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第23話 動きだした世界。



「・・・・・・よし、まだ大丈夫みたいだな」



宿に戻ってきた俺は、部屋にまだリリアたちが戻っていないのを確認して胸を撫で下ろす。



先ほどのいざこざで少し疲れているからか、無償に風呂に入りたくなり、俺は部屋に備え付けてある風呂に向かった。



前みたくドッキリなハプニングは起きないとは思うが、念には念をの気持ちで風呂場へと足を進める。



・・・・まぁ、同じことが何度も起きるわけがなく、俺の心配は杞憂に終わった。






☆☆☆☆






その後、リリアたちは俺が風呂から上がるとほぼ同時に帰ってきた。



買い物を楽しんでいてかなりご機嫌らしく、三人ともニコニコと笑っている。



どうやら、カナデちゃんと一緒にいるとこは目撃されてはいないらしい。



・・・・・・・・・なんて、思っていた時期が俺にもありました。



コトは、その日の夜に起きた。



布団に入って夢の世界へ旅立ちかけていた俺に、唐突にフィオが声をかけてきたのだ。



「リョウ、そういえば、今日楽しそうに女の子と歩いてましたよね?」



・・・・・こういうときは寝たフリだ、寝たフリ。



「我の記憶によれば、確か七人の内の一人だった気がするのぉ・・・・どうやって知り合ったのか」



・・・・・相手の正体バレてんのかよ!?



「あ、リョウ様。寝た“フリ”なんてしても、無駄ですからね?」



その日、夜が明けるまで説教の声が聞こえていた・・・・・と、後に宿屋の女将は語った。






☆☆☆☆






次の朝、俺たちはすぐに次の目的地へ向かった。



当初の予定では、お菓子の国に行く算段であったが、そこにも女の子が多いという理由で却下され、結局俺たちが向かった場所は、魔国に隣接している小さな村であった。



魔法都市から徒歩で3日。



そこには、魔王討伐を目的とした勇者たちがかなり集まっていた。



とりあえず宿をとり、俺は安息の地を求めて宿から出た。



なんと言っても、最近リリアたちが俺に対する態度が酷くなっていく一方なのだ。



少しでも何かあれば、小言を言われるし。



まぁ、魔王討伐なんて命に関わることをするのだから、ピリピリしてしまう気持ちはわかるが。



今日も今日とて、三人はそれぞれ鍛練を行っていた。


俺も鍛練を行うと言って宿を出たのだ。



さすがにそれが止められることはなかった。



「・・・・・はぁ〜・・・・」



俺は大きくため息をつく。


あの三人は、なんでそうまでして真剣になるのだろうか。



魔王討伐なんて、他の勇者と力を合わせてやれば楽だろうに。



その真剣さのあまり、宿の部屋の空気はかなり重い。


心労がたまっているせいか、さすがに堪えた。



俺はもう一度ため息をつき、顔を上げる。



村と魔国の間を隔てるように隣接されている壁の向こうには、不気味にたたずむ魔王の居城が見えた。



「・・・・・・・ん?」



そんな俺の服の裾を、誰かがチョイチョイと引っ張る。



顔を向けると、そこには見たことのない少女が立っていた。



「お兄ちゃんが、あたしの友達になってくれる人?」


白い髪に、吸い込まれそうな紅い瞳。



透き通るような白い肌も、彼女の神々しさを際立てていた。



年齢は俺とそう違わないと思う。



なんたって身長が俺と変わらないのだから。



からだつきも、わりと大人っぽいし可愛さのなかにも色気がある。



・・・・・・って、俺は何を言ってんだろうか。



「・・・・君は?」



俺は初めて会ったその少女に問う。



断じて、お兄ちゃんなんて呼ばれる仲ではないし、そんな趣味もない。



「でもさっき、お兄ちゃんならあたしの友達になってくれるって聞いたの」



「・・・誰から?」



「・・・・・世界の、意志ちゃん」



・・・・・・・・・ちょっと待て。



何だって?



「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!!」



俺が困惑していると、それを見計らったようにどこからともなく女の子が湧いてきた。



「はっじめまして!私が世界の意志だよ!」



そう言って微笑んだ彼女は、何が起きているのかよく理解していない俺にズビシと人差し指を立ててこう言った。



「リョウなら出来るよね。その、“魔王ちゃん”と友達になることくらい」



俺がその言葉を理解するのには、しばらくの時間を要した。






☆☆☆☆






Side リリアたち



それは、魔法都市で、リョウがカナデたちと共に塔へ入ってすぐのことであった。



「またリョウのやつは女と・・・・・」



ブツブツと文句を口にするリリア。



先ほどまで買い物をしていて上がっていたテンションも、リョウと見知らぬ女の子が仲良く歩いてるのを見た途端一気に冷めた。



リリアがリョウに抱く気持ちは、かなり確信的なものになりつつあった。



それはフィオも、そしてユウリも同じである。



「リョウにはそろそろ、熱いお灸をすえなきゃいけませんね」



「そうですね・・・・ご主人様のたらしっぷりは、多少酷いです。本人もわずかながらそれを理解しているみたいなのに・・・・・・まぁ、男性としてしょうのないことなんでしょうが」


そんな三人の前に、ふらっと一人の少女が現われた。


リリアとフィオはその人物を知っているのか、僅かながら表情を堅くする。



「・・・・・・・・・世界の意志が、何用じゃ?」



リリアの言葉に、世界の意志はニヤリと笑う。



「いや、ね。今がチャンスじゃないかなぁと思って、すんごい情報を教えに来たんだけどな」



「・・・・・あなたが絡むと、あまりいい方向に物事が進まないんですが」



フィオは忌々しそうに世界の意志を一瞥する。



ユウリは何のことだかよく理解していないみたいだが、リリアとフィオの真面目表情に気を引き締める。



(・・・・・・・世界の意志、ですか)



この世界の人なら誰でも知っているその人物。



ユウリは、世界の意志から放たれる威圧感にも似たものに、ゴクリと唾を呑む。


おとぎ話では、世界の意志はイタズラ好きな神の使いとして語られていたが、実際目にするとそんな風には見えない。



むしろ、狡猾な印象を受けるユウリ。



女としての勘か、それに気づいたユウリは睨むように世界の意志を見る。



「ははっ!嫌われてるね。・・・・誰のお陰でリョウに会えたと思ってるのかなぁ」



わざとらしくため息をつき、まぁいいや、と笑う世界の意志。



「言いたかったことは一つ。今の君たちじゃ、魔王ちゃんには勝てないよ。・・・・・でも、早くしないと、魔王ちゃんが18歳になっちゃうんだよね」



その言葉に、リリアがピクリと反応した。



「・・・・“いつ”じゃ?」



「んっふふー。今から30日くらいかな?」



リリアは眉を思い切りしかめると、軽く舌打ちをした。



「フィオ、ユウリ。魔王が、“本物の魔王”になるのはいつかわかっておるか?」



首を左右に振る二人。



「18。この年齢に達した魔王は、その大きな魔力を倍化させる。それこそ、複数の勇者と渡り合えるくらいにの」



「そーいうこと。リョウを守りたいなら、必死で修行でもするんだね〜」



世界の意志は、そう言い残して姿を消した。



「・・・・・・・帰るかの」



リョウにはこの件を内緒にすると三人で話し合いながら、三人は宿へと戻り始めた。



リョウの事だから、そのことを知ればきっと無理をするに違いない。



なにせ、たくさんの勇者〈異世界人〉の命がかかっているのだから。



それを悟られないように必死で隠しながら、三人はそれぞれ自分なりの鍛練を始めた。



疲れや苛立ちで、リョウに当たってしまうこともあるリリアたち。



三人は必死なために、その八つ当りがリョウの心を三人から遠ざけていることに気づかないのであった。






☆☆☆☆






「いやいやぁ〜。おもしろくなってきたねぇ」



世界の意志は、見た目の歳相応の可愛らしい部屋で一人微笑む。



「・・・・・・ちと、やりすぎではないかの」



そんな世界の意志の部屋に、ふらりと現われたのは一人の老人。



見た目はただの老人のそれであるが、放つ雰囲気は龍種にも似た威圧的なものがある。



そんな老人の雰囲気に物怖じすることなく、世界の意志はにっこりと笑った。



「だって、“お父様”。こっちの方がおもしろそうじゃん」



そう言ってニコニコと笑っている娘を見て、老人・・・・・世間的に言えば神と呼ばれるその男は小さくため息をついて、部屋を後にした。



「育て方、間違ったかの」


そんな神の悩みは、誰の耳にも入ることはなかった。



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