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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

傷痕

何をしても、気が晴れる事が無い



家族や学校の友人は「つらい目に遭ったのだから、今は休むべきだ」と言ってくれる

だが僕に言わせれば、彼らこそが一番僕を理解していない

家に居ても心が暗くなるだけだと思い、僕は外を歩く事にした



救出されるまでの間、僕は彼の館で生きた玩具として、口にする事も憚られる様な虐待を受けていたと聞かされている


それは動かし難い事実であり、その事もあり、確かに僕は一人の人間として彼を深く軽蔑していた


──それでも…


森の奥深く

沼の岸を歩きながら、服を少しめくって水面に映る自分の首筋を視る

彼が噛んだ傷痕が、赤黒い瘡蓋(かさぶた)と共に現れた


──あの時、僕は噛まれる事を悦んでいた


恥辱に僕は両手で顔を覆った

いくつかの昏い感情が騒がしく心を通り過ぎていったが、興奮と「あの瞬間に帰りたい」という気持ちだけは過ぎ去ってくれなかった


その場で膝を付き、手を付き

僕は崩折れたまま、涙を流した

すすり泣きだった泣き声は次第に大きくなり、最後には僕は大きな声を上げて泣いていた



その時、泣き声を上げる僕の背に暖かく優しい手が触れた


視なくても解る

学校でも一番の親友の男の子だ

僕を気遣って、ここまで来てくれたのだろう


「何も言わない、いまは泣くと良いよ」



違う


僕は、つらい目に遭ったから泣いてるんじゃない


泣きながら僕は彼の手を払いのけた

彼は一瞬悲しそうな顔を視せたけど、すぐに「僕に出来る事はない?」と深刻な表情で聞いてきた


「本当に」


「僕の言う事を聞いてくれる?」


涙を拭きながら立ち上がる

僕が怖い顔をしていたのだろうか、彼の眼に怯えが視えた


「何を…するの……?」

恐怖に震えた声が返ってくる


我慢が出来ない

僕は友達を無理に押し倒すと、彼の肩を強く噛んだ


悲鳴

血の味が口いっぱいに広がっていく!あの時には及ばないが、モノクロになっていた僕の心に血は豊かな色彩を満たしていった


なんて美味しいんだろう!鮮血を飲みながら、僕は嗤っていた


「やめろ!」

僕よりも友達の方が、力が強い

すぐに僕は引き剥がされると、そのまま押さえ付けられてしまった


「この事は、誰にも言わないでおいてあげるから…」


「二度と僕に近付かないで」


彼は去っていった

涙を流しているのが視えたが、僕にはその理由が解らなかった



その夜、家に友達の両親が来た


広間で僕の両親と何かを話している

盗み聞きした感じでは、大人達は僕が怪物か何かになってしまったと思っているようだった


それからは毎日、悪魔祓い師や医者、学者等に診てもらうばかりの暮らしが始まった


いずれの診断でも、僕は「何も変化していない」と結論付けられた

そのため大人達は僕を必然的に「精神の病である」と結論付け、牢に入れた



「何処も悪くないのに直そうとしないで下さい」


僕は悪魔じゃない

狂ってもいない

訴えれば訴える程、人々の憐れみが僕を殴り付けた

誰も僕を理解しなかった


「何処も悪くないのに直そうとしないで下さい」


冷たい牢の中で僕は言い続けた

誰も僕を理解しなかった

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