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第3話 お使い。



あれからどれくらい経っただろう。



俺がこの世界に召喚されたあの日から。



確か2週間くらいまでは数えていたが、そこからは数えるのを止めた。



なんかめんどくさくなったし。



とりあえず、なかなかこっちの世界には馴染んできた気がする。



基礎体力作り、という名目で家事をやるうちに、確実に体力はついたと思うし。



肉を食べたければ動物を捕まえたりしないといけないし、貴重な薬草を採るためには危険な場所へ行ったりしなければならない。



それを何度かやっていれば、自然に体力もついていくというものである。



「魔法というものは、主に、水、空気、火、土という四つの元素で構成されておる。これらを、人の中にある魔力を使って顕現させたものが魔法の正体なのじゃ」


今日もいつものように、リリアによる魔法の講義が行われている。



基礎体力がある程度つくと、魔法の理論を頭にたたき込む作業に入った。



今リリアが言ったのは、毎度毎度言われ続けていることである。



それだけ重要なことなのだろう。



水、火、空気、土の四つの元素は、四大元素〈しだいげんそ〉と呼ばれていて、地球の西洋の方でも色々と哲学的なことに使われていたみたいだ。



水は液体。空気は気体。土は固体。火は酸化を表しているらしく、魔法、というよりどちらかというと科学に近いものを感じた。



まずは自分の中にある魔力を感じることから始め、それを体外に放出できるようになる。



これが魔法使いになるための第一段階。



次に、魔力を形に成す為の言葉〈ことのは〉を覚え、魔力を放出しながらその言葉を口にすることで、やっと魔法が成り立つ、といった感じだ。



この時に放出する魔力により、威力も規模もだいぶ変わってくるらしい。



んで、第一段階をかなり早く習得できた俺は(リリアもフィオもかなり驚いていたが)、現在、フィオと肩を並べて、言葉を覚えるのに四苦八苦している。



ちなみに、魔力を感じとるようになるのには、普通5、6年はかかるらしい。



それを聞いた俺は、自身の異常さに自分でも驚いたりした。



リリアは、基礎体力なんて俺やフィオより圧倒的に低いが、それを補って余りあるくらいの知識と魔力がある。



俺とフィオが、普段リリアの家事・洗濯などを文句なしでやっているのは、その知識と魔力に少なからず憧れを抱いているからであろう。



俺の場合それがなくても、友達としてリリアから何かを頼まれたら断れる自信がないけど。



「で、今回は・・・・・・・・ってリョウ、何をボケッとしてるおるかこの戯けめ!!」



リリアが手に持っている杖を振ると、俺の頭の上に盥が落ちてきた。



「痛ッ!!・・・・・何すんだこのようじ・・・・・・ごめん。俺が悪かった」


これでも、師弟関係である。



無闇に逆らうのは得策ではないだろう。



「ったく・・・・まぁ、よいがの。では、魔法置換による空気と土の属性変化についてじゃ」



俺に突っ掛かるより講義を進めることを優先したのか、リリアは話の続きを始める。



「空気は風、土は地と頭の中で置換することにより、使える魔法の幅が広がるからの。これは絶対に覚えとくべきだと我は思う」



なるほど、空気は風、土は地ね。タロット占いでそんなことを誰かが言っていたな。



学校で、一時期タロット占いが流行ったことがあった。



みんなは友達同士でやってたから、俺は横から眺めるくらいしかできなかったけどね。



まぁ、こんな感じで同じ魔法理論を繰り返し頭に詰め込み、覚える。



そのあと、体力作りの為に食糧調達に行く。



こんな日々が何日も何日も続いた。



『魔法使いは根気が大事』、とは、リリアの家の家訓らしい。



まったくその通りだな。






☆☆☆☆






「・・・・・・・はぁ」



ため息が止まらない。



なぜかというと、近くの村までのお使いを頼まれたからだ。



はっきり言って、俺は人が多いところがかなり苦手だ。



まぁ、村人から魔法使いだと知られている二人が村に行くのが危険なのはわかるんだが・・・・。



やはり気が進まないものは進まないのである。



まぁ、俺が行かないせいで調味料が切れて、味気ない食事になるのは微妙に罪悪感があるし・・・・はぁ・・・・・・。



リリアの家から村までは、森の中を歩きで突っ切って約30分くらいかかる。



そろそろ見えてくるはずだが・・・・・・。



「っと、あれか」



そんなこんなで歩いていると、遠目に村の影らしきものが見えてきた。



見た限りでは、どうやらそこまで大きな村ではないらしい。



「よかった。・・・・・すぐに済ませて早く帰ろう」


村の手前まで来ると、自分に気合いをいれて足を踏み出す。



村に入ってみると、思っていたより人が多かった。



まるで、どこかの商店街を歩いているような賑わいがあり、俺は思わず頬が引きつるのを感じる。



「・・・・逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」



せっかくここまで来たのだ。頑張ってみよう。



俺は目的のものを探すため、人混みの中に突入を開始した。



(うぅ〜・・・人多い〜・・・・目が回るぅ〜・・・・)



人の波にもまれて、頭がクラクラしてきた。



車に酔った時のように、体がだるくなる。



(・・・・・・一時離脱っと)



なんとか、どこかの路地みたいな場所まで辿り着けた。



乱れる息を整えようと深呼吸を繰り返し、前の世界で人混みを避けまくっていた自分が少し恨めしくなる。


欲しいものがあればネット注文。外出するにしても、バスに人が多ければ、学校に遅刻してでも徒歩で行く。



そんな無駄な徹底ぶりのせいで、こんなめに遭うなんて思ってもみなかった。



魔王に会う前に、この人混みで既に挫けそうになっている俺なんかに“世界の意志”とやらは何を期待してるのだろうか。



まぁ、いいか。少し我慢すればいいだけだ。



頑張るんだ俺!



自分で自分を励ましつつ、ギッ、と未だに絶えることのない人混みを睨み付け、足を踏み出す。



「・・・・・何、してる?」



突然の声に後ろを振り返る。



なんかこういうの、前にもあったような気がするな。



とっても嫌な予感がするんだけど・・・・・。



「怪しいやつめ。ちょっと来てもらおうか」



見知らぬ女の子から、突然鋭いものを突き付けられました。



俺のどこが怪しいのか。ちゃんといつも通り、リリアから貰った『リリアの家に伝わる正装(黒いフード付きのマントっぽい服)』を装着しているのに。



もちろん、しっかりフードはかぶってるよ?目つきの悪さで変な人に絡まれたくないし。



「女の子が、そんなもの振り回したら危ないよ?そういうのは、子供のやること・・・・・ヒイッ!?」



俺が忠告すると、女の子は肩をプルプルと震わせながらギリッと歯を噛み締める。



もみあげ付近から出ている2本の小さな髪の束が、小さく揺れた。



「お前はッ!!初対面の私に向かって子供よばわり・・・・それだけならまだしも、私の魂と同義でもある刀、“翡翠”をそんなもの扱いするとは・・・・・・・・消えてなくなれぇッ!!!」



女の子は、刀を大きく振りかぶる。



ブォンッ!



風を斬るような音を放ち振り下ろされた刀は、俺がさっきまで居た場所を縦断する。



なんとかギリギリで回避できた。



これも日頃の成果なんだろうか。



とりあえず助かった、と安堵の息をつく間もなく、次の一振りが俺を襲う。



「あ、危ねぇ!!何するんだよこのぬぁっ!?」



避ける度に後退すると、人混みという壁にぶち当たり、後がなくなった。



少し息を詰まらせるも、このままだとバッサリ斬り捨てられそうなので、仕方なく人混みの中に逃げた。



人を押し退けて走りながら、出来るだけ距離を稼ぐ。


「待てぇぇえ!!逃げるな卑怯者ぉぉぉお!!」



後ろの方から声が聞こえる。



別に卑怯者でいいから、追い掛けてくるのやめてくれないかなぁ・・・・。



そんなことを思っていると、視界の中に、調味料を売っている店が見えた。



(よし。客の振りをしてやり過ごそう)



お使いのこともあるし、一石二鳥である。



「あの、すみません。調味料をください」



「あいよ!あら兄ちゃん。見かけない顔だねぇ?」



店の店主らしき、ちょっと陽気な感じのおばちゃんが俺を見るなり首を傾げる。


俺はフードを外し、リリアから言われたとおりのことを言う。



「えっと・・・・『調味料が切れたから、いつものやつをくれんかの。こやつは家の新人じゃからな。これからよろしくしてやってくれ。聡明なる魔女より』・・・って言えって言われたんですけど」



「ん、あぁ。リリアちゃんのとこの新人さんねぇ。だから見かけない顔なはずだ」



・・・・今のでよくわかったな。俺が他人から言われてもわかる気しないけど。


「どこだぁぁぁあ!!逃げるな隠れるな、出てこぉぉぉい!黒フードの男ぉぉお!!」



うるせぇ・・・なんて迷惑な女なんだ・・・・。



「あはは。あんたも、厄介なのに目を付けられたみたいだね」



店のおばちゃんが、何種類かの調味料を袋に包みながら、苦笑する。



「あれ、なんなんですか?」



「まぁ、気にしなさんな。根は悪い子じゃないから、嫌わないでやっておくれよ?・・・・・はいよ」



「ん、ありがとう」



おばちゃんから買い物袋を受け取り、それと引き替えにお金を手渡す。



「んじゃあ、毎度どうもね。また来ておくれよ?」



「・・・・うん。わかった」



俺は軽く手を振りながら、店を後にした。



今はあの女に見つかる前にさっさと帰ろう。



そんなことを思いながら、先ほどよりもスムーズに人混みの中を進む。



人ってのは順応性高いよなぁ。さっきまであんなに辛かった人混みも、だいぶ楽になってきた。



あと、もう少しで村から出られ「おいっ!」・・・・・まじですか・・・・。



「あのさぁ、さっきから何なんだよ」



俺は振り返りながら、目をスッと細くする。



後ろには案の定例の女の子が居て、俺の目を見るなり2歩後退った。



わかってはいたが、こうまでビビられると流石にショックだ。



「わ、私はっ!」



「恐いなら、帰れよ」



俺は出来るだけ冷たく言い放ち、サッと身を翻す。



これできっと、大人しく帰ってくれるは「やぁっ!!」突然、背中に猛烈な痛みが奔る。



「に、にににに逃がさないぞっ!」



息を荒げながら、女の子は俺の背中を踏み付けた。



どうやらさっきの痛みは、背中を蹴られたときに発生したものらしい。



「もう、逃げられないから、観念して大人しくしろ!」



くそ・・・・女の子にやられるなんて、精神的にかなり痛い。



思わず泣きそうになるが、唇を噛み締めそれに耐える。



「地は蛇となりて、捕縛せよ」



一度も成功したことはないが、この状況を打破できるのは魔法くらいだろう。



俺は言葉を唱えて、魔力を地面に注ぎ込む。



モコッ・・・・地面の幾ヶ所かが紐のように浮かび上がり、まるで蛇のようにうねりだした。



「なっ!?お前はいったひぃっ!!? 」



それが女の子の足に絡み付き、ゆっくりと体を這い上がる。



女の子は驚きのあまり、尻餅をついた。



俺は痛む背中をさすりつつ立ち上がり、女の子を睨む。



土からできた紐は、身動きをとれないように、少しきつめに女の子の体を縛り上げている。



謀らずしも、亀甲縛りになっているのは喜ぶべきなのか。



確かに、顔の幼さに比べると体の発育がよろしい。



「魔法、使いかっ!」



女の子は俺を見上げながら、凄い形相で睨む。



「こんなことをして、ただで済むと・・・・・おい待てっ!置いていくな!」



とりあえずうるさいので、放置して帰宅しようとしたら呼び止められた。


「こ、この辺は夜になると野蛮な盗賊や凶暴な魔物が出るんだぞっ!わ、私を置いて行くなっ!!」



う〜ん・・・そこまで言われたら・・・・・しょうがない、か。



「とりあえず、着いてきてよ」



俺はそう言って、女の子を立ち上がらせた。



「何だと!?今、ここでこれを解けば」



「無理だから」



「・・・・・・へ?」



「はっきり言って、魔法をかけたはいいが解く方法がまったくわかんない。・・・・だからリリアに解いてもらうんだよ。早く家に帰りたいだろ?」



俺がそう言うと、女の子は一瞬黙り込み、「早くしろ」と俺に先を促した。



はぁ・・・・やっぱり、リリア怒るかなぁ・・・。



魔法で人に迷惑をかけたのだ。きっとリリアは怒るに違いない。



俺は大きくため息を吐き、重い足取りで歩きだした。

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