65.5、ユリウスとレオナルド②(sideレオナルド)
以前投稿したユリウスとレオナルドの続きです。
ユリウスとの会話を終え、彼は再びミレイナの元へと戻っていった。
その背中を静かに見送りながら、レオナルドは先ほどの言葉を思い返す。
「……それも含めて、愛していますから」
その言葉に嘘はないのだろう。
ユリウスの表情を見れば分かる。
ミレイナへ向ける眼差しも、声も、すべてが愛情に満ちていた。
ただ――。
ミレイナ。
俺は、やっぱり過去の自分を赦せそうにないんだ。
レオナルドは、深く息を吐く。
幼い頃のミレイナは病弱で、屋敷の外へ出ることすらほとんどできなかった。
「お兄様?」
ある日。ベッドの上で本を読んでいたミレイナが、小さな声で尋ねてきた。
「この前のパーティーは楽しかったの?」
「ああ。音楽も料理も豪華だったよ」
「……そうなんだ」
少しだけ寂しそうに笑ったあと、彼女は窓の外を見つめた。
「私も、いつか行けるようになるかな」
「もちろんだ。その時は俺が一緒に連れて行く」
「本当?」
「ああ、約束だ」
その時に見せた笑顔を、今でも覚えている。
両親は少しでも娘が笑ってくれるならと、欲しいものを惜しみなく与えた。
俺も、それが当たり前だと思っていた。
やがて病も落ち着き、社交界へ姿を見せるようになると、人々は彼女を褒め称えた。
「なんてお美しい方なの」
「さすが公爵家のご令嬢ですわ」
「まるで妖精のよう……」
誰も彼女を否定しなかった。
美しさも、才能も、生まれも。すべてを持っていた彼女は、賞賛されるのが当たり前だった。
そのせいだろうか。
成長したミレイナは、自信に満ちた我儘な令嬢になった。
「欲しいものは全部手に入れるわ。そのためなら、手段なんて選ばない」
そう真っ直ぐに言い切る姿は、呆れるほど堂々としていた。
それでも、あの頃のミレイナは一線だけは越えなかった。
強引ではあっても、人として踏み外してはいなかった。
だからこそ、それも彼女らしさなのだと思っていた。
それにミレイナは、俺に対してだけは素直だった。
外では気丈に振る舞っていても、家では嬉しそうに新しく手に入れたものを見せに来たり、他愛ない話をしたりする。
あんな表情を見せるのは、きっと家族だけだったのだろう。
……可愛い妹だった。
だからこそ、変化に気づくのが遅れた。
ユリウスに執着するようになってから、ミレイナは少しずつ歪み始めていた。
止められる機会はいくらでもあったはずなのに。
俺は兄でありながら、それを見過ごした。
気づいた時には、すべてが手遅れだった。
ユリウスを傷つけ。
その婚約者を傷つけ。
そして、自分自身までも壊してしまった。
……それなのに。
なんという皮肉だろう。
今では、ミレイナとユリウスは幸せそうに笑っている。
兄としては喜ぶべきなのだろう。
それでも胸の奥には、どうしても拭えない痛みが残る。
あの頃、もっと早く止められていたなら。
そんな後悔だけは、今も消えてくれない。
だが、それでも。
二人が選んだ答えなら、もう俺が口を挟むことではない。
ただ、一つだけ。
どうしても引っかかることがあった。
「昔のミレイナと、今の彼女はまるで違う」
「もしかしたら、今の彼女が本当の彼女だったのか、とさえ」
ユリウスはそう言っていた。
それはつまり――。
もし、もしだ。
ミレイナの記憶が戻ったら。
もし、過去のミレイナが戻ってきたら。
……彼は、それでも同じ言葉を口にできるのだろうか。
俺は、それだけが気がかりだった。
不穏な締めで申し訳ありません。二部の布石です。いつか書きます。




