44、彼女の隣にいる男
そうして俺は、ミレイナとユーフェミアの面会を――許可した。
場所は、建国祭の記念パーティー。
祝賀の華やかさに紛れてなら、互いに顔を合わせる重みも多少は和らぐだろう。
そう思ったのだ。
当日、俺はさりげなくミレイナをひとりにした。
本心では見守っていたい。
けれど、それは――間違っている。ユーフェミアを信頼しているからこそ、余計な干渉は控えるべきだった。
俺は賓客たちへの挨拶に時間を割きながら、ただ静かに時間の経過を待った。
しかし――ふと時計を見た瞬間、眉がひそめられた。
(一時間……?)
ミレイナは、戻っていない。
胸がざわつく。足が自然と動いていた。
そして――
彼女を見つけたその先で。
ミレイナは、リシュアンとともにいた。
何かを語り、何かを分かち合っているように見えた。
まるで――あの柔らかな表情が、俺の知らない何かにほどけていくようで。
その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
抑えていたはずの感情。
理性で包み込んできたはずの思い。
そして――
ずっと、誰にも見せなかった、どす黒い何かが。
ミレイナに何をしているのかと問えば、リシュアンを庇うような様子を見せる。
「ただ、私が……迷っていただけよ。王宮の裏庭で道に迷って、川辺まで出てしまって」
「リシュアン様は偶然通りかかって、私を見つけてくれたの。それで……少し、話して……」
「疲れていたから……ただ、それだけ。ほんの少し、休んでいただけよ」
嘘だ。
絶対に、嘘だ。
彼女の目の揺れ、言葉の継ぎ接ぎ。
何より、その表情が、何かを隠していることを――俺は知っている。
でも。
(……もし、彼女が本当に傷ついていたとしたら?)
もし、あの時ユーフェミアと会って――心が折れそうになった時に。
そこにリシュアンがいたのだとしたら。
(……それは……俺の、せいだ)
守ると言いながら、彼女を独りにした。
俺は何をしていた――?
ユーフェミアと会ったことだって、まだ彼女に話していない。
後ろめたさが、ずしりと胸を締めつける。
これ以上、問い詰める資格なんて……きっと、俺にはない。
でも――
(……それでも、これ以上は……)
許せなかった。
彼女が、他の誰かの隣で微笑む姿も。
その誰かが、自分ではないという現実も。
気づけば俺は、感情のまま彼女の腕を強く掴んでいた。
「……帰るぞ」
返事を待たず、そのまま彼女を引き寄せた。
その行為が乱暴であったとしても、今の俺には、もう止められなかった。
次回、タイトル「離れましょう」




