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8、限界

 次から次へと明かされる、自分がしてきたこと。

 それらは、心の奥深くまで突き刺さって、私を押しつぶそうとしていた。




 もう、限界だった。


 (今の私は、そんなことしない……)


 (誰も傷つけない。静かに、穏やかに生きたいだけなの……)



 許されなくていい。


 償いもできないかもしれない。




 でも、せめて――せめて、そっとしてほしい。


 ただ、静かに過ごしたい。これ以上、誰も傷つけたくない。


 そう願ったその夜、私は熱を出した。


 


 おそらく、精神的な疲労のせいだったのだろう。身体が重く、目の奥がじんじんと痛んでいた。


 寝返りを打つ気力もなく、ただ浅い眠りと目覚めを繰り返す。


 


 そのうちに、誰かが部屋に入ってくる気配がした。


 足音を立てず、音も立てず、静かに。


 私はうっすらと目を開ける。霞んだ視界の向こうに、見慣れた姿が見えた。


 ユリウスだった。


 


 彼は、何も言わなかった。


 ただ黙って、私の額に冷たいタオルを置き、


 顔に張りついた髪をそっとかき上げ、


 水差しから注いだ水を、唇に運んでくれた。


 


 私は、もう何も考えられなくて。


 意識の奥で、ひとつだけ、言葉を紡いだ。


 


 「……ごめんなさい……」


 「……覚えてないけど……ごめんなさい……それしか……言えない……」


 


 それだけを呟いて、私は再び眠りに落ちた。



 瞼が落ちるその瞬間――


 ぼんやりとした視界の中で、ユリウスの瞳がわずかに見開かれたのが、見えた気がした。


 


 まるで、何かに心を揺さぶられたように。



 


 


 ――朝になって、目を覚ましたとき。


 


 ユリウスの姿は、もうどこにもなかった。


 私は、静まり返った寝室の天井をぼんやりと見つめながら、昨夜のことを思い出そうとする。


 


 (あれは……夢だったの?)


 


 そう思ったとき。


 


 ふいに、頭の上から何かが滑り落ちた。


 濡れたままのタオル。


 熱を持った私の額にかけてくれていたものだ。


 


 (……夢じゃない……)


 


 胸の奥が、少しだけきゅっと締めつけられる。


 


 (どうして……?)


 


 疑問だけが、ぽつりと心に残る。


 そして――


 (私は、彼に……何か、言ったような……)


 


 思い出そうとしても、記憶は霧の中に消えてしまっていた。


 


 ......その夜、ユリウスは来なかった。

 静かすぎる夜が、かえって胸に痛かった。



読んでいただきありがとうございます!

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