第24話 裏切りの彼。
世界の意志は言った。
このままでは世界の均衡が崩れてしまい、この世界そのものが消えてしまう可能性があることを。
理由は単純明快。
勇者が多すぎるのだ。
ただでさえ膨大な力を持った勇者を、各国が我先にと召喚する。
すると、この世界の力のバランスが崩れ、それが世界の崩壊へ繋がる。
俺は世界の意志の話を聞いて、確かに、と頷いた。
彼女の話によると、世界崩壊まではもう時間があまりないらしい。
だからこそ、勇者を越えうる力を持った俺に、魔王と協力して勇者を減らしてほしいんだと。
悩む俺であったが、「この世界が滅ぶってことは、みんな死んじゃうってことなんだよ?」という世界の意志の一言で、心は決まった。
嫌われてもいい。
だけど、リリアやフィオ、ユウリを含め、この世界でこんな俺に親しくしてくれた人たちを守りたい。
そのためなら、見知らぬ人くらい殺せる。
そして俺は、リリアたちには黙ったまま魔王の居城へと向かった。
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「ここがあたしの部屋だよ」
魔国で一番高い建物、その中でも一番高い場所にある部屋から、俺は魔国を見下ろしている。
魔王、名前はルルベル・ガルガランドルフちゃん。
彼女の親衛隊があの村の外で待機しており、俺は案内されるがままに馬車のようなものに乗せられて、気づけば魔王の居城の中にいた。
親衛隊のみなさんからはあまり歓迎されていないみたいではあったが、何しろルルちゃんが俺から離れないので、親衛隊のみなさんは渋々俺の存在を認めている、そんな感じになっていた。
それで、あの村を出て数時間も経っていないのに俺はよくも知らない女の子の部屋にいる、と。
・・・・・これ、なんてエロゲ?
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ボーッとしていた俺を見て、ルルちゃんが心配そうに首を傾げた。
「いや、なんでもないよ」
俺はまるっきり魔王なんかに見えないルルちゃんの頭を撫でながら、苦笑する。
「そうだ!あたしが国を案内してあげるっ!」
ルルちゃんはにぱーとほほ笑みながら、俺の手をギュッと握った。
勇者が集まり、そいつらがここを攻めてくるまでだいたい1ヶ月。
俺は心のなかにたまっていたストレスを発散するために、この1ヶ月の平和な時間を精一杯楽しもうと気持ちを切り替える。
(大丈夫・・・・リリアたちなら、あの三人なら元気にやっていけるさ)
城の廊下を走りながら、俺はそんなことを考えていた。
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「おいっ!」
城を出る前に、俺は誰かかから呼び止められた。
「・・・・・確か、親衛隊の」
どこかで見た顔だと少し考え、すぐさま思い出した。
確か、親衛隊の中でも一番俺を敵視していた人だ。
「ムマ、あたしとお兄ちゃんはこれから出かけるんだけど?」
ルルちゃんはどこかしら不機嫌そうに呟く。
「はい。時間はとらせませんので、彼を少し借りても?」
ムマと呼ばれた彼女はルルちゃんが渋々頷くと共に、俺を壁の方へと寄せた。
親衛隊は皆女性で構成されており、ムマと呼ばれた彼女もまた例外ではない。
そんな彼女から、内緒話をするためではあるが、かなり接近されてしまったのでとても心臓に悪い。
俺は暴れそうになる理性を抑えながら、彼女の言葉に耳を傾ける。
「ルル様は、あまり人と関わるのが得意ではないのだ。間違っても、それにつけこんで妙な気は起こすなよ?」
ムマはそう言い残すと、ルルちゃんに一言挨拶をして、スタスタと去っていった。
「・・・・・・・行こうか」
俺は苦笑しながら、心のオアシスはルルちゃんだけだな、と染々思うのであった。
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Side フィオ
リョウが消えた。
私たちがそれに気づいたのは、くしくもライバルであるはずの憂奈の一言がきっかけでした。
「涼君が知らない女の子と歩いてたんだけど、どういいうことっ!」
そんな言葉を発しながら彼女が宿に飛び込んできたのは、リョウが修行に行くと宿を出てからそう間もない頃でした。
憂奈も勇者であるからこの村に来るのはわかっていましたが、こんなにも早く来るとは・・・・予想外ですね。
私とマスター、ユウリはまたか、とため息をつき、リョウと共に歩いていた人物の容姿を聞いて耳を疑いました。
一人は見覚えのない人物でしたが、もう一人は間違いなく世界の意志のソレだったのです。
「マスター・・・・・これは一体・・・・」
私の質問に、マスターは首を左右に振る。
「わからん・・・・・・あやつ、本当に何を考えておるのだ・・・・」
そんな事件があってからもう1週間。
私たちのいる村に、『魔王側につく勇者がいる』という噂が流れてきました。
それはリョウのことだと私は思いました。
・・・・なんとなくですけどね。
マスターたちも同じ意見らしく、世界の意志に対する何かが私の胸の中にぐるぐると渦巻き始めました。
リョウを私たちから引き離して、もしかしたら私たちはリョウと戦わなければならないかもしれないんです。
・・・・・・いい加減痛い目にあってもらわないと気がすみませんね・・・・・。
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そんなフィオたちを水晶越しに見る老人が一人。
「・・・・ふむ・・・・・・これはまた、世界が大きく動くぞ」
その原因が自分の娘にあることを思うと、彼は大きくため息をつきたくなった。
神が下界に関わるのは、基本的に禁じられているのだ。
それをホイホイと破る娘には、現在の神としてしっかり罰を与えなければならない。
最近になって増えてきた白髪を撫でながら、神はもう一度ため息をつくのであった。
え〜と、たぶん次回で最終話になるかもですねぇ ・・・・・・・短いw そこはスルーしていただけてると幸いです ところで、次は版権を書くかまたまたオリジナルを書くか考え中なんですけど・・・・・・・意見なんかをくださるとかなり嬉しいですw