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【本編完結済】悪女だった私は、記憶を失っても夫に赦されない  作者: ゆにみ
本編

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62、私を、捨てたいのでしょう?

 ーーここは、どこ?

 


 目の前に広がるのは、真っ白な世界だった。


 けれど、不思議と見覚えがある。



 (……また、夢の中?)



 そう思った。

 以前、同じ場所で“私”と会ったときと、まったく同じだから。



 そのときーー不意に声が聞こえた。



 「あら、また来たの?」


 

 振り向くと、そこには“私”が立っていた。


 まるで鏡に映したかのような、自分そっくりの姿。


 白銀の髪。宝石のような碧い瞳。

 純白のドレスを纏ったーー“私”




 「そうね」



 自然と声が出る。

 けれど、心のどこかがざわついていた。



 「......あなた、状況がわかっているの?」



  “私”が問いかける。



 (ーーどういうこと?)



 「あなたは、今ーー意識不明なのよ」

 


 ーーえ?


 


 胸の奥が、きゅっと痛んだ。



 (……意識、不明......?)



 そんなはずない、と否定しかけたけれど、体が動かない。

 浮いているような感覚なのに、重たく沈んでいくようだった。

 



 (……本当だ)



 起きようと力を込めても起きることができない。





 けれど、ふと最後の記憶が呼び起こされた。


 


 そうだ。

 あの時、私はーーリシュアン様と話していて。



 そのあと、どこからか声が聞こえてーー


 気を取られた瞬間、庭園の階段から足を踏み外して。



 そのまま、意識が途切れたんだった。

 


 (じゃあ、これは……)


 


 「……夢、なの?」


 

 “私”は微笑む。


 けれど、その瞳は冷ややかだった。まるで、見下ろすように。

 


 「夢かもしれないし、夢じゃないかもしれないわね」


 「……え?」


 「でも、一つだけ言えるわ。

 これはーーあなたにとって必要な時間よ」




 そう言いながら、“私”はゆっくりと歩み寄ってくる。



 「ねぇ」


 「あなた、変わったつもりでいるんでしょう?」



 低く、静かな声だった。

 けれど、妙に耳に残る。心の奥に、爪を立てられるような感覚だった。



 「……」


 

 ミレイナは言葉を飲み込む。


 


 「でも、私は全部見てたわよ」



 “私”はにやりと笑った。その目は、嘲るように細められていた。



 「覚えてないから、別人だって思いたいのよね?」




 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

 心のどこかに潜んでいた“それ”を、ぐいっと引きずり出されたような気がした。



 「ち、ちがう……」



 かすれる声が、胸の奥から漏れた。



 「ほんとうに?」



 “私”の瞳が鋭く光る。




 「私は、覚えているわよ」



 「“私”が、どれだけ奪ってきたかーー全部、知っている」



 「ユリウスも、何もかも。全部、自分のものにした」



 「私は、後悔なんてしてないわ」



 「だって当然だったもの。それが、私にとっての“正義”だったから」



 胸がきゅっと痛む。


 

 (私は、知らない。……覚えていない)


 

 だけどーー。


 


 (……それは本当に、言い訳じゃないって言い切れるの?)


 


 “私”は、さらに一歩近づいた。




 「それなのに、あなたは今になって綺麗ぶってる」



 「気付かないフリをして、私を切り捨てたいのでしょう?」




  “私”の目が細くなる。



 「“あれは昔の私だから”って、都合よく切り離して」


 


 「なかったことにして、生き直したいんでしょう?」


 


 (……やめて)


 

 言葉が出なかった。




 そして“私”は、すっと顔を寄せる。

 声は、ささやきのように柔らかかった。



 「でも、できるわけがないわ」


 


 「私は、“あなた”なのだから」


 


 「どんなに目を背けても、私がいなくなることなんてない」


 


 「だってーー私を消したら、あなたはもう、あなたじゃなくなるの」


 


 喉の奥が詰まる。何も言えなかった。




 “私”は、真っ直ぐにこちらを見つめる。


 その目は、冷たくも優しくもなかった。


 ただ、静かに事実を突きつけるだけの色をしていた。


 


 「ーーあなたは、私を捨てたいのでしょう?」




 言葉が、胸の奥に突き刺さる。


 


 けれど、ミレイナは答えることができなかった。


 


 沈黙が、二人の間に落ちる。


 


 


 真っ白な空間に、呼吸の音さえ消えていく。


 


 ただ、心臓の鼓動だけが、微かに響いていた。


 


 


 (……私は)


 


 


 その続きを、どうしても言葉にできなかった。

ラスボスは自分自身

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