妖古書店二話「後悔①」
古書店に閉じ込められた二人の男である碧人と優が、店を散策するようです。
俺達は噂の古書店へと不法に侵入し、スマホのライトを頼りに店内を見渡した。
暗がりの中、スマホの粗末な灯で散策するのは心もとないが、無い物ねだりは良くない。
店内の奥へ行こうとしたとき、ベタな展開だが扉が閉まった。
優「・・・人間。本当に焦ると冷静になるもんだな。まあ、風で閉まったんだろ。」
正直。あと1秒でも優が口を開かなかったら俺は叫んでいた自信がある。ああ。。こんなところ来るんじゃなかった!
碧人「なあ、散策とか言ったけどもう帰ろうぜ。お前の家で夜通しゲーム。それでいいじゃないか。」
優「賛成だな。。悪い。俺の気まぐれに付き合わせて。こんなおっかない場所、もう一秒でも居たくないしな。」
優が閉じた扉のドアノブに手をかけて捻った。ガチャガチャとした音が店内に鳴り響くと、俺たちは口にはしないものの、何者かの仕業により扉が開かなくなったことを悟った。
やばい!
俺は普段、どんなことが起きたとしても、基本は冷静に物事を俯瞰して対処してきたつもりだ。
が、それはただ単に本当に危ない目に会ってこなかっただけで、実際のところ中身は普通の高校1年生だったようだ。窓を割る?、鍵を壊す?、、前へ進む?、、、3番目は無いな。1か2番目。絶対に。
そんなしょうもない事を考えていたら、優が口を開いた。
優「こうなったら、もう、進しかないと思うんだが、どうだ?」
どうだ?だと。。ふざけないで欲しい。自分が何を言っているかを。そもそもどうしてこいつはこんなに冷静なんだ?、おかしいだろ!閉じ込められているんだぞ。こんなスマホの灯しか無い密室で!だが俺も物を壊して逃げたとして、隠しきれる気がしない。裏口的なのもあると思うし、それにかけて進む、、しかないか。。。。
碧人「分かったよ。はあ。。憂鬱だよ。本当に、、」
優「うだうだ言ってねえで進むぞ。。俺も少しだけ後悔してるよ。ここからちゃんと出れたら、ラーメン奢るよ。いつも行ってるとこの。」
碧人「チャーシューと煮卵も付けろよ」
優「却下だ」
軽い死亡フラグが立った気もするが、今はそんな些事を気にしている余裕はない。軽い雑談のお陰か少し気が楽になった。まあこんな小さい店だ。案外すぐに出られるかもしれない。明るく行こう。人生、なんとかなるもんだ。
冷静になったからか、少し気がついた。こんな誰もやっていない古書店、ライトで辺りを照らしたら、埃が舞ってキラキラするものじゃないのか?少し綺麗すぎる。誰かが毎日掃除してるのか?、、
そんな回答が無い問題を考えていた時に、優が話し掛けてきた。
優「おい見ろよ!良く分からない言葉の本がこっちにびっしり詰まってるぜ。そこの棚の本は日本語だな。だけどどれも様子がおかしくないか?」
碧人「様子?」
優「ああ、こっちの背表紙には「世界美味宝石集」、あっちの背表紙には「ヤマタノオロチの飼い方」
「八百万の神が集う地へ」なんて物もある。。想像していたのと随分かけ離れているな。オカルトが過ぎるぜ。。」
碧人「オカルトか。。そうだな。宝石を食ったり、ヤマタノオロチを飼ったりなんてできる化け物なんて、居る訳ねえもん。「八百万の神が集う地へ」は良くあるファンタジー系の小説にありそうだな。」
拍子抜け、とは少し違うが、こんなオカルト本を扱ってる店だ。古書店ですら無かったのかもしれない。
もっと色々な本も見てみようかと思ったけど、今は帰る方が優先だ。少し歩いていると、店の奥へと続きそうな扉を見つけた。この店に似合わないくらいおんぼろで、吹けば飛びそうな扉だ。
優「まあ、進しかないわな。」
ここで一晩過ごす、、、無いな。絶対に嫌だ。もう不法侵入ならやってのけたのだから、今更一つ扉を開けるなんて全然余裕だ。優の言う通り、ここはもう進しかないだろう。
碧人「ああ、行こうか。」
優が恐る恐る扉を開けた。以外にも扉は嫌な音は出さずにスムーズに開いた。スマホで先を照らそうとした時、俺と優はあることに気が付いた。そこには無限に続いている様に錯覚する長い廊下と、壁に蝋燭の様な物が掛けられていて、淡い灯が廊下一面をあやしく照らしていた。
ありえない。ゲームやアニメ、漫画の世界でしか見たことのない世界が確かにそこに広がっていた。
碧人「これは、、流石に引き返そう、優。」
優が俺の問いに答えようとした時、扉が閉まった。馬鹿か!?俺は。。考えればそうだ。入口の扉が急に閉まって開けられなくなったのなら、奥へ続くこの扉も閉まる事を予想できたはずだ。。焦ると人間、視野が狭くなる。もう前へ進むしか俺達に道がない事を、理解するのに時間は必要ない。
そう思っていた矢先、優がこの静寂に一石を投じた。
優「あぶねえ!間一髪だぜ。なんとかリュックを扉に嚙ますことが出来たぜ。この変な廊下を歩くなんて頼まれてもしたくないしな。引き返して、窓でも割って、帰ろう。バレたら一緒に怒られようぜ。相棒。」
ああ、こいつはこんなにも頼もしい奴だったなんて俺は知らなかった。逆にラーメンを奢らせて欲しいくらいだ。帰れる。そう思っただけで正直、テンションが上がった。ここにはもう二度と近づかない。そりゃそうだ。こんな怖い目に高1があったんだ。大人でも震えるだろう。
碧人「お前が居てくれて良かったよ。。本当にありがとう、相棒。もうこんな所、さっさと出よう。」
優「はは。まさかお前が俺の事を相棒って呼んでくれるなんて思わなかったぜ。槍でも降りそうだな。こりゃ。」
碧人「調子に乗るな!もう早く扉をあけてくれ。」
軽い雑談で気分が解れた。これで帰れる。窓を割る方法?そこら辺の椅子でも投げたら一発だろう。段々ポジティブになって来たのが分かる。
結局扉は開かなかった。なんてことはなく、初めと同じでスムーズに開いた。その瞬間、俺達の希望は残酷に散っていった。来た時と空間その物が違ったのだ。漂う腐臭。耳元で囁く様な呻き声。感じる視線。そしてグチャグチャになったピンク色をした肉塊の様な物が醜く部屋一面に這いずっていた。床から壁、天井に至るまでびっしりと。その肉塊は俺達の存在を感じ取ったのか一瞬動きを止め、俺達の方へとゆっくり伸びてきた。
碧人「おい!おい!早く閉めるんだよ!お前が閉めないなら俺が閉める!どけ!!!」
俺は優のリュックを強引に廊下側へ引き込み、扉を勢い良く閉めた。しばらく扉を撫でるようなモソモソした音が聞こえていたが、5分もすれば蝋燭の様な物が灯す火が、爆ぜる音しか聞こえなくなった。そういえば、気のせいだろうか、一瞬、リュックを手に取った時に、優が笑っている様に見えた、、気でも狂っていたのだろうか?だが今は、そんなこと些細な事に過ぎない。時間が経ち、段々と冷静になってきた。
碧人「なんだったんだ、今のは。。集団ヒステリーにしては出来が良すぎるな。」
優「俺にもあれが、なんだったかなんて分からないさ。退路が断たれた今、もう進しかないみたいだな。」
碧人「はあぁ。どうして俺がこんな目に会わなくちゃなんだよ。。ここから二人で生きて出て、埋め合わせ。きっちりして貰うからな。。」
優「分かったよ。元はと言えば俺のせいなんだ。お前をしっかり家まで送ってやるよ。」
そして、俺達は前へ進むことを決心し、重い腰を上げ、立ち上がり、前を向き、歩き出した。
前回の更新からリアルで一年くらい経ったかもです。すみません。
社会人一年生として新生活を始めた私ですが、以外に忙しく、筆が乗らない期間が続きました。
これからはゆっくりですが、投稿をしていこうと思っています。これからもよろしくお願いします。