表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

死にかけの状態で異世界に飛ばされたんだけど

 とある大都市の大通りを、青年は一人歩いていた。中肉中背、髪は黒髪で少し短め。怠惰で寝癖を直さないせいで、少し情けなく見える。


 今日もいつもどおりの日常を送る予定だった。ひどく暑い夏の日に、学校指定のジャージで小洒落た通りをうろつくものだから、そこにいたサラリーマンとか、そういった大人たちは少し驚きを覚えただろう。


 強い直射日光が、ビルの窓に反射して眩しかった。青年は目を細めたが、次にはっきりと目を開けることになったのは、背後からの強烈な刺激によるものだった。


 何者かが、青年を後ろから突き刺した。


 よく研がれた家庭用の三徳包丁が青年の腹部を貫通した。


 (痛い、いや痛くない、熱い。)

 青年はそう思った。

 

 刺された瞬間こそ、強い痛みを感じたが、青年を包丁が通過したときには既に、腹部の感覚は失われていた。彼は力を失ってうつ伏せで倒れた。


 意識はまだあった。自分を刺したと思われる人物が、薄まる視界の先で屈強な男に羽交い締めにされ、捕らえられていた。


 「大丈夫ですか!」

 

 周りの人間が寄ってきて、さっきまでは青年を奇怪な目で見ていた人たちも、同情と混乱の視線を送った。と大声で警察を呼んだりしている人もいた。


 意識がだんだんと薄れていく…。


 青年に死ぬという実感が湧いていった。でも不思議と恐ろしくはなかった。もう恐ろしいとすら思えないほど衰弱しているだけだと気づくことすらできなかった。



 不思議なことに青年は目を覚ました。それも病院のベッドや、彼の慣れ親しんだ自室のベッドでではない。仰向けで藁のベッドに寝かしつけられている青年の視界には、木材がむき出しで組まれている、薄暗い天井が写った。


 体を起こそうとすると腹部に強烈な痛みが走った。青年は思わず、悲痛な叫び声を上げた。


 すると少し離れたところから、ガタリと木製の椅子が動く音がした。青年がそちらに首を回すと、そこには赤毛の少女が佇んていた。


「お目覚めになられましたか」


 少女は青年のほうに駆け寄った。目は大きくクリっとしており、鼻は小さく、全体的に色白だが頬は少し赤みを帯びていた。赤毛がよく似合っていた。


 そんな少女が急に近づいてきたものだから、青年はドキっとしてしまい、仰向けのまま少し肩を震わせた。


「あなた、私の家の裏庭に倒れていたんです。」


「えっと、俺のことを助けてくれたんですか。」

 

 二人はお互いの距離感を測りかねてるような感じで、しどろもどろになりながら会話を続けた。


「どこから来たのですか?」


「ニホンってところからなんですけど」


「ニホン?ここより西方でしょうか、東方でしょうか」


 青年は目覚めたときからなんとなく察してはいたが、今確信に変わった。ここは元いた世界、もしくは時代ではなかった。


「知らないならいいんです。すいません。」


「そう言われると気になりますね。どの国ですか?」


 "ニホン"を地名だと勘違いしているらしかった。


「ニホンっていうのは遥か遠くの国ですよ。」


「へぇ。聞いたこともない国ですね…。それで、何故こんな辺境の村に大怪我をした状態でいらしていたんですか?」


「それが、わからないんですよ。」


「わからない?」


「えぇ、急に通り魔かなんかに刺されて、気を失ったところまでは覚えているのですが。」


「何故私の家の庭にいたのかはわからないと…。」


「はい。」


 少女は困惑した。まずこの男性の腹に突き刺さっていたナイフについてである。非常に鋭利で、人間が加工した者だとは思えなかった。そして、男性が着ていた服。見たことがない文字が刺繍されている。そして彼の顔立ち。この辺りじゃ見かけない、独特な顔立ちをしていたのだ。肌は少し黄ばみがかっていて、目は細めだがキリッとしていた。


 青年もまた、困惑していた。明らかにこれは俗にいう異世界転生というやつだ。ただ、瀕死の状態で送られるケースは聞いたことがなかった。


 普通に考えて死んでから転生させるだろ、なんでもうすぐ死ぬってところで生身で転移させられるんだよ。と、心の中で青年は悪態をついた。


 そして少しの沈黙の後、青年は自分の腹の傷に巻かれた布を見て違和感を覚えた。血が完全に止まっていた。少しあたりを見回して、縫合手術などの設備も、技術もなさそうなことを確認した上で、少女に質問した。


「あのー、俺の傷ってどうやって止血したんですか?」


「治癒魔法の一種です。ご存知ありませんか?」


 少女はそれが魔法によるものだと伝えた。それを聞いた青年は、魔法と聞いて知的好奇心が抑えられなくなった。


「魔法って、どうやって使うんですか?」


「治癒魔法ですか?呪文を唱えるんです。」


 そう言うと少女は自身の腕を爪で引っ掻いて出血させてみせると


「我祈る、故に神は呼応せよ。汝、彼の者を修復せん。」


 と唱えた。すると彼女の手の平から淡い黄色に近い光が溢れ出し、腕の切り傷がみるみる治っていった。


 青年は感心し、拍手をした。


「他の魔法もあるんですか?」


「ええ、魔法には三種類あります。治癒魔法、攻撃魔法、補助魔法の3つ。私は治癒魔法しか使えませんが。」


「俺にも使えますか?」


「適正さえあれば。」


「その適性っていうのはどうやったら分かるんですか?」


「教会です。神父さんに祈って貰うんです。そうすれば適正が分かりますよ。」


「君、あー…」


「どうなさいましたか?」


「そういえば名前を聞いてなかったなと思って。」


「私の名前ですか?サピエル=フェルスティナ。サピエルとお呼びください。あなたは?」


「俺はコウイチ アキムラ、よろしく。」


 こうして、青年の、コウイチの新しい人生が始まったのだった。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ