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神の寵愛

 「では、早速、適性検査を行いたいと思うのですが、構いませんか?」


 ミロ神父はそういった。


「ええ、はい。お願いします。」


 コウイチはそれを二つ返事で承諾し、ではこちらにと教会の祭壇へミロ神父はコウイチを手招く仕草をして、コウイチはそれに従った。


「ここです。」


 そう言って祭壇の上にある書見台にある本を手に取り、コウイチに手渡した。


「高価なものですので、くれぐれも慎重に扱うようにお願いします。」


「これは一体なんなんですか?」


「ああ、知りませんか。簡単に説明しますと、それは聖書というやつです。」


「これと魔法になんの関係が?」


「聖書は解読されてない古語で書かれてるのです。読み方、意味が対応する単語などは一切明らかになっていません。」


「そんな本、なんでこんな大層な場所にあるんです?」


「不思議と読めるんですよ。魔法の適性がある人には。聖書は三項目からなっておりまして、一項が読めた人は攻撃魔法、二項は治癒、三項は補助といった感じで、それで適性を判断するんです。」


「なるほど…」


 コウイチは一見納得したように見えたが、至極真っ当な疑問を浮かべた。


「でもそれなら、解読は簡単なんじゃないですか?読めた人の情報を集めればいいだけなんですから。」


「いえ、聖書の内容は見た人によって変化します。正確には、聖書の内容は同じなのですが、不思議と読めた場合の解釈や受け取った内容が、人によって一切異なるのです。」


「それは読めた気になってるだけで、実際には読めてないのと一緒では?」


「ですが、読めた項目によって魔法の適性が判断が正確にできている以上、なんらかの意味があることは確かです。」


「まぁ、確かに…。」


 二人は聖書の解釈についてる会話をしているうちに話しが本筋からズレ始めていることを感じた。本筋に無理やり戻したのは、コウイチでもミロ神父でもなく、サピエルだった。


「あのぉ、失礼ですがお二人共、そろそろ魔法適正の診断を行いませんか?」


 二人はその言葉を待っていたかの如く咳払いをし、ミロ神父が口を開いた。


「そうですね、では早速ですが、コウイチさん、これを読んでみてください。」


「はい。」


 コウイチは言われた通り、ページをめくって見せた。一項は読めなかったので飛ばした。二項も読めなかったので飛ばした。三項も読めなかったので飛ばした。すると本の裏表紙だった。ミロ神父はきょとんとした顔でコウイチを見ていた。


「あの、どれも読めないんですけど。」


 コウイチは気まずそうに、失望したようにミロ神父にそう話しかけた。


「まぁ、こういう人も偶に居ますので。」


「え、読める人が特別じゃないんですか?」


「いえ、まぁ、二項以上読める人は稀ですけど、基本的にどんな人も一項ぐらいは読めるものですよ。」


「えぇ?」


 可哀想にといった哀れみの表情でサピエルはコウイチを見ていた。そしてミロ神父は少し考え込み、その後、思い当たる節があるかのようにハッとした表情をみせ、コウイチをジロジロと観察し始めた。コウイチは何をしているのかよくわからず、何故か恥ずかしいような気持ちになり後退りした。


「コウイチさん。あなたを初めて見たときから、いや、初めて噂を聞いたときからずっと思っていたのですが、東国人ですよね?」


「東国?東国とやらがどこかは分かりませんが、でもここの様子を見た感じ、極東から来た可能性が高いことは、間違いありません。」


「記憶喪失ですか?故郷が思い出せないとか…?」


「いえ、記憶はあります。恐らくは東国のもっと東にある島国の出身です。」


「では、なぜここにいらっしゃるんですか?」


「えぇと、」


 コウイチは思案した。言っていいのだろうか、異世界から来たことを。でもなんとなく数日ここで暮らして雰囲気は掴めているつもりだった。ここは宗教色が異常に強い。恐らく異世界は彼ら宗教観にとって存在しない。その存在をほのめかすのは危険に思えた。


「それが、わからないんです。その国で急に後ろから刺されて、倒れて次に起きたときにはここに居たんですよ。」


 話をぼかして説明すると、ミロ神父はふむといった感じでまた、考えこみのターンに入った。そして、考えが定まったらしく、話し始めた。


「魔法というのは、神の寵愛を、背面世界から受けとり、神の力をお借りするとして、現世で使用するという形式で動いています。」


「ちょ、ちょっと待ってください、神の寵愛?背面世界?って一体なんのですか?」


「詩人肌の人間の言葉を遮るべきではありませんよ。ただ、説明不足なのは否めませんね、説明します。」


「あ、ありがとうございます。」


「神の寵愛というのは文字通り、我々ゼロストラ教の信仰する神、ゼロストラ様からの寵愛を意味します。背面世界というのは、そのゼロストラ様や、天使、または死者などが暮らす上位世界のことです。とりあえず、前提知識はこれぐらいで大丈夫ですか?」


「なんとなく理解できました。」


「では、話を続けますね。」


 ミロ神父は教会内をうろつきながら話し始めた。


「ゼロストラ様は今から約千年前、この地から西に数百キロ離れた場所で初めて現世にお出ましにられ、我々にこの聖書を与えてくださりました。その時に、ゼロストラ様は寵愛の条件として次のように仰りました。『我に選ばれし栄光ある者たちよ、朕を崇めよ。さすれば寵愛を与える。』と。」


 さっきまでうろうろしてたミロ神父はピタッと止まり、コウイチを見た。


「この話しのミソは"我に選ばれし"という所でしてね、解釈にもよりますが最近の学説ではこれが指し示す意味は、イェルシヤ大陸の人間であるというところなのですよ。」


「つまり俺は、外部の人間で神に選ばれていないから、寵愛を受けれず魔法も使えないってことですか?」


「ご明察の通りかと。」


 コウイチは神なんてクソ喰らえだと、軽く思った。


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