エピローグ・アフター「もう、抑えられない」
ユリウス視点、エピローグの続きです。
まだ、朝は静かだった。
ミレイナの寝息が、小さく規則的に聞こえる。
ユリウスは、そのぬくもりを腕に感じながら、目を細めた。
この胸の中に、彼女がいる。それだけで、心が落ち着く。
けれど――
(……もう、限界かもしれない)
昨夜、ミレイナは確かに自分を受け入れた。
自分から求めてくれた。
そして、ユリウスもまた、その想いに応えた。
それは――“心”が交わった夜。
(それで……充分なはず、なのに)
けれど今、ユリウスの中に疼いているのは、もっと――
本能的で、抑えようのない欲望だった。
欲しい。
もっと触れたい。
もっと、奥まで彼女を感じたい。
ただ抱くだけじゃ足りない。
すべてを、ミレイナのすべてを、自分のものにしたい。
(……どれだけ想ったら、満たされるんだ、俺は)
無防備に眠るミレイナが、ふとまつげを揺らす。
そして、小さく寝返りを打つように、ユリウスの胸元へと身体を預けてきた。
その瞬間、呼吸が止まりそうになった。
柔らかい髪が頬をかすめ、吐息が肌に触れる。
それだけで、全身が熱を帯びてくる。
(……くそ)
駄目だ、抑えろ……まだだ……。
「……ミレイナ」
逸る気持ちを抑えるように、耳元でそっと名前を囁く。
すると、長いまつげがふるふると震え、ゆっくりと瞳が開いた。
「……ん、ユリウス?おはよう......」
寝起きの声は甘く、熱を帯びている。
その声音だけで、何かが決壊しそうになった。
「......おはよう、じゃない」
ユリウスは、かすかに息を吐いて言った。
「そんな顔で寄り添ってきて……俺が、何も思わないとでも?」
ミレイナが、瞬きをする。
寝ぼけ眼のまま、少し頬を染めて口を開いた。
「……ふふ、じゃあ、どうするの?」
その一言で、もう理性は残っていなかった。
ユリウスは、彼女の肩をそっと押し、ベッドへと沈めた。
そのまま、迷いなく唇を重ねる。
「……もう、我慢しない」
ミレイナの目がわずかに見開かれるが、抗う気配はなかった。
むしろ、彼女も同じように、望んでくれているのがわかる。
「君が俺を求めてくれたこと、嬉しかった」
「でも……次は、俺から君を求めさせてほしい」
その声は低く、熱く、そして優しい。
ミレイナは、何も言わず、ただ頷いた。
その仕草があまりに愛しくて、ユリウスはそっと彼女の頬にキスを落とした。
「もう一度、ちゃんと……俺のものになって」
唇が、首筋へ。鎖骨へ。
指先が、ゆっくりとミレイナの髪を撫で、背をなぞる。
触れるたび、彼女の身体が小さく震える。
「ユリウス……っ」
甘く、震える声。
その声が、ユリウスの最後の理性を吹き飛ばした。
もう、誰にも触れさせない。
過去がどうであれ、記憶が戻ろうとも、彼女はもう、手放さない。
何度でも、深く、深く刻みつける。
赦せない気持ちも残っている。けれど、愛することは、もう迷わない。
(もっと……深くまで、君に俺を刻みつけさせて)
「ミレイナ、愛してる……」
そして――
朝の光に包まれながら、
ふたりはまた、心と身体を重ね合った。
その時間は、静かで、熱くて、永遠のように甘かった。
ヒーローの感情激重っていいよね。




