第8話 龍殺し。
「・・・・・・これが手頃な依頼・・・・ね」
俺は、対峙しているとある生物の唸り声を聞きながらリリアとフィオにジトッとした視線を送る。
リリアが受注した依頼は、初任務には相応しくない“龍殺し”というものだった。
受付のお姉さん曰く、任務が難しくても、依頼料が安いばかりにランクが下がるまったく割りに合わないハズレ任務というものがあるらしい。
本来ならSランクでも受注する人が少ない“龍を殺す”という任務を、何の間違いかこの二人は受けやがったのだ。
ちなみに報酬は金貨120枚。
ここに来る途中、リリアたちから聞いた話によると、銅貸100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚ということらしい。
ちなみに、成人男性の平均収入が銀貨20枚らしいから、金貨120枚の価値は相当なものだ。
それでも、ランクが下がってしまうくらい安い報酬ということだから、龍種の恐ろしさは語るに足りないだろう。
しかし、金の亡者状態に陥っている二人は、目の前に立ちふさがる龍種に恐れることなどしていない。
「・・・・・・フィオ、魔導書の準備を」
「はいマスター。これです」
リリアが手を差し出すと、フィオが大事そうに魔導書を差し出した。
今回の任務、実は、買ったばかりの魔導書がどんなものか試したいというのも少し・・・・・いや、かなりあるのかもしれない。
「・・・・・フィオ」
「はいマスター」
「字が読めぬのじゃ・・・・ぐすんっ」
「・・・・・・一時退却しましょうか」
二人がそんなやりとりを終えた後、逃げようと龍に背を向けるが、どこに隠れていたのかワラワラと他の龍が湧いてきた。
俺たち3人を囲むように黒い龍、すなわち黒龍がドシドシと歩き始める。
2、3、4・・・・・6匹だと!
リリアの家で読んだ本に書いてあったことを思い出す。
『龍は誇りが高いので群れることはしません。上位種である黒と白の龍は特に群れることを嫌い、繁殖期以外はそれぞれの縄張りを、孤独に守っています』
・・・・・・嘘ばっかり。
そういえばこんなことも書いてたな。
『龍種は人化も出来ます。あなたの友達は、もしかしたら人間ではないかもしれません』
そんな安い怪談話のオチみたいなのは何の役に立つんだろうか。
あの本を出版した人は死ねばいいのに。
そんな八つ当たりじみたことを思いながら現実を逃避したところで、目の前の龍が去ってくれるわけもなく・・・・・・何か手はないか・・・・・・・って、そうだ!
「リリア、その本貸してッ!」
「おぉう!?い、いきなりなんじゃ!」
俺はリリアから魔導書をひったくると、パラパラとページを捲る。
この世界に召喚された時の、所謂〈いわゆる〉異世界召喚補正ってやつで、あらゆる文字を理解、表現出来るようになっていたことを今のいままで忘れていた。
この能力に気付いたのは、リリアの家にある本を読み漁っていた時なんだが、当初は、こんな能力よりもっとチートな補正をしてくれよと切に願ったが、結局それが叶うことはなかった。
まぁ、この能力もかなり便利ではあるのだが。
「ッ!コレじゃない、コレでもないッ!!・・・・・・・これは使える!」
魔導書に、龍壊し〈ドラゴンブレイカー〉という項目を見つけた。
これをリリアに教えれば・・・・・・・と、視線を上げて唖然とした。
なぜならば、“既に”龍たちは自身の頭を失っていたからだ。
龍の鱗は硬くて丈夫?・・・・・・・そんな理屈は、フィオの手に握られた一本の屶〈なた〉が覆〈くつがえ〉していた。
フィオが屶を空振ると、屶に付いていた血が飛び、屶は本来の鋭さを秘めた妖しげな光を取り戻した。
そんなフィオの姿と、某屶女の姿が重なるのはなぜだろうか。
「・・・・獄炎」
残った龍の首より下は、リリアの一言により墨と化した。
「主人公よりチートな登場人物ってどうよ・・・・・・」
そんな俺の呟きは、“龍だった”塵を巻き上げ、空へと運んでいく風に乗って消え失せた。
☆☆☆☆
ギルドに、証拠品となる龍の首を6つ持ち帰った。
いやぁ、周りにいた、いかにも強そうな人たちの驚いた顔は笑えたよ、うん。
受付のお姉さんは、龍の頭を見るなり涙目になってたし。これは少し可哀想な気もしたが。
勿論のこと、町人からは奇異の目で見られましたとも。
・・・・・・・俺が。
何もしてないからって、流石に龍の首を6つも引き連るのは体力的にも精神的にも宜〈よろ〉しくない。
ちなみに、よく見ると龍の色は黒じゃなくて灰色だった。
フィオ曰く、下位種でも上位種でもない半端ものの龍らしいが、一匹で国を半壊させるくらいには強いらしい。
それを倒すなんて、本当に何なのこの二人。
ちなみに、フィオが使っていた屶は、「戻れ」の掛け声とともに手のひらに納まるくらい小さくなった。
なんでも先代が残した魔法武器なんだとか。
・・・・さっきの戦いまでその存在すら聞かされていなかったからって、別にいじけたりなんてしないんだからね?
っと、閑話休題。
ちなみに、龍は頭1つで50金貨になった。
なんでも、龍の眼にかなりの希少価値があるらしい。
報酬と合わせて420金貨。
なんでも小さな国の半年分の予算くらいはあるんだとか。
んで、ランクもアップ。
Bランクになったことにより、新たに二つ名を名乗ることを許された。
ちなみに、二つ名を俺が決めてほしいという二人の要望に応えるべく、二人に相応しい二つ名を必死で考えた。
決めた後になぜか頭を叩かれたけど、何がダメだったのか・・・・・まぁ、勝手に申請しといたから変更は出来ないけどね。
懐もかなり暖かくなり、ホクホク顔でギルドを出る頃には、すでに日が落ち、空には無数の星が瞬いていた。
「さぁて、今夜は大盤振る舞いじゃ!食いまくるぞぉ!」
「マスター、危ないですから走らないでください!!」
はしゃぐ二人を見ながら、手に持っていたかなり重い金貨袋を開く。
中は、びっしりと金色一色に染まっていた。
ちなみに、報酬はきっちり三等分。
首を運んだだけの俺としては、とても心が痛んだ。
こうして、今日がゆっくりと過ぎてゆく。
俺をふと空を見上げると、流れ星が一つ流れた。
俺は、その星に願いを込める。
「明日も楽しくなればいいな」
そんな俺をよそに、リリアとフィオが店の中へ入っていく。
「リョウ!はようせんかっ!!我はもう我慢できぬぞ!」
そんなフィオの急かす言葉に苦笑しながら、俺は手を上げて返事をし、ゆっくりと足を進めた。
☆☆☆☆
次の日。俺たちは朝早く、港街ガンドルノへと向かう準備を始めた。
朝早く旅立つ理由?町人からの視線が痛いからですよ。
特に俺に対する視線ときたら、まるで化け物を見るような畏怖の視線ばかりである。
まぁ、昔からそういう視線には慣れてたからどうとも思わなかったけどな。
それに、龍の頭を6つも引き連り歩いてたことを思えば畏怖の視線も当たり前だと思うし、俺が町人の立場なら絶対そんな奴と関わろうとは思わない。
リリアとフィオもその辺りは理解しているのか、朝早く立つことに異論はなかった。
「次の目的地まではどのくらいなんだ?」
町の出口が見えた辺りで、フィオに質問してみる。
「ふわぁ・・・・そうですね・・・・・・たぶん歩いて5日程度です」
朝に弱いフィオは、軽く欠伸をしながら俺に返答する。
俺は、そうか、と一言だけ頷き、足を進めた。
その後ろに、眠たげなフィオと完全に目を閉じてしまっているリリアが続く。
俺はリリアの器用さに微笑みながら、半分だけ顔を出している太陽に目を細めた。
名前 リョウ・ユリシマ
性別 男
ランク B
称号 死の運び屋
所属チーム なし
名前 リリア・ダーカムーン
性別 女
ランク B
称号 草刈りの御娘、魔の幼女
所属チーム なし
名前 フィーネ・オリシェール
性別 女
ランク B
称号 漆黒の鬼人
所属チーム なし