15、受け入れる熱
「俺のためだと言うなら――離婚は許さない」
ユリウスはそう言った
あのときの言葉は、鋭く、重く、私の胸に突き刺さったまま消えない。
過去の私が彼を傷つけた事実は、どれだけ願っても、変わらない。
だから私は、受け入れると決めた。
彼の隣で、罰を受けるように生きると。
それが、今の私にできる、唯一の償いだった。
そう決めた日から、ユリウスは再び、私の寝室に来るようになった。
何も言わずに扉を開け、黙って歩み寄ってくる姿は、まるで感情を削ぎ落とした彫像のようで。
私はベッドに座ったまま、逃げることも、拒むこともなく、その姿を見上げる。
そして――
唇が、重なる。
それは、キスと呼ぶにはあまりにも無機質だった。
熱も、愛も、どこにもなかった。
押しつけられる唇が、ただ痛くて、苦しくて。
それでも私は、受け入れるしかなかった。
抱きしめられることはなかった。
名前を呼ばれることもなかった。
まるで私の存在なんて、触れる必要もないものだとでも言うように、ユリウスは唇だけを奪って、背を向けた。
……けれど、一度だけ。
部屋を出ていこうとした彼が、わずかに立ち止まったことがある。
振り返りはしなかった。
けれどその背に、ためらうような気配が一瞬だけ――本当に、一瞬だけ、宿っていた気がした。
気のせいかもしれない。
思い込みかもしれない。
でも、そのわずかな沈黙が、心に妙に引っかかって離れなかった。
それだけの夜が、何度も、何度も、繰り返された。
心が擦り切れていく音がする。
それでも、私は口を閉ざしたまま、息を殺して、その時間を受け入れる。
赦されなくていいと、思っていた。
愛されなくてもいいと、思っていた。
でも――どうして、こんなにも、寂しいのだろう。
このキスの中に、怒りも悲しみも読み取れない。
あるのはただ、感情の抜け殻のような、痛みだけ。
何もないのに、なぜか毎晩、胸の奥が焼かれるように熱を持った。
息をひそめて、体の奥に残されたその熱に震える。
だけど、心は、どこまでも凍えていた。
彼の隣にいるということが、これほどまでに孤独だなんて、知らなかった。
夜が明けても、私の世界は少しも明るくならない。
何度繰り返しても、あの言葉だけが、心の中で残響のように響いていた。
――離婚は、許さない。
それはまるで、永遠に続く鎖。
愛されることも、赦されることもないまま、その隣で、私は壊れていく。
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