56、いってきます
両親と向き合ってから、数日が経った。
あの日から、私は少しずつ、自分の気持ちと向き合っていた。
鏡の前で呟いた「ちゃんと伝えられた」という言葉は、まだどこか不安定で、でも確かに“第一歩”だったと思う。
いまの私は、まだ未完成で、不安もある。
けれど、それでも――向き合いたいと思った。
あの日、逃げずに言葉を伝えられたから。
だから次は、過去に向き合う番だと思った。
リシュアン様に、会おう。
かつて私に執着し、そして今も過去に囚われている彼とーーきちんと終わらせるために。
早速、私は手紙を書く。
リシュアン様
突然のお手紙、失礼します。
建国記念パーティーでは、ありがとうございました。
最後は、あんなふうになってしまって、ごめんなさい。
あなたときちんと話がしたくて、
お会いできる機会をいただけないでしょうか。
ミレイナ・エルフォード
手紙を送った後、返事を待ちつつ、私は心の準備をしていた。
そして、ある日――
手紙の返事が届いた。
緊張で胸が高鳴るけれど、どこかほっとした気持ちもあった。
部屋を出て邸の廊下を歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかりそうになった。
「……あら」
柔らかな白銀の髪に、穏やかな眼差し――レオナルドお兄さまだった。
兄は足を止め、じっと私の顔を見つめた。
「おまえ、なんだか……変わったな」
「……そう?」
「表情が、違う。前より……ずっと、いい顔をしている」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「ありがとう、お兄さま」
私は小さく微笑んですれ違いざまに呟いた。
そして、振り返らずにまっすぐ前を見て言った。
「――いってきます」
背中に、何も言わずに見送る気配があった。
きっと、お兄さまも分かっている。
これは、“私自身の決着”だということを。
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