再び沈めてやる。全機発進だ!」
アンダマン・ニコバル諸島は日本軍の制圧下に置かれた。イギリス領セイロン島に対する前哨基地と機能すべく飛行場が整備される。海軍の飛行艇基地が設けられるも基本的に陸軍の担当とした。セイロン島に対する強行偵察や爆撃を行う拠点である。イギリスとの一時停戦が引き千切られるとB-24が飛来することが増えて鐘馗や武装司偵、襲撃機といった迎撃機が飛び立った。
今日は大東亜決戦機の華々しいお披露目とする。
いつも通りに哨戒飛行中の二式大艇が対艦電探で艦隊をキャッチした。インド洋に展開する友軍艦隊は輸送船団を除いていない。したがって、対艦電探の反応を敵艦隊と断定したいが念のために司偵の確認を挟んだ。この間にアンダマン・ニコバル諸島の航空隊は対艦攻撃の用意を進める。
「敵艦隊は装甲空母4隻を集中した。戦艦は見られない。きっと海洋から艦載機を飛ばして地上部隊を攻撃するつもりだ。我々はそれを恒久的に阻止しなければならない」
「質問があります」
「なんだ。言ってみろ。打ち合わせは済ませているはずだが」
「誘導弾は使わないのでありますか。飛龍は誘導弾母機となり得ました」
「あぁ、そうか、すまなかった。伝え忘れていたよ。我々の雷撃よりも前に呑竜が反跳爆撃と誘導弾を用いて護衛艦と言う堀を埋める。確かに誘導弾の母機を務められるがせっかくの雷撃能力を捨てるのは考えものだ」
「よくわかりました。ありがとうございます」
陸軍航空隊は新たに高速爆撃機の系列である飛龍を運用した。2000馬力級エンジンを得て高速性を増している。それ以上に洗練された機体形状と新型の四枚プロペラにより軽快な機動性を有した。爆弾などを持たない状態であれば曲芸飛行も行える。そのような高性能な高速爆撃機を対艦攻撃に用いる以上は相応の仕事でなければ釣り合わなかった。
飛龍は陸軍機としては唯一無二の航空雷撃が可能である。最初から魚雷吊架装置を備えているため海軍の航空魚雷を携行できた。飛龍を開発した三菱社は一式陸攻の航空雷撃を幾度となく経験している。三菱のノウハウがギッシリと詰め込まれると究極的な高速爆撃機が誕生した。
陸軍の爆撃機乗りの中でも粒ぞろいの精鋭に与えられる。彼らは海軍航空隊のT部隊に教導を受けた。T部隊を考案した源田実も陸軍航空隊の航空雷撃に賛同してくれ、海軍の全面的な協力を得て陸軍唯一の航空雷撃を専門としており、急降下爆撃などつまらない仕事は割に合わない。
「今日の出撃には四式戦の疾風と五式戦も同行してくれる。スピットファイアだか、なんだか知らんが、ジョンブルの戦闘機は敵じゃない」
「一式戦じゃないのか…」
「無茶言うな。熟練された職人がのれば手が付けられない。自分を餌にしておびき寄せたかと思えば一気に食らいつくんだ」
「おい。聞こえているぞ」
「こりゃ失礼」
「安心しろ。一式戦にいじめ尽くされた若手が四式と五式を操縦する」
「ほ~う」
「一式と二式は敵空軍基地襲撃に向かった。こちらの迎撃は少ないかもしれんな」
飛龍は爆撃でも水平爆撃と緩降下、急降下を備えて反跳爆撃を追加した。これに航空雷撃が加わったことで究極的な爆撃機が誕生しよう。陸軍航空隊は対艦誘導爆弾を用いることで知られた。航空雷撃を捨ててまで対艦誘導爆弾に拘る必要はない。対艦誘導爆弾は従来の高速爆撃機に任せた。せっかくの航空雷撃を捨てる意味がわからない。しかし、中型爆撃機の航空雷撃は緒戦と打って変わってハイリスクが呈された。
飛龍隊の護衛に同じく最新鋭の四式重戦闘機『疾風』と五式戦闘機(仮称)を投じる。陸軍は海軍よりも多種多様な戦闘機を運用することで有名だ。一式の軽戦闘機と重戦闘機から端を発する。インターセプターの局地戦闘機も合流して混沌としているが、主力戦闘機は一式軽戦闘機『隼』と三式中戦闘機『飛燕』が務め、つい最近に四式重戦闘機『疾風』が加わった。
「せいぜい、期待させてもらおうぞ」
~そのころ~
爆撃機がミーティングを行っている頃に戦闘機隊は発進の時を待つ。
「爆撃機のお守りかい。ジョンブルやヤンキーの戦闘機と真っ向勝負を挑むことが好きなんだけどなぁ」
「そういうが飛龍は大東亜決戦機に含まれる。俺たちの疾風と兄弟だから我慢しろ」
「兄の我慢かいな。俺は一人っ子だがね」
「俺もだ。うちのお袋は俺を生んで直ぐに死んじまった」
「悪い」
彼らの後方には質実剛健な四式重戦闘機の疾風が鎮座した。暖機運転など要らないのか不安になるが潤沢な燃料と潤滑油、その他部品により一定の稼働率を確保する。暖機運転も省略しても大丈夫な程の頑丈を得た。疾風は中島が世に送り出した戦闘機である。同社はドイツのFw-190を研究して得られた知見を注入した。基本に忠実な設計が組まれている。一式軽戦闘機と二式重戦闘機の複合と見ることもできた。
二式重戦譲りの堅牢さから高速域の急旋回や急降下を行っても機体はビクともしない。それでいて中島の誇るフラップを活用すれば一式軽戦程でないが俊敏な機動を行えた。米軍機と互角かそれ以上の最高速と軽快な機動性、頑丈な機体の三拍子から最優秀の呼び声高い。あまりの高性能から陸軍より前述の高速爆撃機を含めて大東亜決戦機の渾名を与えられた。
武装はオーソドックスに機首12.7mm機関砲2門と主翼20mm機関砲2門の計4門である。12.7mm機関砲は威力不足が指摘されるも優秀な弾道と弾数の多さからバランスに優れた。威力不足に関してはマ弾と呼ぶ炸裂弾から埋められる。それでも若い兵士からは一度の好機で一撃に仕留められる火力を欲した。一式戦五型同様に機首を20mm機関砲に換装する試みは各地で見受けられる。
「よ~し。今日はイギリスの紳士をぶん殴るぞ。いいか? 敵の新型機は強力だが俺たちはそれ以上だ」
「一緒に飛ぶ教官たちはどうですか」
「そんなもの聞くもんじゃない。俺たち以上だな」
「負けてるじゃないですか」
「そりゃ、あれだぞ。中華内戦から戦ってきた御仁の集団だからな。九七式に乗ったことがあるか?」
「五式戦は遅くていやですわ」
「時速600キロを超えるか超えないか。ここは好みが分かれるところ」
四式重戦闘機は主に若手の新進気鋭が操った。若い兵士たちは意外にも高速だが鈍重な二式戦を好んでいる。この発展形である四式戦に乗り換えることは必然的と綴った。二式戦よりも機動性は改善されていると雖も操縦桿をグッと力強く動かさなければ思うように動かない。したがって、中華内戦から九七式戦闘機を操って一式戦に慣れたベテランたちは良い顔をしなかった。
それではと言うと、ベテランたちは五式戦闘機(仮称)を愛用する。五式戦闘機自体は正式な名称でなかった。石原莞爾の下で自由な改造が認められたことに伴う「瓢箪から駒が出る」を体現する。なんと本体は三式中戦闘機『飛燕』を素体にしていた。三式中戦闘機は一式重戦闘機の後継と液冷エンジンの重戦闘機と開発されて現在も運用中で活躍している。あいにく、液冷エンジンは空冷エンジンに比べて不慣れなため、高性能にもかかわらず現場の評価は芳しくなかった。石原莞爾のお墨付きでどうにか続いている。どうにもこうにも、開発現場も好奇心からか空冷エンジンへの換装を試した。
これが想定外に良い数値を叩き出すと即座に陸軍から承認を得る。技術者を戦地へ派遣して現地でエンジンを順次と換装していった。若手たちは最高速の低下を嫌ったがベテランは操縦性の改善から大歓迎を示す。四式戦闘機よりも優秀と称して若手とベテランに対立が生じるも敵機の撃墜数で競うことで平和的な決着を試みた。
「それでは参るとしよう。ジョンブルの魂をへし折ってやる」
続く




