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第2話 初友。



「ッ!?・・・・風よ!!」



そんな声が聞こえたかと思うと、俺の体は下から押し上げられるような風に吹かれ、崖の上に戻った。



もう一度飛び降りようと体を動かそうとするが、誰かから地面に抑えつけられてしまい、自由に動けない。



「マスター!捕まえましたっ!」



「ハァ・・・・ハァ・・・・・ご、ご苦労だったな」


俺を抑えつけている幽霊さんから遅れること数秒、金髪幼女が息を切らしながらやってきた。



「マスター、日頃から基礎体力を鍛えろって言ってる本人がそれですか・・・・・」



「う、うるさい!!我は頭脳派なのじゃ!」



そんなやりとりをしながら、俺の前に立った金髪幼女は苛立ちを込めたような視線で俺を見た。



「どういう、つもりかの?」



俺はそんな金髪幼女の顔をチラリと見て、視線を逸らす。



「・・・・俺には、何もできないから」



「だからといって、死んでよいのか?」



「・・・・・・そんなの、俺の勝手だろ」



「お主はッ――――「あなた、何を言ってるんですか?」



何かを言おうとした金髪幼女の声を遮って、俺を抑えこんでる幽霊さんがボソッと呟いた。



「・・・・人の命は、そんな軽いものじゃないです。・・・・・もう、知りませんから」



そう言い残した幽霊さんは、俺を解放すると、スタスタとどこかへ行ってしまった。



何が何だかわからない俺は、小さく舌打ちをしながらゆっくりと立ち上がる。



「何故、そんなに死にたがるのだ?」



「・・・・自分が嫌いだから」



問われて初めて気付いた。


俺が死にたい理由は、自分が嫌いだからか。



何もできない自分が。

言い訳ばかりの自分が嫌いだから。



俺はなんて自分勝手で、自己中な・・・・「ならば」と、金髪幼女の言葉が俺の思考を中断させる。



「ならば、我がお主を好きになる。これでどうかの?」



「・・・・・・・・はぁ?」



言っている意味が理解できず、思わず素っ頓狂な声が出た。



こんな俺を、好きになる?バカな。自分でも自分が嫌いなのに、誰かが俺を好きになるなんて無理だ。



「・・・・そんな同情なんていらない」



「・・・・同情、ではないの」



「じゃあ・・・一体なんなんだ」



「お主は、我と似ておるから・・・・・我は、一人ぼっちの辛さを、誰よりもわかっておる」



その後金髪幼女が語りだした内容は、幼女が確かに俺と似た境遇であることを彷彿とさせた。



国の支配下にない魔法使い。その存在がどれだけ嫌われているかを幼女は語った。



魔法という兵器にも似たそれを、ただ国の支配下に置いていないというだけ。

支配なんかされたくないと、とある誰かが国に逆らったがために、国の支配下にない魔法使いは、皆危険だと思われているらしい。



皆が皆そうでないというのに。



ただ国に仕えていないというだけで、どれだけ虐げられてきたか。



俺もそうだ。ただ目つきが悪いというだけでどれだけ虐められたか。



何か言われて、何も言い返す勇気がない臆病者だったということも、虐められる原因の一つであったことは言うまでもないが。



「でも、俺は何も出来ない。魔王なんて倒せないし、人間一人殺すことも出来ないんだ・・・・それでも、何の役に立たなくても生きる価値はあるのか?」



「・・・価値はある。我が喚んだのだ。生きてくれなくては、困る」



「・・・・な、ならさ・・・・・・」



俺はギュッと拳を握り締めながら、なけなしの勇気を振り絞る。



「俺と、友達になってくれないか?」



俺の言葉に、ポカンと口を開く幼女。



「・・・・・・・・・・そのくらい、お安いご用じゃ・・・・・・・・・ただし条件がある」



「・・・・条件?」



にやっと不適な笑みを浮かべる幼女。



「うむ。・・・もう二度と、勝手に死ぬような真似はしないでくれ」



俺に、初めての友達が出来た瞬間だった。



幼女は、嬉しそうに頷く俺に背を向けて歩きだした。


友達、これが友達。



ただ傍にいるだけで、胸がポカポカする。



「それと・・・・・・・外に出るときは、服くらい着ていたほうがいいの」



その一言に、いまさらながら自分が全裸であることに気付いた。



そういえば、俺はこの世界に来る前、風呂に入ってたんだ。



せめて何か着せといてくれよ、と嘆いてみても時すでに遅し。



羞恥のあまり、再び崖から飛び降りようと決心するのに、時間はかからなかった。






☆☆☆☆






崖から何度も飛び降りようとしたが、その都度風の魔法とやらで助けられ、死ねなかった。



結局死ぬことを諦めた俺は、トボトボと幼女の後ろを歩き、最初に目が覚めた部屋まで戻ってきていた。



部屋には、先に戻っていたらしい幽霊さんがいた。



幽霊さんは俺を見るなり、あからさまに嫌そうな顔をする。



俺は服(幽霊さんが着ている黒いローブみたいなやつ)を借りるとすぐに、二人に謝った。



幽霊さんは突然の出来事にぽかんとしているが、幼女はウンウンと頷いている。


「本当に、ごめんなさい」


心からの謝罪。



勝手に死のうとしてごめんなさい。現実から逃げようとしてごめんなさい。



幽霊さんの方も、渋々ながら俺と友達になってくれた。



二人とも、俺を喚んだ責任を感じての友達なのだろうが、それでも俺は嬉しかった。



「とりあえず、俺は何をすればいいのかな?」



せっかく召喚されたのだ。


自分がやれることを、精一杯やろう。



「ふむ。まずは、魔法を覚えてもらうかの」



「・・・・俺が、魔法を?」



願ってもないことである。友達がいなかった俺は、暇な時間を潰すために小説や漫画、アニメの世界にかなり浸っていたのだ。



魔法を使う、というのは、ちょっとした夢だったのである。



「まぁ、あなたは世界の意志から選ばれた存在ですからね。魔力の資質ならまったく問題はないと思いますし、私は賛成です」



「よしよし。満場一致で決定だの」



金髪幼女はともかく、幽霊さんもどことなく嬉しそうな表情をしているように見える。



魔法使いは数が少ないらしいし、1人でも仲間が増えれば、それはやっぱり嬉しいんだろう。



「・・・・ところで、世界の意志って何だ?」



この単語は、二人の口から何度か出ていた。



そのたびに気になっていたのだが、なかなか聞くタイミングがなかったんだよね。



「世界の意志、か。・・・・・・そうだの・・・・簡単に説明すると、“世界”というものにも、人間のそれと同じく“意志”といものがあって・・・まぁ、神様とでも考えてもらえればよいか」



「世界の意志=神様ってこと?」



「まぁ、簡単に言うならば、だの。実際には、神と称されるものと世界の意志は少し違うのだが、話が難しくなるのでな」



「んじゃあ、俺がそれに選ばれたってのは?」



「うむ。我が召喚の義を行うさいに、世界の意志からの介入を受けての。どうやら世界の意志は、今現在の世界をお主に“改善”してほしいようじゃ」



「・・・・俺に?」



「なんせ、お主を選んだのは世界の意志で、我らはそれを導いただけだからの」


つまり、俺は世界の意志とやらに選ばれてこの世界に来れたのか。



まぁ、神様に選ばれて異世界に行くってのは小説なんかでよくある話だから、なんとなく理解はできたんだが・・・・・なんで俺なんだろうか?



まぁ、二人に聞いてもたぶんわからないと思うから、聞かないことにする。



「・・・・・そういえば、名前、まだ聞いてませんでした」



さっきから話に入ってこないで何を考えているかと思えばそんなことを考えていたのか、この幽霊さんは。


「・・・・・我も今気づいたのじゃ」



まぁ、いつまでも幼女と幽霊さんじゃ失礼だから、この機会に名前を覚えておこう。



初めての友達の名前すら知らないってのは、さすがにアレだしな。



「じゃあ、俺から。・・・・・俺の名前は、閖島 涼〈ゆりしま りょう〉。よろしく」



他人に、クラスの自己紹介以外で名前を教えたのは初めてである。



それだけでとても嬉しくなってしまう俺は、すこし変人なのだろう。



「ユリシマ・リョウ?・・・・・変な名前です」



ふと、幽霊さんが言った言葉に違和感。



言葉の発音から察するに、俺の名前を勘違いしてるんじゃないだろうか?



「・・・・涼が名前だよ?」



「ほぅ。ならば閖島は家名か何かかの?」



「まぁ、正解だ」



金髪幼女が、興味深げに2、3度頷く。



「では、リョウと呼んでよいかの?」



「・・・・・・うん」



俺は、下の名前で呼ばれる新鮮さに心の中で歓喜する。



まぁ、表情には出さない。


嫌な印象を与えたくないからね。



「ふむ。ならば、こちらも名乗ることにしようかの。・・・・・まずは、我の弟子の紹介じゃ。では、フィオ」



金髪幼女が目配せをすると、少し緊張したような面持ちで、幽霊さんがコホンと咳払いをした。



「えっと、フィーネ・オリシェールです。・・・・・・フィーネかフィオと呼んでください」



フィーネ、ね。まぁ、金髪幼女がフィオって言ってるからそれでいいか。



フィオはペコリと一礼して、幼女の後ろに下がった。


「ふむ。次は我の番かの。・・・・我の名は、リリア・ダーカムーン。この世界随一の魔法使いで、フィオの師匠でもある。まぁ、リリアとでも呼んでくれればよい」



むむ・・・やっぱり金髪幼女・・・・もとい、リリアがフィオの師匠なのか。



見た目的には逆な気もするが、リリア本人が、自分は凄い魔法使いみたいなことを言ってるし、あまり気にしないようにしておこう。


「とりあえず、さっそく魔法の鍛練にでも入るかの。今は時間が惜しい」



「・・・・まぁ、いいけど。鍛練って何するんだ?」


俺の疑問に、リリアがニヤリと笑う。



「決まっておろう。・・・・・・何事にも、基礎体力が必要不可欠。つまり」



「簡単に言うと、家事・炊事洗濯・お使い等の雑務で体力を付けろというわけです」



自身も経験済みなのだろう。



リリアの言葉を遮りつつ、フィオが黒い笑みを浮かべる。



「言っている本人は怠けてばかりで、実はただ単に雑務をやりたくないんではないか、とたまに思ったりしますね」



「うぐっ!・・・・・・・・・・・・・ま、まぁ・・・さっさと始めてもらうかの」



フィオの言葉に頬を引きつらせながら、何もなかったかのように振る舞うリリア。



俺は、これじゃあどっちが師匠かよくわかんないな、と心の中で苦笑いする。



とりあえず、少しでも役に立つために頑張ろうかな、と気合いを入れる俺なのであった。




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