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プロローグ~巻き戻し~

メイド服を身に纏った私は、王城の窓から城下を見下ろす。そこに広がるのは怒りに満ちた民衆が城に押し寄せてくる悪夢のような光景だ。

別に、普通のメイドにとってはなんてことない光景。むしろ、こんな王政から解放されることは希望ですらあるかもしれない。しかし、かつて王妃()()()私にとっては、自分を打倒するためにやってきたように見えてしまう。勿論、実際にはみんな私のことをただの平民だと思っているのだからそんな訳はないのだが。


…ほとんどの家臣は逃げ出した。いまだに残っているのは私と同じような境遇の女性がほとんどだ。何せ彼女らには帰る場所がないのだから。そんな彼女らは今、部屋に引きこもって全てが終わるまで耐えている。そう、この国の国王で私の、そして彼女らの元夫であるクズイアを助けようとする人間は一人もいないのだ。


かくいう私も男を助けるという気は起らなかった。一度は永遠の愛を誓い合い、結婚した記憶を持つ私でもだ。クズイアは色情狂というやつで、ただハーレムを作るというだけならば良かったのにわざわざ王宮専属の魔法使いの力を利用して妻を娶り飽きたら国中の人間の記憶を改竄して新たな妻を求めた。私は、当時王太子だった彼が娶った最初の妻だ。一度は王太子妃として自分たちを歓迎した女が次に城を訪れたら平民の侍女になっていた時の困惑した表情といったらまぁ。なにも覚えてないふりをするのは大変だった。その後もころころと何事もなかったかのように変わる王妃に他国の重鎮がどう思っていたかなんて知りもしないのだろう。


…なぜ、他の元王妃が記憶を失う中で私が無事なのか。別に元夫に特別愛されていたとかではない。ただ、私の幼馴染であり魔法使いの弟子であるノアのおかげだ。彼は私が結婚する前に『魔よけの指輪』をくれた。この指輪はその名の通りいかなる魔法も無効化してくれる物らしい。


しかし、記憶があるということは私に王妃としての責任感もあるということだ。特に、元夫の最初の妻であった私は彼を支え、より良い国にするために尽力しなくてはいけなかった。彼が他の女性を求めてしまったのは私の落ち度でもあるのだろう。結果、この国が崩壊するという最悪の結末に行き着いてしまった。


…だから、私はやり直すのだ。


私は、城に住み込みで働くメイドとして与えられている自室に戻ると引き出しの中から一つの懐中時計を取り出した。これは、私が転生するときに神様に貰ったものだ。この時計を使えば一度だけ時を巻き戻すことができる。結婚前、実家でも立場が弱かった私に何かを変えることが可能なのかはわからない。それでも、このまま国が壊れるのを見ているわけにはいかない。私にほんの少しでも原因があるのならば、変えなくては。そのために、時間を巻き戻す。


王子と結婚した時…シンデレラに転生したのだろう私がハッピーエンドを迎えたあの時、この時計を使うことはないだろうと思った。時間を巻き戻せば、この世界のどこかにいるこの国とは無関係で、ただ幸せに生きている人の幸せをなかったことにしてしまう時計。無関係の人を巻き込んでしまうこの選択は私のエゴでしかないだろう。それでも、私は見知らぬ誰かより手の届く人を助けたい。


私は、時計を起動した。



*****



ププー


ある日、大きなクラクションの音が響き渡って、普通の女子高生だった私は突然死んだ。


ところで、人生を終えたら天国か地獄…死後の世界に行って楽しみ(苦しみ?)時が来たら転生する、そう信じている人間は多いのではないだろうか。実際、最終的に転生することは当たっている。私みたいな死に方じゃなく、定められた運命の通りに世を去れば死後の世界で転生を待つ時間もあるのかもしれない。


そして、こういうことを信じている人は神様も信じていると思う(偏見)。しかし、そんな人たちに声を大にして言いたい。


神様は私たちが思うほど万能ではないし、おっちょこちょいであると!


「ごめんなさい!まさかちょっと居眠りしている間にこんな事が起きるなんて…」


目の前で土下座をする幼女姿の神様に対して私は怒りよりも呆れの感情が出た。


「次の人生でに記憶を残しますし、何なら神具もお貸しするので許してくださぁい!」

「いいよ、というか怒っても生き返れないんでしょ?」

「はい、一度死んだ人間はどんな理由でも生き返ることが出来ないんです」

「じゃあ、怒っても仕方ないし」

「許してくれるんですか!?ありがとうございます!」


だってここで怒り続けても何の解決にもならないし。思わず溜め息をついてしまう。一方で神様は慌ただしく私の転生の準備を始めたようだ。


「準備整いました!最後に、これがお約束していた神具です。これを使えば一度だけ、時間を巻き戻すことができます」


そう言うと神様はこちらに手のひらを向けた。どうやらいよいよ転生の時が来たようで、徐々に意識が遠のいていく。


「良き人生を」


その言葉を最後に私の視界が暗転した。



*****



「いつまで寝ているの!?エラ!」


義母の叫び声で意識が覚醒する。ベッドから起き上がって周囲を見回すと、ここは実家の自室だった。巻き戻しはしっかりと成功したらしい。


…さあ、ここからがリスタートだ。最悪を回避するために、少しでも抗って見せよう。

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