表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】悪女だった私は、記憶を失っても夫に赦されない  作者: ゆにみ
間章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/85

ユリウス・エルフォードの独白③

 「……赦さないって、言われたわ」 


 ノクテリアから戻った夜。

 寝室で並んで横になっていたとき、ミレイナが視線を伏せて、ぽつりと零した。


 胸の奥が、鈍く痛む。

 過去は変えられない。あの頃の彼女が犯した罪が、重いものであることも。


 「......でも、当然だと思う。私は、それを受け入れなきゃいけない」


 俺も、あの過去を赦せない。

 それでも――彼女と共に生きると決めた。


 「……そうだな」


 短く返した声に、ミレイナの表情が揺れる。


 「ねえ、ユリウスもそう思ってるんでしょう?……このままで、いいの?」


 「……ああ、過去の君が犯した罪は、たしかに重い。赦せないこともある」


 息を整え、言葉を選ぶ。


 「でも――今の君は、あの頃の君とは違う」


 「……いつの間にか、君を愛していた。気づけば、もう心が離れられなくなっていた。それが……事実だ」


 過去の彼女への恨みは消えない。

 人生を壊されたと言っていいほどの痛みも、今も残っている。


 それでも――今のミレイナを、愛してしまった。


 「私が、記憶を取り戻しても?」


 その問いに、即答はできなかった。

 だが、嘘もつきたくない。


 「どうだろうな。でも……今の君なら、記憶を取り戻しても、前と同じにはならないと思う」


 「君は変わった。自分と向き合って、何かを選ぼうとしている」


 「だから……俺は、もう君を手放せない」


 「……そう。そうだと、いいな」


 掠れた声だった。

 俺は手を伸ばし、躊躇うより先に――彼女の指が、俺の手を包んだ。


 胸が、強く掴まれたようだった。


 返事の代わりに、そっと口づけを落とす。

 重なる呼吸。離れ際、細い銀の糸が引いて、理性が揺らぐ。


 (……もっと、触れたい)


 欲が、疼く。

 だが、嫌がる彼女に無理やり触れた過去が、脳裏をよぎる。


 (……違う。今は)


 求められるまで、踏み込まない。


 もし、またミレイナを傷つけることになったら。

 俺は、もう二度と自分で自分を赦せなく自信があった。


 (……耐えろ)


 理性で、その衝動を押し留めた。


 そのとき、ミレイナが苦しげに眉を寄せた。


 (......いやだったのか......?)


 冷や汗が額を伝う。

 そして、ミレイナが俺の寝衣をつまみながら、小さく尋ねる。


 「……もう、それ以上はしたくないの?」


 血の気が一気に引くようだった。


 「ちがう。……そんなわけ、ない」


 俺は......彼女を気遣っているつもりで、不安にさせていたのか......?


 「ごめん。不安にさせて……」



 深く息を吸い、続ける。



 「ずっと後悔していたんだ」


 「前に――記憶をなくした君に、俺は酷いことをした。無理矢理……」



 視線を逸らさず、言い切る。



 「だからこそ、今は……大事にしたいと思ったんだ」


 

 「ちゃんと、君の心が向いたときに……そうしたかった」


 

 「今度こそ、大切にしたかった」


 言葉を吐き出すと、胸の奥が少し軽くなる。


 本当に......俺は愚かだ。


 彼女のことを本当に思うのなら、まっすぐに思っていることを伝えればよかったのだ。

 俺たちは、夫婦なのだから。


 ミレイナ......君のことを、どうしようもなく求めているって。


 彼女の瞳が僅かに揺れる。


 「……なら、もう我慢しないで」


 「私も……ユリウスを求めてる。今の私の意思で……あなたが欲しいの」


 ――ああ。


 最後の理性が、音を立てて崩れた。


 彼女を強く抱きしめる。

 壊れそうなほど、熱を込めて。


 (……ミレイナ)


 唇が重なる。

 確かめるように、何度も、深く。



 理性が崩れたあと、もう抑える理由はなかった。

 ――ミレイナが欲しい。

 

 

 (ミレイナ......ミレイナ......っ)


 これ以上の言葉は要らなかった。


 唇が重なり、互いの存在を確かめるように、何度も、深く求め合う。

 そのたびに、肌が熱を帯び、呼吸が重なっていく。


 これは、呪いかもしれない。

 あるいは、洗脳に近いものかもしれない。


 それでも、この瞬間に感じている想いは、確かに俺のものだ。


 過去の俺がどう思おうと構わない。

 この想いは、否定させない。


 消えない恨みも、

 消せない過去も。


 それでも――

 記憶を失った彼女自身に、強く惹かれてしまった。


 もう、彼女なしには生きていけない。


 肌に触れるたびに、熱を帯びていく。

 熱と息遣いだけが、世界のすべてだった。


 「……愛してる」


 「私も……ユリウス、あなたを……」


 言葉の続きを待つことはなかった。

 俺たちは、深く、確かに繋がった。


 それは甘く、熱く、逃げ場のない夜。


 ――赦せなくても、愛していい。


 そう思えた、初めての夜だった。

ユリウスの愛は、救いであると同時に、

ミレイナを縛る鎖でもあります。


彼自身は、それを「愛」だと疑っていない。

だからこそ、無自覚で、逃げ場がない。


もし、ミレイナがそのことに気づいたら——


これは、また別の地獄の物語になるでしょう。

もしかしたら第二部書くかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ