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【本編完結済】悪女だった私は、記憶を失っても夫に赦されない  作者: ゆにみ
本編

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64/83

63、綺麗じゃなくていい

 「ーーあなたは、私を捨てたいのでしょう?」



 この言葉が、頭の中をぐるぐると掻き乱す。

 私はーー見て見ぬふりをしていたの?



 でもーー



 「……違う」


 ミレイナは、ぎゅっと唇を噛んだ。


 「私だって……本当は、全部知りたい。思い出したい」

 

 「でも、どうしても思い出せないのよ」


 「だから……だから、怖いの。

 自分が、何をしたのかも、どれだけ酷いことをしたのかも、わからないままーー

 でも、“悪い女だった”って、周りから聞かされて......」



 「ふふっ」


 “私”は冷たく笑った。



 「他人から教えられた“悪い女”っていうレッテルで、自分を責めてるのね」



 「覚えていないから、罰も曖昧。でも、赦される資格もないって、自分を追い込んでる」 



 「ねぇ、それってーー楽になりたいだけなんじゃないの?」


 「そうやって“反省してる私”を演じるのは、都合がいいわよね」



 「......違う!」



 「本当に?」


 “私”は、にやりと口元を歪めた。



 「じゃあ、どうして“今の私”でいられることに、そんなに必死なの?」


 「私を捨てて、“別人”として生きるのが、そんなに楽しい?」


 


 「……違う」


 


 「本当に?」


 


 ミレイナは黙り込む。心臓が痛かった。



 (……私は)


 (変わったと思いたかった)


 (でも、本当は……)


 


 「あなたは私よ?」


 “私”は嘲るように笑った。


 「私は、何も後悔してないわ」


 「”欲しいものは全部手に入れる。そのためなら、手段なんて選ばない”」


 「だって、それが“私の正義”だったもの」


 「ーーそれが、私」


 



 「それでもあなたは、私を捨てたいのよね?」



 (……私は)


 (本当は、消えてほしい。こんな自分、いなければいい)



 でもーー。


 それは、きっとただの逃げだ。



 「捨てたいわよ……! 本当は、消えてほしい!」


 声は震えていた。


 「でも……」



 どうしても言葉が続かなくて、唇を噛む。


 私は、あの頃の私と、全部決着をつけたい。

 そのくせ、思い出すのは怖い。傷つきたくない。

 ……矛盾してる。



 「消えないって、わかってる」



 自分の喉から出たその声が、やけに冷たく聞こえた。



 「私が、私を捨てることなんて、できない」



 だってそれは、私が生きてきた時間だ。

 良くも悪くもーー私の全部なんだ。




 「だから私はーーあなたを抱えて、生きるしかない!」


 


 “私”はふっと笑った。



 「それでいいわ」


 「どうせ私は、消えないもの」


 


 「……」


 


 「でも、覚えておきなさい」


 「“私は反省して変わったから、昔の私はなかったことに”ーーなんて」


 「そんな都合のいい話は、許さないわよ」



  


 ミレイナは、静かに目を閉じた。


 (それでいい)


 (私は、私を捨てない)



 あの“私”も私の一部だ。無かったことには、しない。




 (……誰も、私を赦してくれない)


 (ユーフェミア様も、きっと)


 (ユリウスだって、本当は……)


 

 だけど、それでも私は――逃げない。




 私は、自分で自分を赦す。

 それは、逃げるためじゃない。


 赦すというのは、忘れることじゃない。


 むしろ、忘れないと決めることだ。



 

 (楽になんて、なれないわ)


 (だって、赦した瞬間に終わるんじゃない)


 (赦したその時から、私は――罪と一緒に生きていく)


 



 綺麗じゃない私のままで、愛していい。


 罪を抱えても、それでも愛していい。



 それが、私。

 ミレイナ・エルフォードだもの。



 


 伝えたからといって、ユリウスと一緒にいられるとは限らない。


 だって私は、確かにーー悪女だったのだから。



 (……赦されなくても、構わない)



 それでも、私は伝えたい。


 


 「……愛している」



 (伝えなければ、私はまた……自分をごまかしてしまうから)



 罪を抱えて、痛みを抱えてーー私は、前に進む。

 


 




 眩しい光が、視界の隅を白く染めた。


 微かに、誰かが自分の名を呼ぶ声がする。



 (ユリウス……)


 (私は、戻るわ)


 (罪を抱えたまま、生きるためにーー)

 


 そして、あなたに伝えるために。

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