表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

第19話 魔法国家都市エンデュランス。



白。



歩き続けていた俺たちの視界に、大きくそびえ立つ白い壁が飛び込んできた。



「来ました!ついに来ちゃいましたよ魔法都市!!」



フィオが、目をキラキラさせながら声をあげる。



その表情は、“一瞬”普通の女の子っぽく見えた。



「リョウ、今、何か言いました?」



「・・・・何も言ってない」



(よく考えてみれば、魔法都市を目前にしてこんなにも喜ぶのは“普通”じゃないよなぁ・・・・)



失礼ではあるが、フィオが普通なんてのは似合わないと思った。



俺は苦笑しながら、キラキラと目を輝かせているフィオを見る。



「まったく・・・・フィオのやつは」



俺の右横でそう呟いたリリアの顔も、どことなく楽しげである。



まぁ、リリアも魔法使いなわけだしな。



魔法都市というものに興味があるのは頷ける。



「へぇ〜。結構綺麗なんですねぇ」



俺の左横を歩いているユウリが、白い壁を見ながら感嘆の声をあげた。



「そうだな。魔法使いって根暗なイメージあったし」



近づいていくにつれ、大きな白い壁の正体が都市を守るように建てられている城壁に似たそれということがわかった。



汚れ一つついていない白い壁は、魔法使いの暗いイメージを払拭するくらいに輝いている。



「あの壁は、魔法都市が誇る最強の壁〈アヴァロン〉と呼ばれる城壁なんです」



フィオが、魔法オタの知識をフルに発揮し、得意気に語った。



「しかし、見事じゃのぉ。あの壁に浄化の魔法をかけているとこを目にしてみたいものじゃ」



リリアが言った浄化の魔法というのは、水系統の魔法で、どんな汚れも綺麗で簡単に落とせるという魔法である。



通称家事魔法と呼ばれるこの魔法は、魔法使いの女の子に必須の魔法である、と本に書いてあった。



しかし、俺の身近にはソレを使えないのが約2名。



まったく。そういう常識がない二人に嫁の貰い手はあるのか、と真剣に心配したくなる今日この頃。



・・・・っと閑話休題。



「おい、ちょっと待てって!!」



気がつくと、俺とユウリを残して、スタコラとかなり先を歩いているリリアとフィオの姿が。



俺とユウリは、ほぼ同時にため息をつき、二人の後を追った。






☆☆☆☆






魔法国家都市エンデュランス。



この国では、国民から選ばれた七人の魔法使いが政治を行っている。



国民主権の政治はこの世界ではかなり珍しいらしく、建国してから50年と歴史の浅いこともあり、かなり他国との諍〈いさか〉いがあったらしい。



第一に、昔は魔法使いの存在自体がかなり嫌われていたため、建国して最初の10年は毎日のように戦争を仕掛けてくる国があったんだとか。


しかし、それに負けず今尚栄えている都市を見るかぎり、魔法使いの国の強さは圧倒的であったのだろう。


現在では、各国に魔法使いを中心とした軍部があるくらい、魔法使いというものは重宝されている。



昔は忌み嫌われていた魔法使いの存在は、いまや神の使いと崇められている始末。



それもこれも、この国のお陰であると言っても過言ではないだろう。



さて、今現在の魔法都市は、かなり活気に溢れている。



色々な人種が混ざり合う大通りは、かなり賑やかだ。



表通りで堂々と魔法具が売られているのは、この国の大きな特色である。



都市の中心部に建っている大きな塔は賢者の塔と呼ばれており、政治を行う七人の魔法使いの住居となっている。



それにしても、先ほどから気になっていることがあるのだが・・・・。



「なぁ、なんでこんなに女の人が多いんだ?」



俺がそう質問すると、たくさんの出店に視線をフラフラと移動させながら、リリアが答える。



「うむ。言ってなかったかの?魔法使いというものは、基本女性が多いのじゃ。特に理由はないから、詳しく、といわれても我はわからぬぞ?」



「・・・・なるほどね」



確かに、キョロキョロと辺りを見回すと、男の殆どが商人らしき格好をしており、見るからに魔法使いといえる男は俺以外見当たらない。



そのせいだろうか。ちらほらと奇異の視線が俺に集まっている気がする。



まぁ、その9割りが女性であるため嫌な気はしないが。



「リョウ様、鼻の下が伸びてますよ?」



「・・・・そんなわけ、ないだろ」



ユウリの言葉に、キリッと表情を引き締める。



確かに少し顔が弛〈ゆる〉んでいたかもしれない。



「さすが魔法都市じゃ・・・・・・少し値は張るが、警備万全な宿に泊まるしかないのぉ」



「そうですね。リョウが何をしでかすか・・・・」



「・・・・・俺、そんなに飢えてるように見える?」


俺の質問に、リリアとフィオが失笑した。



・・・・地味に心が痛い。


「でもリョウ様。警備が万全な宿に泊まるのは私も賛成です」



ユウリまでそんなことを・・・・・・。



「リョウ様、知ってますか?魔法使い同士が世継ぎを作ると、その子供はかなりの魔力を保有するそうなんです」



「・・・・・で?」



「そのせいかはわかりませんが、魔法都市に来た男性魔法使いが逆レ○プされたという噂は後を絶えません」



「よし、今すぐ帰ろう。お家へ帰ろう」



俺はすぐさま回れ右をして、体の方向を転換させる。


こんな危険な場所じゃあ、ゆっくりできないし。



無理をしてでも、別の国へ行ったほうがいいだろう。


しかし、そんな俺を掴む三つの手が。



「何を言ってるんですか?まだ観光もしてないのに」


「リョウ様、外に出て野宿になる方が危険だと思いますよ。その魔法使いの格好だと、襲ってくださいと言っているようなものですから」



「そういうわけだからの、諦めるのじゃ」



そんな三人の言葉を聞いた俺は、もう一度辺りを見回した。



ギランッ・・・・。



気のせいか、周りの視線が獲物を狙う獣のそれに見えてくる。



ゴクッ・・・・・。



俺は生唾を飲み込むと、ここはリリアたちの指示にしたがった方がいいと判断し、警備が万全なその宿へ向かうことにした。






☆☆☆☆






宿は、かなり大きかった。


なんと言っても、それぞれの部屋ごとに警備がいるのは驚きである。



これならなんとか大丈夫だろう。



俺は、ホッと胸を撫で下ろした。



「さぁ、早く観光しましょうよ観光!」



部屋に荷物をおろした途端、フィオがそう言った。



俺は、自分から危険な場所へ行くなどしたくなかったので、それを丁重に断る。



んで、結局部屋には俺一人になったわけだが・・・・・・なぜか、逆にこの状況の方が危険な気がしてきた。



とりあえずやることもないので、風呂に入りベッドへとダイブする。



ベッドはかなりふかふかで、とても心地よい。



「・・・・・ふぁぁ〜・・・ねむ・・・・」



肉体的にも精神的にも疲れていた俺は、大きく欠伸をして眠りについた。






☆☆☆☆






「・・・・・早くして下さい。連れの方々が戻ってきますよ」



「ち、ちちちちちょっと待ってよぉ・・・・まだ心の準備が・・・」



俺の耳に、聞き覚えのない女の人の声が聞こえてきた。



寝ぼけた頭で、誰だろうか、と考え、不意にユウリの言葉を思い出す。



『男性魔法使いが逆レ○プされたという噂は後を絶えません』



身体中を冷たい何かが奔り、一気に目が覚めた。



声のした方から出来るだけ離れるように、ベッドの隅へと移動する。



「・・・・ほら、カナデ様が早くコトをしないから起きてしまったではないですか」



ため息混じりにそう呟いたのは、ローブを羽織り、眼鏡がとても似合うスラッとした女性であった。



イメージ的には、秘書のそれである。



「うぅ〜・・・・ムーたん。だって仕方ないよぉ」



カナデ、と呼ばれたのは、ピンクの長い髪をポニーテールっぽくしている女の子。



身長はリリアと同じくらいで、童顔。



しかし、なんといってもその格好が一番の特徴であろう。



黒いローブなんてものは身につけておらず、彼女の格好を一言で表現するなら“魔法少女”。



それ以外の適当な言葉は見つからない。



「ムーたんは止めてくださいと何度言えば・・・・・ゴホンッ。・・・・とりあえず突然お部屋にお邪魔してすみません。しかし、時は一刻を争うのです。どうかお許しを」



眼鏡のムーたんと呼ばれた女性は、クイッと眼鏡を押し上げながら淡々と言葉を発した。



「・・・・・何か、用ですか?」



そうだ。きっと俺にしか出来ない重要な要件があるに違いない。



そうでなければ、部屋を守る護衛さんが易々と見知らぬ人を部屋の中へ入れるはずがないだろう。



「はい。あなたには、今すぐカナデ様と子作りをしていただきます。早急速やかに」



ダメだ。色々とダメだ。



俺は、ハハハハ、と乾いたように笑い、部屋を逃げ出そうと体を動かした。



「・・・・いっちゃ、やだ」



いつの間に移動したのか。



俺に抱きついてきたカナデと呼ばれている魔法少女は、潤んだ目で俺を見つめる。



ベッドの隅で押し倒されるような形になった俺は、大きくため息をつき、彼女から香る甘い匂いに理性が吹っ飛ばされないよう懸命に素数を数えるのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ