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第6話 気付いた想い。



sideリリア



「・・・・我ながら、少しやりすぎたかの」



そんなことを呟きながら、リリアはため息をつく。



「・・・フィオの気持ちはわかっている。たぶん、我と同じだから、の」



誰もいない浴槽の中で、さっきまでリョウがいた場所を見つめるリリア。



リリアの中に渦巻く気持ち。



それはリョウに対してでなく、初めて親しくなった“男”に対するものだと最初は思っていた。



でも、よくよく考えればリョウ以外にも親しい男はいたはずだ。



ならば、なぜリョウに対してだけこんな気持ちになる?



リリアは、自分のことを自分が解らないもどかしさに舌打ちをする。



(しかし、リョウのことが好きだ、という根拠もないしの・・・・。)



もう一度ため息をつき、早く答えを見つけたいと思うリリアなのであった。






☆☆☆☆






sideフィオ



(なんで私がこんな気持ちにならなきゃいけないんですか・・・・全部、全部リョウが悪いんです!)



目に残る涙を拭き取りながら、どこに行くかという考えもなしに歩く。



最初の目的地である“港街ガンドルノ”へ行く中継の町だと言っても、人の足で町の端から端まで歩くのは30分ほどかかる。



そんな町の中をぐるぐる歩き続け、気がついたときには自分の現在地がわからなくなっていた。



小さくため息をつき、とりあえず適当に歩いていればそのうち知っている場所に出るだろうと、ゆっくりと歩きだした。



寂しい・・・・こんな思いをしたのはいつぶりだろうか。



今まで、“命の恩人”であるマスターに負担をかけないために必死で働いていた。



一人で獲物を狩りに出たり、一人で家事などをこなしたり。



それが当たり前すぎて、自分の体にかなりの疲れが蓄積していることにも気づかなかった。



リョウが来る少し前の、マスターとの会話を思い出す。



『召喚に成功したら、この家に住まわせて魔法を教えねばな』



嬉々とした声でそんなことを言うリリアを見て、フィオは苦いものを食べたように眉を顰める。



『・・・・私は、反対です。まったく知らない他人を、この家に住まわせるなんて』



私の反対する気持ちをどうか察してほしい。

私はただ、その召喚される誰かにマスターを盗られたくないのだ。

私はただ、マスターに自分のことだけを見ていてほしいのだ。



『大丈夫。世界の意志にも選ばれた誰かじゃ。このボロ家に住まわせるのは気が進まんが、きっと“良い人”のはずだからの。そう心配するな』



そんな、私が心配していることとはまったく関係ないことを言いながら私の頭を撫でるマスターに呆れながらも、私はただ召喚を手伝うことに専念した。



そうやって喚ばれたのがリョウ。



最初の頃は、わざと悪口を言ったり、きつい態度をとったりしていたが、共に狩りや家事などをしていくうちにあることに気づいた。


今まで淡々とやっていたこと全てが、楽しく感じた。


会話をしながらの薬草探し。



助け合いながらの狩り。



そのうちに、リョウがいなくては何か物足りないと感じるようになった。



心の隙間を埋めてくれたリョウの笑顔。凍った何かを溶かしてくれた暖かさ。



リョウのことを、意識しはじめたのはいつからだろうか。



「・・・・ッ!!」



ふと、視界にリョウの姿がうつった。



もしかして、自分を探しに来てくれたのだろうか?



そう思った瞬間、歩幅が速くなる。そして、その事実に気づき、自然と頬が緩む。



(マスターと何をしていたのか、聞かないとね)



黒い気持ちを心に押し込み、スタスタと歩く。



どうやら、リョウもこちらに気付いたみたいだ。



ドンッ!



突然、誰かにぶつかって体がよろめく。



今まで考えていたことが頭の中から消え去り、少し残念な気持ちになった。



「ごめんなさい」



とりあえず謝り、早くリョウに文句を言ってスッキリしたい。そう思い、はやる気持ちを抑えて足を進めようと一歩を踏み出した。



「おいおいねぇちゃん。今のかなり痛かったんだけど」



運の悪いことに、ぶつかった相手がよりにもよってガラの悪そうな二人組。



私は、自分の不運を呪うとともに、軽くため息をついた。






☆☆☆☆






フィオを見つけた。



どうやら向こうも俺に気づいたみたいで、ギッと睨んできた。



さて、最初はどう話を切り出したものか。



そんなことを思いながら苦笑いしていると、フィオがガラの悪そうな二人にぶつかった。



案の定、何やら文句を言われているフィオ。



どこの世界にもああいう奴はいるんだなぁ、としみじみ思いながら、あの“男たち”の命運を祈りつつ、俺は現場へと歩きだす。



少なからず道を歩いている人々は、フィオの方をチラチラと見ながら哀れそうな視線をおくっている。



まぁ、普通女の子がああなったら、その先の展開は誰しもが予想できるだろう。


相手が、“普通”の女の子ならば、な。



フィオに触れようと、男たちが手を伸ばす。



俺が制止する間もなく、“男たちの体が宙へ浮いた”。



比喩とかではなく、リアルに宙を舞う男たちは、まさか自分達がこんな目に遭うとは思っていなかったのだろう。



いや、この場にいる俺以外の誰が予想できるはずもない。



ポカンと口を開けて、まるで夢でも見ているような顔をしている人が何人か見られた。



もちろん、舞っている当の二人組の顔ときたら、何が起きたのか理解できない、という表情をしており、その間抜けな顔ときたら、爆笑ものである。



俺は知っている。



フィオは、俺がこの世界に来るまでの間、一人で、しかも魔法を使わずに狩りをしていたことを。



俺が初めて狩りに出た日に遭遇した、腕が6本生えている熊みたいなのを素手で相手にしていた彼女の強さを。



綺麗なものには刺がある、とはよくいったものだ。



地面に鈍い音と共に落下し、気絶した二人の男に合掌をするとともに、俺は公衆の面前で土下座をした。



「すいませんでしたッ!!」



羞恥心より、恐怖が上回るなんて滅多なことじゃ体験できないからな。



近づいてくるフィオの足音を感じながら、俺はギュッと目を瞑る。



「何、してるんですか?」


そんなフィオの声に顔を上げると、フィオは頬を膨らませて怒ってはいるもののどことなく柔らかい雰囲気を纏っていた。



「・・・・・フィオ?」



「な、なんですか?」



「お前、フィオだよな?」


「・・・・・・殴っていいですか?」



「・・・すまん。そ、それよりさ。なんか周りの視線が」



気づいてみると、周りにはかなりの野次馬がいた。



「・・・・ッ!!か、帰りましょう!」



フィオもさすがに恥ずかしかったのか、俺の手をとりスタスタと歩き始めた。



(ふぅ・・・どうやら怒りは収まったみたいだな・・・・)



俺はそっと胸を撫で下ろしながら、耳まで赤くなっているフィオの後ろ姿に目を細め、小さく笑った。

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