第9話 港街ガンドルノ。
なんか、少しグダったかも・・・
「・・・・・なるほど、それで?」
「ふむ。だから、ここをこういう風にすれば、な」
「でも、あえてこうするという手もありますけど」
港町ガンドルノへ向かい始めて約4日目。
俺たちはいつものようにフィオから魔法を教えてもらいながら、旅を続けていた。
徒歩とはいえ、魔物等に会わないかぎり道中はかなり暇である。
そこで、例の魔導書を使い暇潰しがてら勉強をしている。
「・・・・それにしても、そんな便利な能力があるならもっと早くに教えてくれてもよかったんじゃないですか?」
そう言いながら俺を睨んでくるフィオ。
実は、文字を理解、表現できる能力があるのを二人に言ってなかったのだ。
気付いた当初、今度言えばいいか、程度にしか考えておらず、印象に残ることなく忘れ去られていた。
それをつい先日思い出したのだから、フィオの視線には苦笑するしかない。
「そうじゃの・・・・この能力があればあの本も、あの本も読めたのじゃが」
同じく、リリアも俺を睨んできた。
リリアの家には、色んな文字の蔵書があり、リリアが読めないものも多数あったんだとか。
それを読まないまま家に放置してきたから、“魔法オタク”である二人は相当憤慨していた。
魔法を教えてもらいつつも、二人の嫌味を繰り返し聞いていた俺は、そろそろ精神的に参りそうになっていたりする。
「はぁ・・・・・・だからごめんって言ってるだろ?」
さすがにそろそろ苛立ちが募ってきた。
こんな気持ちになるのは、この世界に来て初めてのことだ。
きっと、疲れも苛立ちを後押ししているに違いない。
・・・・・・気まずい沈黙。
俺は魔導書に視線を固定させて、二人の方をなるべく見ないようにした。
そんな沈黙がどれくらい続いたのか。
ふと、嗅いだことのある匂いが鼻孔をくすぐった。
ゆっくりと視線を上げてみれば、遠くの方に水平線が見えた。
匂いの正体は、海独特の磯の香りか。
この調子で行くと、予定よりかなり早く着けそうだ。
フィオとリリアもそれに気づいたらしく、ホッと息をはいている。
重かった空気が、少しだけ軽くなったような気がした。
しかし、どちらが謝るでもなく、沈黙は街に到着するまで続いた。
☆☆☆☆
「んじゃあ、ちょっとブラブラしてくるから」
無事街に着いた俺たちは、手頃な値段の宿を見つけて部屋を二つとった。
まぁ、節約の為に、なんてのは一時はいらないだろうからな。
懐はかなり暖かいわけだし。
俺は頭を冷やすために、散歩がてら街を散策することにしたのだ。
とりあえず二人にそう言い残して自分の部屋に荷物を置き、宿を出た。
港街ガンドルノは、色んな場所と交易をしているらしく、多種多様の種族がいるみたいだ。
獣耳の女の子に釣られそうになってしまったのは、仕方のないことだろう。
いつの間にか人混みが嫌いな俺でもかなり楽しめていることに、一人苦笑する。
「・・・・・帰ったら謝ろう」
そう決心して、言葉だけでは不安なので何か買っていくことにした。
幸いなことに、街の至るところに商人が出店を開いていて、品揃えには困らない。
俺は少し立ち止まり、魔法とかに関する商品を探すべく、ここに来るまでの道中で会得した魔法を行使することにした。
「我にその道を示せ。『探索』」
この魔法は、魔法武器や古代魔法兵器を探すべく開発されたものらしく、最終的には魔法に関するものすべてを探索できるようになったらしい。
空気(風)の魔法を応用に使った探索の魔法。
あの魔導書の中で、何かしら役に立ちそうなので率先的に覚えておいたのだが、さっそく役に立つとは。
俺の目の前で風が渦巻き球を創る。
そして、それが何かを差すように矢印を形作った。
ちなみに、この矢印が他者に見えないというのは、練習した時に実験済みである。
俺は矢印に従って、街の裏通りへと足を進めた。
☆☆☆☆
入り組んだ路地裏を進んでいくと、一件の古びた家の前で魔法が切れた。
どうやら、この家が目的地らしい。
俺は、軽く深呼吸をして、家のドアを開いた。
「いらっしゃいまーーーーーーーなんだい。子供〈ガキ〉かよ。ここは玩具屋じゃねぇんだ、帰んな」
店の店主らしき男は、俺の顔を見るなりそう言いやがった。
見た目50後半だろうか。ツルッとハゲあがった頭に、白い髭を10cm程顎下に携えている。
しかし、折角魔法まで使って見つけた店がこんなんじゃかなり萎える。
魔法を使ったらそれなりに疲れるのだ。
「あ、あのさ、はg・・・・いや、おじちゃん。人を見た目で判断するのはどうかと思うんだけど」
「・・・・・・まぁ、確かに、この店に一般人がたどり着くことは滅多にないがよぉ・・・・しかし、見た目が子供〈ガキ〉じゃあな」
ハゲ、と言い掛けたとこで店主の眉がピクリと動いたから、なんとか自重した。
まぁ、たぶん暗に、“金を持ってるのか?”言ってるんじゃないだろうか。
魔法に関するものってのは、どのゲームでも高いし。
「大丈夫。金ならある」
「・・・・・・・そうか。まぁ、それなら商品を見ていくといい」
俺の言葉を信じてくれたのか、店主はふぅっと息を吐き、諦めたように目を瞑った。
どうやら、厄介なませた子供〈ガキ〉が来ちまったな的なことを思っているんだろう。
「ありがと」
そう言って、店の中をぐるりと見回した。
店主に似合わず、店の中はきっちり整理されており、本のコーナー、武器のコーナー等、に区分されている。
俺はまず、本、魔導書を見ることにした。
・・・・・はっきり言おう。どれがいいのかさっぱりわからん。
文字は読めるのだが、どの魔法を自分が覚えるべきなのかを把握できてないのだ。
それに、リリアとフィオがどんなものを欲しいのかわかんないし。
数分悩んだ末、魔導書は諦めて他の商品を見ることにした。
☆☆☆☆
どのくらい店に居ただろうか。とりあえず店の商品は一通り見てみたが、めぼしいものがなかった。
そもそも、物で釣って許してもらおうと思っている方が悪いのだ。
こうなったら、正々堂々と土下座でもして謝ろう。
そう決心し、店を出ようと店主に声をかけた。
「よさそうなのなかったから、帰る」
そう言い残し店主に背中を見せる。と。
「・・・・・・・待て」
その言葉に振り返り、店主の顔を見る。
そこには、何か納得いかない。そういった表情で、顎髭を撫でている店主がいた。
「俺ぁ、これでもかなり苦労してコイツラを集めたんだ。いいのがない、なんて納得できねぇ」
コイツラ、とは魔法の品々のことだろう。
基本的に、魔法具は唯一無二。同じものは存在しないのだ。
それを店を開けるくらい集めるのは、膨大な金と膨大な時間が必要であろう。
それを見るだけ見て、『良いのがない』なんて、確かに失礼だったかもしれない。
「ちょいと待ってろ」
俺が謝ろうかと口を開きかけると、店主はそう言い残して店の奥へ入っていった。
数分して戻ってきた店主が手に持っていたのは、奇妙な造形が施されている箱。
「・・・・どうだ。コレはうちの一番の商品で、封印の黄金櫃〈おうごんひつ〉だ」
・・・いや、一瞬どこのカードゲームだよ、と突っ込みたくなったが、確かに見た目は黄金の櫃だ。
封印、てことは何かが入ってるのか?
「ヌビアヌ砂漠の遺跡から俺が見つけた、本物の古代魔法兵器だよ。どうだ子供〈ガキ〉、驚いて声も出ないか?」
ニシシッと無邪気に笑いながら、俺の目の前にその櫃を差し出してくる店主。
「・・・・『喚べよ、謳えよ。さすれば、我が主と認めん』・・・何コレ?」
俺は櫃に施されていた装飾(どうやら文字らしい)を読み上げた。
それを見た店主は、目を丸くして驚いている。
「お前・・・・・失われし文字〈ロスト・スペル〉を読めるのか?」
その言葉に首を傾げる。
今の単語は初めて聞いた。
「失われし文字〈ロスト・スペル〉?」
「昔、今より魔法の文化が盛んだったときの、王族だけが読めたという文字だ。詳しくはわからんが、俺はそういう風に聞いた。・・・・・・一体何者だお前は」
ふむ。となると、この中身は“良いもの”なのか。
「・・・・よし、俺が何故この文字を読めたかを教えてやる。変わりにそれをくれないか?」
「なっ!?・・・・・てめぇ」
「悪い話じゃないと思うんだけどな。それとも何?俺が何故それを読めるのか、知りたくないの?」
「・・・・それは・・・」
これだけ魔法関連の物を集めた店主のことだ。識欲はかなりあるだろう。
俺としても、リリアとフィオの機嫌が治る確立大のこの櫃の中身はかなり欲しい。
人との交渉事なんて生まれて初めての経験だが、漫画やラノベから得た知識でなんとかしてみるさ。
「金貨5枚に俺の情報」
「・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
しばらく考えていた店主は、眉を顰めながら一つ頷いた。
俺はニヤリと笑うと、すべての文字を読むことができる異能があることを話し、金貨を5枚差し出した。
証拠として、店主が指示した魔導書を読んでやった。
あと、櫃に施されている失われし文字〈ロスト・スペル〉についても、どの形がどんな意味を示すのかを教えてやると、どうやら満足したみたいだ。
「ありがとうございました!また、来てくだせぇ!!」
入店の時とは打って変わって、爽やかな挨拶で送り出される。
現金だなぁ、と苦笑しながら、二人に謝るべく宿へと急いだ。