変わらぬ光(sideリシュアン)
今日はガーデンパーティー。
ミレイナちゃんとユリウスも、パーティーに参加していた。
ユリウスは挨拶回りに出ているのだろう。庭の一角で、ミレイナちゃんがひとり立っていた。
ふらりと歩みを進めた彼女が、ふと足を止め、しゃがみ込む。
(……何を見ているんだろう)
気になって、つい声をかけた。
「ミレイナちゃん、何を見ているの?」
突然の声に肩を震わせ、振り返るミレイナちゃん。
「……リシュアン様?」
「気になってね。何を見つめていたのかな」
「……この花が、きれいだなぁって思って」
視線の先には、淡いピンクの薔薇が咲いていた。
確かに綺麗だ。いや――美しい。
「ふふ、そうだね」
彼女はふわりと微笑んだ。
その笑みに、胸が揺れる。
(……あ)
たしかにミレイナちゃんは記憶を失ってから変わった。
けれど、変わらないものもあるのだと気づく。
「ミレイナちゃんは、昔から綺麗なものが好きだったよね」
「そうなの?」
「うん。美しいものは、特に」
「そっか……そうなんだ。ふふ」
あたたかな空気が流れた気がした。
でも、そのとき――背後に、鋭い気配。
まるで首筋に冷たい刃を突きつけられたような感覚。
振り返ると、そこに立っていたのは。
「……公爵」
「……あ、ユリウス」
不機嫌を隠すことなく、ユリウスがこちらへ歩み寄ってくる。
次の瞬間、彼は迷いなくミレイナちゃんの手を取り、ぐいと自分の方へ引き寄せた。
「……随分と、楽しそうだな」
「……っユリウス?」
「席を外している間に、一体何を?」
腕の中に抱き込むようにして、俺を睨みつける。
その目には、露骨な敵意と――独占欲が滲んでいた。
「ただ、花を眺めていただけだよ。……ね、ミレイナちゃん?」
「そ、そうよ……」
ユリウスは小さく息を吐き、そっとミレイナちゃんの肩を抱き寄せる。
「……そういうことにしておきましょう」
「妻を見ていてくださり、感謝します」
その声音は礼儀を装いながらも、明らかに冷たい。
「……うん、こちらこそ」
俺はそれ以上言葉を重ねず、その場を離れた。
(……ふたりは、もう確かに“夫婦”なんだな)
少しほろ苦さは感じたけれど、不思議と気分は悪くない。
変わったと思っていた君にも、変わらない部分があった。
たったそれだけで――救われる気がした。
……ただ、彼の嫉妬を目の当たりにして、ようやく悟る。
君はもう完全に“彼のもの”なのだと。
(君の笑顔が、見れてよかったよ)
ありがとう、ミレイナちゃん。
俺に恋を教えてくれた、たったひとりの人。
ようやく俺も前に進めそうだよ。
だからどうか、幸せでいてね。
初恋の始まりと終わり。
切なくて、美しい。




