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【本編完結済】悪女だった私は、記憶を失っても夫に赦されない  作者: ゆにみ
本編

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45、離れましょう


 「ユリウス……! ねぇ、ユリウス!」


 

 何度呼んでも、彼は振り返らなかった。

 手首を掴む力が強くて、痛い。



 (どうして……何も言ってくれないの?)


 


 彼の背中だけが、ただ前に進んでいく。


 まるで、私の声なんて届いていないみたいに。


 


 「ユリウス……!」


 


 必死に呼んでも、返事はない。


 (......こうなったら)


 ミレイナは、思いきって声を張り上げた。

 

「……ユリウス! もう、聞いてよ!!」



 その声に、ようやく、彼の足が止まった。


 


 「ねぇ、どうしたの」


 

 ミレイナの問いに、ユリウスはゆっくりと振り向く。


 その目は、怒っているというよりも――戸惑っていた。


 


 「……それは、こっちの台詞だ」


 

 (こっちの台詞......?)



 どくん、と心臓が跳ねた。



 ……やっぱり、気づいてるのよね。

 あの時、嘘をついて、リシュアン様を庇ったこと。


 その奥にある気持ちまで、見透かされているの?



 ――いや。

 

 


 もしかして、リシュアン様と一緒にいたことに怒ってるの……?


 そんなふうに思っているのだろうか。


 


 でも……でも、それなら。


 


 ――ユリウスだって……ユーフェミア様と会っていたじゃない……。


 


 言いたい。問い詰めたい。


 けれど、口が動かない。


 


 胸の奥に、黒い感情が滲んでくる。


 


 ――ユリウスだって、ユーフェミア様と一緒の方が……きっと、いいに決まってる。



 だって私は、過去に彼を傷つけた悪女なんだもの。


 


 その考えが、刺のように胸に突き刺さる。



 (......ああ、もう嫌だ。この思考が嫌だ)


 


 こんなに揺れるのは、彼に寄りかかり過ぎているからじゃない?



 私って、誰かを頼らなきゃ、自分で立てないの?




 そんな自分は――吐き気がする。


 心がどんどん重くなっていくのを、感じる。





 (......また、こんな風に考えてる)


 


 違う。



 そうじゃない。



 私は――自分で立たなきゃいけない。


 

 誰かに寄りかかった先に、未来なんてないんだから。



 閉ざされていた視界が、ようやく広がっていくようだった。



 そして、ミレイナは、顔を上げる。

 涙を堪えて、でも決意だけはにじませて。


 


 「ユリウス……一度、離れましょう」


 

 「……え?」


 

 「……実家に、戻ろうと思います」

 「……少し、帰らせてください」

 


 ユリウスが息を呑むのが聞こえた。

 その瞳が、大きく揺れていた。


 驚き。困惑。そして――ほんの一瞬、痛みのような何か。



 「……待ってくれ」


 かすれた声だった。引き止めたい気持ちが、滲んでいた。


 


 でも――それでも。

 私は、もう甘えてはいけないと思った。



 「いいえ。......その方がお互いのため。今は離れた方がいいと思うの」

 「……私、自分を見つめ直したい」

 「だから……もう少しだけ、時間をちょうだい」



 彼の唇が、何かを言いかけては閉じられた。

 何も言えずに、ただ私を見ていた。



 (......そんな顔を、しないでよ)



 その視線に縋りたくなる自分を、必死で抑え込む。



 「……また、ちゃんと話し合いましょう」



 そう告げて、私はゆっくりと背を向けた。


 追えば止められる距離。


 けれど、ユリウスは一歩も動けなかった。

 伸ばすべき手が、どうしても動かなかった。

 それほどまでに、彼もまた――揺れていたのだ。


本当は“共依存”を描くつもりだったのに、気づけばキャラたちが勝手に成長して、別の方向へ進んでおります(笑)

作者の思惑なんて、彼らには通じないみたいです……。

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