41、だれかが、見ていた
どれくらい泣いていただろう。
涙が枯れたわけじゃないけれど、ようやく、呼吸が整ってきた気がした。
「……落ち着いた?」
静かな声が、そっと耳元に届く。
ミレイナは、少しだけ顔を上げて、小さく頷いた。
「ええ……。……ごめんなさい……」
「ううん、大丈夫だよ。落ち着いたようでよかった」
その優しい声に、胸が少しだけ軽くなる。
思えば、今日一日、ずっと張りつめていた。
「……ケンカでもしたの?」
リシュアンの問いに、ミレイナはふるふると首を横に振る。
「いえ、違うの……ただ……」
そこまで言いかけて、言葉が喉に詰まる。
すると――
「……あの女も、来てたね」
その一言で、空気がぴたりと止まる。
ミレイナの肩が、びくりと小さく震えた。
リシュアンはその反応を、しっかりと見逃さなかった。
「……そうか。わかったよ」
その声は、何かを理解した人間の静かな響きだった。
「……辛かったね」
何も責めないその言葉が、じわりと胸に沁みる。
二人はそのまま川辺の草の上に並んで腰を下ろした。
夜風が静かに水面を撫で、遠くから虫の音がかすかに聞こえる。
しばらく、ただ黙って、その場に座っていた。
言葉はいらなかった。ただそこに誰かがいてくれることが、今は救いだった。
……けれど――
「……なにをしている?」
低く、鋭い声が背後から響いた。
ミレイナがびくりと肩を跳ねさせて振り向くと――
月明かりの下、王宮の木立の奥から現れたのは、
漆黒の礼服を纏い、冷たい紅の瞳を光らせた――ユリウスだった。
その表情は、静かすぎるほど静かだった。
盛り上がって参りました〜〜




