第20話 友達になろう。
何このグダグダ感
途中で何やりたいかわかんなくなったorz
「とりあえず、何でこんな状況になってるのか教えてもらえるか?」
俺はカナデと呼ばれている少女を押し退けつつ、眼鏡の女性に話し掛ける。
「・・・・・そうですね。理由くらいは教えないと、多少理不尽です」
多少どころではない気がするが、そこは敢えてスルーしてやろう。
「その前に、自己紹介を。・・・・私は、カナデ様のメイドをやらせていただいているムュウルニ・ナストバレッドと申します」
「あだ名はムーたんだよ」
「それを言っているのは、カナデ様だけでしょう?」
眼鏡の女性・・・・ムーたんは、見た目どおり律儀な性格らしい。
しかし、カナデとかいう少女に振り回されているのを見る限り、そこまで怖くはないみたいだ。
眼鏡メイドといったら怖いというイメージがなんとなくあったからな。
「えっと、俺の名前は閖島涼。涼の方が名前だから」
「名が後とは珍しいですね。・・・・・覚えておきます」
ムーたんは、懐から手帳らしきものを取り出し、それに俺の名前をメモる。
やっぱ悪い人じゃないみたいだな。
「ぼくはカナデだよ〜。カナデ・フェーリエ・エンデュランス。呼ぶときはカナデって呼んでね!」
・・・・エンデュランス?
それってこの国の国名じゃ・・・・・・。
「気付かれたとは思いますが、カナデ様は選ばれし七人の魔法使いの一人なのです。その七人だけが、国名を名前に入れて名乗ることが出来るのです」
どことなく誇らしげに語るムーたん。
やはりメイドとしては、鼻が高いんだろうな。
「・・・・・・んで、そのお偉いさんが俺なんかに何の用なんだ?」
「う〜んとね。実は七人の内三人は昔からいる魔法使いの人なんだけど、その人たちがぼくに繁栄の為に子供を作れ〜ってうるさいんだよ」
「正確に言わせていただきますと、その方々様の寿命が近いらしいのです。ですから、その代わりに大きな魔力を持った誰かをその穴に入れなければならないのですが・・・・・・・残念なことに、魔法使い同士から産まれた子供というのは、カナデ様を含め全員が七人の中に入っていまして・・・・・」
ゆっくりと表情を暗くするムーたん。
「つまり、後がない、と?」
俺がそう言うと、二人は沈黙した。
どうやら図星らしい。
なるほどな。だから、俺を逆レ○プしようなんて企てたのか。
「でもなぁ・・・・普通そういうのって、好きな人とするべきじゃないのか?」
「そう、ですね・・・・・しかし、カナデ様を含め四人の若い魔法使いたちは、箱入りで育てられたために男性と接触した経験がないのです。・・・・そんな環境で誰かを好きになるなんて・・・・・・不可能ですよね?」
ムーたんの言葉に、俺は目を瞑るしかなかった。
確かに、同性愛の百合百合なやつでない限り、この国で誰かを好きになることは不可能であるようだ。
俺に白羽の矢が立ったということは、俺の他に男性魔法使いはこの国にいないと考えた方がいいだろう。
「それに、純血を守り続けているカナデ様たち以外の、混血の魔法使いの魔力は知れたもの。中には特異な例もありますが、魔力が低い誰かとリョウさんが契っても、いい子孫は生まれないのです。・・・・ですから、どうかカナデ様と・・・・・・お願いします」
そう言われてもなぁ・・・・。
俺はため息をつくとともに、どうしようかと考える。
俺がカナデちゃんとそういう事をすれば、この国は救われる。
俺にとって何かマイナスな点はあるだろうか。
いや、断じてそれはない。
カナデちゃんはかなり可愛いし、ロリなとこを除けば俺の中では満点に近い容姿をしている。
しかし、だ。
俺の欲望と、国の都合の為にカナデちゃんの自由を奪っていいのだろうか。
・・・・・・・ダメだろ。やっぱり。
「・・・・ごめんなさい。俺には、カナデちゃんの相手はできません」
「・・・・・・リョウは、ぼくのこと嫌いなの?」
俺の言葉に、カナデちゃんが声を震わせた。
「・・・・・・・そうだよ。俺は子供に興味はないんだ」
きっと、こう言って諦めさせなきゃカナデちゃんは後々後悔することになると思う。
やっぱり、好きでもない人とはえっちなことをするべきじゃない。
それは、俺が日本という平和で暮らしにほぼ不自由のない国で育ったから言えることである。
この世界では甘い考えかもしれないが、俺はそのルールに従うつもりなんてない。
まぁ、現実を見てないだけなんて言われればそれまでだけどな。
「・・・・・・やっぱり、ぼくは嫌われた子なんだ。・・・・いいんだよ、わかってたし」
カナデちゃんはそう言うと、ベッドから降りて、涙を拭った。
「ムーたん。少し、お手洗いに行ってくるね」
ははは、と無理をしたように笑ったカナデちゃんは、その場から“消えた”。
それを見て少し驚いてしまったが、たぶん魔法の一種なのだろうと納得する。
部屋に、重い沈黙が流れた。
何か喋った方がいいのかと思い、口を開きかけると、ムーたんが軽く息をついて何かを語りだした。
「一つ、お話をさせてもらってもよろしいでしょいか?」
俺がその言葉に頷くと、ムーたんは眼鏡をクイッと上げ、口を開いた。
「あるところに、一人の女の子がいました。彼女は、両親共に魔法使いという由緒ある家に生まれて、それはそれは大切に育てられたのです」
・・・・・・なるほど、な。
俺は、ムーたんが誰のことを語っているかに気づく。
「しかし、世界は残酷なもので、その女の子を残し、両親とも戦〈いくさ〉でお亡くなりになったのです。・・・・・それから女の子は、悲しみを紛れさせるために必死で魔法の勉強をしました。両親の名に恥じぬように」
俺は思わず息を呑んだ。
明るい彼女に、そんな過去があるとなんてまったくの予想外であった。
「そして女の子は七人の魔法使いに選ばれ、その祈願を達成したのです。・・・・しかし、女の子の心はいつまでたっても曇ったままでした。その理由を女の子は模索し続けました。ある時は満足するまでお菓子を食べ、ある時は好きなだけ遊び。それでも女の子は満たされません。・・・・・・・それもそのはず、女の子が本当に欲していたのは、友達だったのです」
ムーたんの友達という言葉に、俺の中の何かが震えた。
「女の子の傍にずっと居たメイドでは、友達になることが出来ませんでした。かと言って、七人の中の一人である女の子と気軽に友達になろうという子は勿論いません」
ムーたんは、悔しそうに唇を噛んだ。
「そんな時、女の子に一つの情報が飛び込んできました。それは、“魔法使いの男性”がこの国にやって来たということです。・・・・・女の子は言いました。『えっちなことすれば、ぼくと友達になってくれるかな?』と。・・・・女の子は、誰かと友達になる方法なんて知りませんでしたし、そのメイドもまた然りです。・・・・・・今のが、私が話したかったことです。」
話し終えたムーたんの瞳には、薄らと光るものが見えた。
・・・・・・・・友達の大切さは、俺がよく理解していることだ。
なら、今俺に出来ることってのは、一つしかないよな?
今ムーたんが話したものが作り話には思えず、俺は心の中でとある決心をした。
「ごめんね〜。少し遅くなっちゃった」
ちょうどいいタイミングで、カナデちゃんが戻ってきた。
その目は赤くなっていて、今までどこかで泣いていたようだ。
「・・・・あのさ」
俺は二人をしっかりと見た。
「えっちなことはしない。そんなこと、必要ないから」
「・・・・・・うん」
俺の言葉に、カナデちゃんがゆっくりと頷いた。
「第一に、俺はカナデちゃんの事あんまり知らないし。もちろんムーた・・・・いや、ムュウルニさんのことも」
コク、と頷く二人。
その表情はとても暗い。
「けど、だからこそ二人に言いたい」
友達がいないカナデちゃんの気持ちは、痛いほどわかる。
心を支える誰かがいてくれないと、本当に辛いのだ。
よく今まで耐えれたなぁ、と関心するばかりである。
だから、頼りないかもしれないけど、俺は二人に伝えなければならない言葉がある。
「俺と友達になってくれないか?」
俺の言葉に、二人は目を見開いた。
「・・・・なんで?ぼく、リョウにまだ何もしてない」
「・・・・・・そうだな。俺もこの前気づかされたんだが、友達になるのに、何かをしたとかしてないとか、理由なんていらないと思うんだよ。・・・・ただ、友達になりたい。その一言だけじゃ、足りないか?」
二人が唾を飲み込む音が聞こえた。
その表情には、かなり戸惑いの色が見える。
「・・・・・・・本当に?」
数秒の沈黙の後、カナデちゃんが恐る恐るといった感じで言葉を紡いだ。
「うん。本当に」
俺は、それにしっかりと返事を返す。
「・・・・私も、ですか?」
「そうだよ。だって、ついでだしね」
ムーたんの怪訝そうな表情に、俺は苦笑した。
どうせなら、目指せ友達100人ってな。
「・・・・・・・・・嬉しい」
カナデちゃんが、頬に涙は伝わせながら微笑んだ。
その表情を見た俺とムーたんはお互いに向かい合い、ニッコリと笑う。
やっぱ、友達っていいよな。
涙を流すカナデちゃん。それを慰めるムーたん。
俺はそんな二人を見ながら、心の奥底がぽかぽかとしてくるのを感じていた。