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プロローグ

 暗闇の中で、彼の声がした。


 低く、怒りに濡れた声だった。



 「離婚……? ミレイナ……君が、それを言うのか?」


 「でも、もともと……無理やり結婚したのでしょう? だったら、続ける理由なんて……もう、ないじゃない……」


 


 その瞬間、空気がひび割れる音が、聞こえたような気がした。


 


 「――はっ」


 


 彼の喉の奥から、乾いた笑いが漏れた。それは嘲笑にも似て、底知れぬ怒りがこもっていた。



 「つまり君は……それが“俺のため”だと?」


 


 ぞくり、と背筋が震える。

 その笑みに、温度というものが存在しなかった。



 「自分を正当化するには、ずいぶんと都合のいい理屈だな」


 


 その言葉のあと、彼の瞳がぎらりと光った。

 


 「……冗談じゃない」



 息を呑む間もなく、冷たい視線が私を貫いた。



 「俺の人生をめちゃくちゃにしておいて……償いたい? 全部なかったことにしたい? ――ふざけるな」



 私の心臓が、どくんと跳ねる。

 この人は……私の“夫”なのだと、誰かが言った。

 けれど、私は彼の顔も名前も――何一つ、思い出せない。




 「そっちが先に地獄に引きずり込んでおいて、今さら“ごめんなさい”だと?」



 彼の言葉の一つひとつが、ナイフのように胸に突き刺さる。




 「そんな勝手、俺が許すと思うか――?」




 彼の手が私の肩を掴んだ。強くて、熱くて、震えるほど憎しみに満ちていて――



 「地獄に落ちるなら、一緒にだ。

 君ひとりだけ、救われようなんてーー」



 その声は低く、ぞっとするほど冷たかった。



 「......絶対に、許さない」



 怖いと思った。

 でも同時に、どこかで泣きたいほど苦しくなった。

 なぜなら、私の知らない“私”が、この人の人生を壊してしまったのだから。



 それが、始まりだった。



 記憶を失った悪女――ミレイナ・エルフォードと、

 彼女を許せない男――ユリウス・エルフォードの、

 愛ではない、けれど終わることもできない、

 歪んだ愛憎劇の――

 これは、地獄のような恋の物語。



新作連載開始します!

完結済みの旧作もございます!

興味あればぜひ!

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