64、あなたを愛している
……温かい。
どこかで誰かが、自分の名を呼んでいる気がした。
(……ユリウス?)
意識の奥で、その名前が、静かに浮かんでは消える。
胸の奥が、微かに揺れていた。
(私は……)
忘れないと決めた。
罪も、痛みも、過去の自分も。
どうせ、生きるならーー
すべてを抱えたまま、私は、生きる。
重たい瞼を、ゆっくりと持ち上げた。
「……ユ……リウス……」
かすれた声が漏れると同時に、
次の瞬間ーー
「……ミレイナ」
ユリウスが、喉を詰めたような声で呼んだ。
そのまま、ぎゅっと身体を抱きしめられる。
呼吸もできないほど、強く。
「……っ」
思わず目を見開く。
けれど、ユリウスの腕は、少しも緩まなかった。
(……ユリウス……?)
こんなふうに、彼が私を抱きしめるなんてーー。
「怖かったんだ......」
耳元で、震える声が落ちてきた。
「二度と……目を覚まさないんじゃないかと、思った」
肩に、熱いものが落ちた。
それが涙なのか、ただの汗なのかはわからない。
でも、ユリウスの身体が微かに震えているのだけは、わかった。
(……こんなにも、必死に)
胸が、きつく締めつけられる。
「俺の......そばから、いなくなるんじゃないかって」
ユリウスの声が、低く、掠れていた。
首筋に額を押し当てられて、呼吸が肌にかかる。
その言葉がーー
まるで本気で、私を想ってくれているように聞こえて。
嬉しさが、込み上げた。
けれど、それと同時に、胸を刺すような思いがよぎる。
(……そんなふうに、想ってもらえる資格なんて、私には……)
ーーいや。
違う。
私は、もう決めた。
罪を抱えて、生きていく。
赦されなくても、愛していい。
それが、私。
「ユリウス……」
私は、震える声で彼の名前を呼んだ。
ユリウスの腕に、さらに強く抱きしめられる。
「......ああ」
彼の手が、震える指で私の髪を撫でる。
何度も、何度も。
触れずにはいられないみたいに。
「……大丈夫よ、ユリウス」
自分でも驚くほど穏やかな声が出た。
涙が滲む。
でも、もうごまかさない。
(大丈夫)
(私は......もう、逃げない)
しっかりと、彼に伝える。
「私は……あなたが、好き」
「ーー愛してる」
かすれた声で、でも、はっきりと。
それは、誰かに赦してもらうための言葉じゃない。
ただ、今の私の、正直な気持ち。
(……この想いを伝えるために私は戻ってきたんだもの)
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