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本編②~第一関門~

私が時間を巻き戻してから数ヶ月の時間が経った。すっかり慣れたいつも通りの朝を迎え、義姉たちに言いつけられた仕事を終えてノアに会いに行く。すっかりこの流れがルーティンになっていた。そういえばノアは魔法使いの弟子で修業中の身であるはずなのに私にほぼ毎日会っていて大丈夫なのだろうか?前もこんな感じだったが…。もしかしてノアに無理をさせているのでは?


「待ってましたよ!エラちゃん」

「ノア…」


一度気になったらそればかりが頭の中を巡ってしまってうまく話すことができない。


「エラちゃん?どうかしましたか?」


顔に不安が出ていたのかノアに心配そうな声で問われるが、なんと切り出していいのか言葉に詰まってしまった。


「恋煩いですか?」


なんて言うノアの顔は悪戯っぽく笑っていて、違うとわかってこう言っていることは一目瞭然だ。私が声を出さずに頬を膨らませてあからさまに怒った仕草をするとノアはハハハと笑いながらすみません、と謝った。


「それで、どうしたんですか?」


私の緊張を解すためにわざと冗談を言ったのだろう。一転して真剣な顔になったノアが私に問う。まあ、経験上こういう時は素直に話した方が良いだろうと口を開いた。


「今まで気にしてなかったんだけど、ノアは魔法使いの弟子じゃん?いつも私と話してて大丈夫なのかなって気になって」

「ああ、そういう事ですか。この時間帯は休み時間なので、私は好きに過ごして良いんです」


それはそれで休み時間に私と話していて休憩になるのか気になるところだが、本人が良いというならこれ以上言うのも野暮かと口を噤む。


「エラちゃんの疑問はこれだけですか?」

「うん」

「…嘘は言ってなさそうですね。ところでエラちゃんも今度の舞踏会は参加するんですか?」


今度の舞踏会…?この頃に行われたのは何の舞踏会だっただろうか?とりあえず、私の初めての舞踏会はクズイアと会ったアレだから今度の舞踏会とやらに行くことはないはずだ。


「いや、参加の予定はないよ」

「あ、そうなんですね。今度の舞踏会は大国である隣国の国王と彼が溺愛する妹が出席するとかで、エラちゃんくらいの年頃の令嬢は可能な限り参加せよと王命が出たと聞いたんですが…」


隣国の国王の妹…私が王妃となった頃には既に国交断絶していて正確な情報は知らないが、私の五つ上だったはずだ。私が巻き戻って今十二歳だから、あちらは十六~十七歳だろう。あれ、そもそもなんで隣国とはなんで国交断絶していたのだろうか?この時点ではこの国の舞踏会に出席する程度には関係が良いのに何故私が王妃となるまでのお世辞にも国同士の関係が悪化するのに長いとは言えない年月で国交断絶までいくのか…。記憶の糸を手繰り寄せていくと、一つの可能性を見つけた。確か、前のちょうど今頃にノアから王子が隣国の王が溺愛する妹姫を泣かせて急激に国同士の関係が悪化しそうだとか聞いたような…?


「エラちゃん?どうかしたんですか?」


私が黙りこくっているからかノアが声をかけてくる。大丈夫、と答えようとしてふとある事実に気づいた。


「ヤバい…」


思わず呟いてしまった。


「え?何かあったんですか?」


隣国との関係悪化の影響で、その他の近隣諸国からも国交をやめられたりした。その結果、国内の物流がヤバくなって国が滅ぶ一因となった。つまり、それを防ぐためには私も舞踏会に参加しなければいけないのだが…私は普段使いのドレスなら持っているが他国の王族が来るような舞踏会に来て行けるようなドレスは持っていない。そもそも、ドレスがあっても家族が連れて行ってくれないなら移動手段もない。…詰んだ。


「私はエラちゃんの力になりたいです、私では解決できないことなら一緒に考えます。だから、どうか教えてくれませんか?」


ノアがまっすぐに私を見つめてきて、その目線につい全てを明かしてしまいたくなる。巻き込みたくない気持ちと、相談に乗ってほしい気持ちの間で揺れ動く。


「エラちゃん」


ノアが私の手を握る。その温かさに背中を押されたような気がしてつい口を開いてしまった。


「今度の…王城で開かれる隣国のお姫様が来るっていう舞踏会、行かなきゃいけない事情を思い出したんだけど、着て行けるドレスもないし、移動手段もないし、どうしようかなと」


流石におかしくなったと思われるから言えなかった。隠し事をしてしまっているから罪悪感がある。


「なんだ、そういうことなら私が何とかできるかもしれません!」

「え?」

「私は魔法使いの弟子ですから!」


ノアがえへん、と胸を張った。確かにノアの師匠である魔法使いはドレスやら何やら用意して私を舞踏会の会場まで送り届けている。弟子のノアにもそれができても可笑しくないが…。


「そんなことできるの?」

「一応ドレスとかは用意できます。ただ、私はあまり遠くの魔法を維持できないので…」


なるほど、距離か。その問題さえ解決できるならこれほど心強い味方はいない。どうしたらいいかわからなかった先程よりは道が見えてきたような気がする。


「ちなみに、ノアの魔法ってどのくらいの距離なら維持できるの?」

「大体、ダンスホールの端から端くらいですね」


それならノアが許してくれるなら簡単な解決方法がある。


「ノア、私のパートナーとして一緒に舞踏会出てくれない?」


この世界において、片方が招待状を持っているならパートナーは招待状を必要としない。今回の場合だと、一応貴族の娘である私には招待状が来ているはずだからノアも入れる…はず。


「え、良いんですか!?エラちゃんが舞踏会に行きたい理由って、隣国の国王様とかじゃ…」

「全然違うよ」


どちらかというと妹姫のほうだし。


「そういう事なら喜んでご一緒します!その日なら師匠もお城で仕事なので夜も修業ありませんし!」


こうしてノアが一緒に舞踏会に行くことが決定した。舞踏会の中で起こった出来事は私も知らないから、あとは行き当たりばったりしかない。


…どうか、この未来が少しでも良い方向に向かいますように。

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