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4、過去の私

 きっと、記憶を失う前の私は――何かをしたのだろう。

 でなければ、こんなにも冷たい目で見られるはずがない。



 知るのは、怖い。

 けれど……知らないまま、この状態が続くほうがもっと怖い。



 心の奥底から湧き上がった言葉が、私の口をついて出た。



 「えっと……お兄……さま?

 ……知りたいです。教えてください」



 レオナルドは、静かに頷いた。

 その目にはもう、先ほどまでの疑いの色はない。



 「ミレイナ、おまえはユリウスと結婚して、エルフォード侯爵夫人になった。……そう聞いているね?」


 「……はい」


 頷きながらも、どこか胸がざわつく。

 彼の話の続きを、どこかで拒みたいような、そんな感覚があった。



 「もともと、おまえがユリウスに一目惚れして……自ら婚約を申し込んだんだ」


 「……そう、なんですか……」


 自分のことなのに、まるで他人の話のようだった。

 それでも――その先の言葉に、私は小さく息を呑んだ。



 「だが、ユリウスには……婚約者がいた」


 「……え?」


 思わず問い返してしまった。

 けれど、彼の言葉は容赦なく続く。



 「ああ。2人は仲睦まじい婚約者同士だった。

 それを――引き裂いたんだよ、ミレイナ。おまえが」


 「そ、んな……こと……」


 口元が震える。

 信じたくない。けれど、レオナルドの目は、冗談を言っているそれではなかった。



 過去の私は、そんなことをしたの......?

 

 ーー信じられない。


 ......でも、きっと......そうなのだろう。


 あの人――私の夫だというユリウスは、確かに私を恨んでいるような目をしていた。


 

 怖い。自分のことなのに、自分じゃない誰かの罪を背負わされているような気分だった。

 でもそれが、事実なら......



 「それは......恨まれて、当然......ですよね......」


 恐る恐る呟く。


 レオナルドは、一瞬困ったような顔をして、答える。


 「......そうだろうな」


 レオナルドは低く呟くと、ふっと目を伏せた。

 その表情は、まるで何かを言いかけて、呑み込んだようだった。


 「……でも、全部を話すのは……今はやめておこう」


 「……どうして、ですか?」


 私は小さく問い返す。

 震える声を押し殺しながら、真実を知る覚悟を、今まさに決めようとしていたのに。


 「今のおまえに全部を受け止めろとは……俺にも言えない」


 彼はどこか遠くを見るように、静かに言った。


 「……あの頃、俺は何度も止めようとした。言葉で、態度で、それでも届かなかった。あのときのおまえは……何も見ようとしなかったからな」


 私は息を呑んだ。


 「ユリウスの目を、おまえが覚えていればな……。あの日、すべてを諦めたような目をしていた」


 その言葉は、胸の奥に重く沈んだ。

 何も知らないはずなのに、妙に心が痛む。見たことがある気がする、その目の奥の光。



 「……お兄さま、私は……」



 声にならない声が、喉に詰まった。



 レオナルドは私に目を戻すと、苦しげに笑った。



 「今は……それだけ伝えておくよ。焦るな、ミレイナ。知るべきことは、いずれ全部わかる」




 その優しさが、かえってつらかった。

 けれど私は、そっと頷いた。いつか、その続きを聞く覚悟を――胸に抱えて。

一気に4話まで投稿しました。

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