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第4話 旅立ち。



女の子を連れて帰った俺は、リリアに魔法を使ったことを素直に申告した。



それを聞いたリリアは、怒るよりも、むしろ楽しげに俺の魔法で出来た紐を見たり触ったりしている。



「ふむ。構成もなかなか。魔力の使用量がかなり多い気もするが、許容範囲じゃの」



「・・・・・」



そんなリリアの横では、フィオが複雑そうな表情で俺の魔法で出来た紐を睨んでいる。



先に弟子入りした身としては、やはりその心境は穏やかではないんだろう。



なんか申し訳ないような気分になってしまう。



「・・・・・早く解いてくれないか?」



今まで黙っていた縛られている女の子が、呆れたように呟いた。



「おぉ、すまんの。では・・・・・・・・・“離れよ”」



リリアの一言で、俺の魔法で出来た紐は、ボトッと床に落ちた。



たった一言で解除するなんて・・・・・・さすが、としか思えないな。



女の子は、体の調子を確かめるように飛んだり跳ねたりして、剣を握った。



「お前ッ!」



「はひっ!?」



俺は、女の子に剣を向けられた。



剣先は、俺の喉元を鋭く狙っている。



なんなんだよ・・・・・・俺が何したって・・・・・・・まぁ、少しはしたけどさ。



「私だけでは飽き足らず、女の子を二人も懐柔するとは・・・・死ねぇぇッ!!」



「うおっ!!危ねぇ!・・・・・・お前、一体何を言って」



「消えてなくなれぇ!!」


女の子の振るう剣が、俺の前髪を数本攫っていく。



「うそ、だろッ!?ちょ、二人とも見てないで助けろ!!」



俺はリリアとフィオに必死で助けを求めるが、リリアは、「もっとやれ〜」と煽るし、フィオに関しては、「いっぺん死んでみればいいのに」なんてどこかの地獄少女みたいなこと言ってやがる。



(くぅ・・・・・こうなったら自力でどうにかするしかないよな・・・・)



女の子に暴力を振るうのは気が進まないが、なんか本気で斬られそうだしそんな悠長な事は言ってられない。



「いい加減、大人しく、しろっ!」



俺は、女の子が剣を振り下ろした隙をついて、女の子に飛び掛かった。



地面に女の子を押し倒す感覚。



左の手のひらに、床に積もっていた埃が付着するのが解る。



そういえば、掃除なんてこっちの世界に来て一度もやってないな・・・・・・なぜかわかんないけど、家事の中に掃除が含まれてなかったのだ。



今度絶対綺麗にしてやろうと、少しばかり潔癖症な体が疼き出したその時。



いまさらながら、右手の感触が埃とは別の何かであることに気付く。



ふにふに。



そんな効果音とともに、物凄く嬉し・・・・もとい、死亡フラグな感触を感じた。



なんというお約束パターンなのだろうか。



俺は、倒れた時に思わず瞑ってしまった目をゆっくりと開き、女の子の顔をまじまじと見つめる。



・・・・・そうだなぁ・・・・例えるなら熟れきったトマト。



女の子の顔は、まるで熟れきったトマトのごとく、どんどん真っ赤になっている。



それに触発されてか、自分の顔がどんどん赤くなっていくのを感じた。



俺と女の子は、しばしの間視線を重ねる。



二人を包む妙な雰囲気。



俺は初めて体験するこの雰囲気に気まずさを感じ始め、どうにかしてこの雰囲気を壊そうと思い、ゆっくり口を開いた。



「あ、あの・・・・・」



続く言葉が浮かばない。



頭の中が真っ白になり、口だけが、酸素を求める魚のようにパクパクと開いたり閉じたり。



俺は涙目になりながら、リリアとフィオに視線で助けを求める。



「まったく・・・・なんというヘタレなんじゃ・・・・・我が弟子ながらさすがに悲しくなるのぉ」



リリアはわざとらしくため息を吐きながら、ヤレヤレと肩を竦める。



「・・・・・・はい」



フィオは、俺の近くまで歩いてくると、プイッと視線を逸らしながら、スッと手を差し出してきた。



「・・・・・・・・ありがとう」



フィオがそういう行動をとったことに少し驚きながら、感謝の言葉を一言。



そしてその手をとり、俺はゆっくりと立ち上がった。


実は、フィオから嫌われてるんじゃないかと心配していたのだ。



友達になると言っておきながら、結構突っ掛かってくるし、悪口なんて毎日のように言われていたからな。


でも、助けてくれるってことは友達だと思ってくれてはいるんだよな。・・・・・たぶん。



俺は立ち上がると、倒れている女の子に手を差し伸べた。



倒してしまったのは俺なわけだし、このくらいはしてやらないと。



「・・・・・・・ごめん」


謝罪の言葉を呟き、手をとってくれた女の子の体をグッと引いて起こした。



女の子はいまだに黙ったままだ。



俺は、手を繋いだままだということに気付き、サッと手を放す。



リリアは、床に落ちていた女の子の剣を拾い、ニヤリと笑った。



「早く帰らないと、父親が心配するぞ?“お嬢様”」


リリアの言葉を聞いた女の子は、ハッと我に返り、リリアの手から剣を奪い取ると、俺の顔をキッと睨んできた。



「お前!名前はなんと言うのだ!」



「・・・・えっと、名前?」



「まさか、名前が無いなんて事は・・・・」



「いやいや。あるよ、勿論」



何を言ってるんだこの子は。



アホな子なのか?



「ならば、早く答えろ!」


何が何だか解んないけど、女の子が凄い形相でこっち見てるから答えよう。



俺としては、どうしてこのタイミングで名前を聞くのかがわからなかったから質問してみたんだけど・・・・・・・。



「俺の名前は閖島涼。とりあえず涼って呼んでくれればいいから」



俺は握手を求めるように手を出す。



ここで握手に応えてくれれば、きっと友達になれるはず。



パチンッ!



そんな願いも虚しく、俺の手は見事にはたかれた。



「ふ、フンッ!!別に馴れ合おうなどと思って名前を聞いたわけではない!」



女の子はそう言い放つと、カチンッと剣を鞘に収め、クルッと体を反転し部屋のドアの方へドカドカと音をたてながら歩いていく。



「この借りは絶対返してやる!覚えていろよ、リョウ!!」



そう言い残して、女の子は去っていった。



「・・・・・一体、何だったんだ」



そんな俺の呟きに答えたのはリリア。



「フフッ・・・まぁ、あまり気にするな。悪い子ではない、ただ不器用なだけじゃ。我は嫌われておるみたいだがの」



苦笑しながら、どこか懐かしむように目を瞑るリリア。



「リリアは、あの子のこと知ってるのか?」



「まぁ、な。しかしリョウが気にすることはない。たぶん、もう会うことはないと思うからの」



「会うことがない?」



むむ・・・・意味がわからん。・・・・・・もしかしてあの子、重い病気を患っていてもう死期が近いとか?・・・まさかね。



「うむ。なぜなら、我らはそろそろ旅立たねばならんからの」



「・・・・・・・・・ぇ?」



今、リリアは何て言った?


旅立つ?誰が?



「まぁ、ばあ様が残したこの家を捨てるのは惜しいが、世界を見て回れるのは楽しみでもあるからの」



「そうですね・・・・“エンデュランス”には是非とも行ってみたいです」



「・・・・フィオは現実的じゃの。そんなに勉学に励まなくてものぉ・・・」



「マスター・・・・・勉学が嫌いなだけでしょう?魔法使いとして、あそこには絶対行くべきです!」



「むむむむ・・・・我は“ホワイトランド”の方が・・・・・」



リリアとフィオは、楽しそうに会話をしているが、俺は話の展開についていけない。



何がどうなってんだ?



「リョウ、どうしたんですか?そんな間抜けな顔をして」



「い、いや・・・・・・」


どうしたと言われてもなぁ・・・・。



「なるほどの。いきなり旅立つと言われても理解はできぬか」



「・・・・・・うん」



俺がそう返事をすると、二人は軽くため息をはいた。


「・・・・・リョウがこの世界に呼ばれた理由を思い出してみるんだの」



「・・・・魔王を倒して、世界を改善する?」



「なんだ、わかってるじゃないですか」



「まぁ、要はこの家に留まっていてそれが成せるか、ということだの。答えは否じゃが」



つまり、どこかの小説の主人公みたいに旅に出るってことだよな?



世界を救うために。



「俺に、出来るかなぁ・・・・・」



「出来るかなぁ、ではない。“やる”のじゃ」



リリアの言葉に、心の中に使命感に似たようなものが湧いてきた。



「・・・・・・・・うん、やってみるよ」



俺はぎこちなく微笑んだ。


それは、目の前の目標を追うということがとても新鮮で“ワクワク”するから。


こちらの世界に来る前の自分から少しでも成長出来たのを感じることが出来て嬉しかったから。



こうして、俺とリリアとフィオは、この地を旅立つことになった。



胸に、たくさんの希望と不安を抱えながら。




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