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【本編完結済】悪女だった私は、記憶を失っても夫に赦されない  作者: ゆにみ
番外編

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嫉妬と甘噛み

変わらぬ光(sideリシュアン)のミレイナ視点での続きです。

 私とユリウスはガーデンパーティに参加していた。



 庭園を彩る花々が風に揺れ、華やかな音楽が流れる。

 パーティの空気は穏やかで、どこか浮き立つような雰囲気があった。



 ユリウスは挨拶のために一時席を外している。

 私は庭の片隅で花を眺めていたところで――いつの間にか隣に立っていたリシュアン様と会話を交わしていた。


 

 「ミレイナちゃんは、昔から綺麗なものが好きだったよね」


 「そうなの?」


 「うん。美しいものは、特に」


 「そっか……そうなんだ。ふふ」



 自分の知らなかった一面を知れるのは、なんだか嬉しい。

 今までは、過去の自分の罪ばかり暴かれてたから……



 ふたりの間にあたたかな空気が流れる。


 

 ……その瞬間、背後から鋭い気配が走る。



 振り返ると、そこにはユリウス。

 不機嫌を隠さぬ赤い瞳で、まっすぐにこちらを射抜いていた。




 「……随分と、楽しそうだな」



 彼は無言で私の手を掴み、ぐいと引き寄せる。

 腕の中に抱き込まれたまま、私はただその心臓の鼓動を聞いていた。



 (......これ、もしかしなくとも、嫉妬、よね......?)




 心のどこかで、ほんの少しだけ、嬉しいと思ってしまった。

 けれど――彼が本当に恐れているのは、もっと深いものなのだと、この後すぐに思い知らされる。





 


 パーティーが終わった帰り道。

 馬車の中で隣り合った私とユリウスは、手を繋いだまま。



 ただし――彼は固く握りしめ、ぴったりと体を寄せているのに、言葉は一切発さない。



 (……怒ってるの? それとも……)



 沈黙の重さに耐えかね、屋敷に着いた瞬間、私は馬車から降りようとした。

 けれど次の瞬間、身体は宙に浮かび、ユリウスの腕に抱え上げられていた。



 「……っユリウス!?」



 驚きに目を見開く私をよそに、彼は何も言わず歩を進める。

 真剣で熱を孕んだ眼差しが、私を見下ろしていた。



 そのまま私室に連れて行かれ、ソファーに座らされる。

 ……いや、正しくは彼の膝の上に座らされ、背後からしっかりと抱きすくめられていた。



 (ええっと、これは......どういう状況......?)




 「……あの、ユリウス?」


 「……」


 「もしかして……拗ねてる?」



 彼の腕がわずかに強張る。

 図星らしい。



 沈黙がしばらく落ちた後、ようやく低い声が耳元に落ちてきた。



 「……ああ」



 そのまま私の肩に顔を埋め、ぎゅっと強く抱きしめてくる。



 「君にその気がないのは、わかっている」

 「でも……君と公爵は、昔から距離が近かったから。つい……」


 「......ユリウス」


 

 こんなに不器用に、嫉妬を口にするなんて。

 胸がじんと熱くなる。


 そして彼は少し顔を逸らしながら続けた。




 「もともと……君と公爵には、婚約の話が出ていたからな」

 「――えっ!? それ、初耳よ!?」



 私は思わず声を上げる。

 けれどユリウスは不機嫌そうに視線を外したままだ。



 「舞踏会にはいつも彼がパートナーとしていたし......結婚してからも、時々会っていただろう」




 (す、拗ねてる......!)




 あれ、でも......?


 ふと、ふと疑問が浮かぶ。



 「でも、その頃は私のこと……嫌っていたんじゃないの?」


 「……君は、目立つ存在だったからな。嫌でも耳に入ってきた」



 「それに……結婚してからも、仮にも夫婦だったんだ。だから、君が公爵と会っていたのも……知っていた」



 彼はわずかに視線を逸らし、苦く笑う。



 「当時は……君のことを恨んでいた。だから余計に、気になって仕方なかったんだ」



 低く落ちた声が、そこで少し熱を帯びる。



 「――でも、今は違う」



 ユリウスは再びこちらを見て、赤い瞳で射抜く。



 「今は……ふたりでいるところを見るのが、ただ気分が悪い」



 赤い瞳は真剣で、不器用に燃えている。

 そして彼は逸らしていた視線をこちらに戻し、真剣な眼差しで言った。




 「ミレイナ……もう少し気をつけてくれ」


 「……えっと、何を?」


 「君にその気がなくても――あの男は違う。警戒してほしいんだ」



 「だ、大丈夫よ……」



 でも、彼の不安を軽くあしらうことはできなかった。



 「……わかったわ。気を付ける」



 私の返答に、彼はようやくほっと息をつく。

 そして――



 「……笑っていた」


 「え?」


 「あんな顔、俺以外には見せないで欲しい」



 次の瞬間、強く抱きしめられる。

 腕の力に、息が詰まるほど。



 「……ユリウス」


 

 その不器用さが愛おしくて、私も彼の腕にそっと手を添えた。



 「今夜は......覚悟してくれ」

 「もう……いつもじゃない」



 そう言って笑った私を、彼は抱きしめて離さない。

 


 首筋に、ふいに甘えるような歯の感触が触れ――思わず小さく声が漏れた。



 「……っユリウス!」

 「今のは、君が悪いからな」



 囁き声は低く熱を帯び、私の心をすべて掻き乱していく。

 

 ――今夜はきっと、眠らせてはくれない。

甘噛みは愛情表現(本人談)

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