第16話 誓い。
み、短い・・・・さーせんw
前髪を風が撫でる。
部屋から逃げ出してきた涼たちは、船の甲板に来ていた。
ちなみに、シオンは甲板へ来る途中に目を覚ました。
海の匂いを運んでくる風は冷ややかで心地いい。
前の世界では、海に行くことなんて滅多になかった涼。
外に出るより、家でゲームしてるほうが楽だと考える人種だった。
「楽しそうですね」
涼の横顔をチラリと見ながら、シオンが苦笑する。
「そうだな。・・・・・楽しいよ」
涼は、心の中の靄〈もや〉が晴れたお陰か、何でも楽しく感じるようになっていた。
実際、こんなにスッキリした気分は久しぶりなのだ。
「それにしてもリョウさん。よくあの人たちと旅が出来ますね」
シオンの言葉に、涼は首を傾げた。
そして少し思案した後、シオンがリリアたちの事を言っているのだと気づき苦笑する。
「あぁ、リリアたちのことか。・・・・どうして、そんなことを?」
大体予想はつくが、あえて聞いてみる。
「・・・・まぁ、知ってるとは思いますが僕は龍なんです」
涼は、シオンの言葉に小さく頷く。
「そんな僕を気絶させるほどの人たちなんですよ?・・・・・・あの時のお二人の顔は思い出したくもありません」
少し顔を青くしながら、シオンため息をついた。
お二人、とは、リリアとフィオのことだろう。
「まぁ、ああ見えてもいいとこあるんだよ?」
「・・・・・・そうですか」
シオンはそう呟いてクスリと笑い、続けてこう言った。
「旅をしようと思ったのも、お二人と何か関係があるんでしょうか?僕が世界の意志から聞いた話によると、リョウさんは魔王討伐を嫌がっていたそうですが」
そんなシオンの言葉に頷いた涼は、ゆっくりと語りだした。
最初はあれほど嫌がっていた魔王討伐。
それをやる気になった、とある出来事を。
☆☆☆☆
それは、涼たちが旅立つ少し前のこと。
森で食料調達をしていた涼とフィオは、久しぶりの大物と対峙していた。
少し赤ばんだ毛、細い木の幹ほどありそうな太い腕。
その生き物は、この森の頂点に位置するそれであった。
見た目は、この辺りに多く生息している、グリズリーと呼ばれる熊。
しかし今対峙している熊は、他のより一回り以上大きなものであった。
涼は、ここまで大きなものを初めて見た。
それもそのはず。
この熊は、変種と呼ばれる突然変異種であるため、一生に一度見れるか見れないか、というくらいに遭遇率が低いものである。
さらに言うと、遭遇して生還できる確率はさらに低い。
変種の最〈もっと〉もといえる特徴。
それは、その力の大きさ故である。
生存本能が他よりも強いせいか、その力は黒龍等の上位種に匹敵するほどのものがある。
「グルルルルルルル・・・・・」
口から唾液をダラダラと流しながら、目の前の餌を睨む熊。
フィオを顔を顰〈しか〉めながら、涼に下がるよう手で合図をした。
いくらフィオが強いといえど、黒龍クラスの化け物を相手にするのは多少きつかった。
しかも今は、守らなければならない涼がいる。
守りながら戦うというのは、通常の戦闘より圧倒的に難しいのだ。
「リョウ!マスターを呼んできて下さい!」
「・・・・フィオ、一人で戦うのか?」
そんな涼の言葉に、フィオは微笑みながら熊を睨んだ。
「私を誰だと思っているんですか?・・・・・・・助ける気があるのなら、急いでマスターを呼んできて下さい」
そう言ったフィオは、どこからともなく屶を取出し、熊に斬り掛かった。
涼は少し躊躇ったものの、頑張れ、と言い残しその場を去った。
その後、リリアを呼び、再び熊のとこまで戻ってきた涼は愕然とした。
フィオが、頭から血を流しながらも懸命に戦っていたからだ。
女の子が必死で戦っているのに、自分は何をしているんだ?
そんな気持ちが頭を過った涼は、ギリ、と唇を噛み締める。
それに、フィオとはもう友達だ。
それをこんなになるまで戦わせて・・・・。
「危険じゃから、リョウはここで待っておれ」
リリアから告げられた、戦力外通告。
女の子が二人で必死に戦っている姿を目に焼き付けながら、リョウは一つの決心をした。
この二人を、護りたいと。
今、自分を必死に護ってくれている二人を、今度は自分が護ろう。
心の中でそう誓った。
だから、魔王なんて物騒なものは早々に倒してしまおう。
そう思っていた涼は、今まで嫌がっていた魔王討伐の旅に出ると唐突に言われた時も、すんなり了承できたのだ。
涼は、なんとか熊を倒し、肩で息をしている二人にこう言った。
「二人は、絶対俺が護るから」
「・・・いきなり、なんじゃ?」
「・・・・さぁ?」
二人は、涼の突然の言葉に首を傾げつつも、その頬は微かに赤く染まり、照れたような笑みを浮かべていた。
☆☆☆☆
「なるほど、つまりその誓いを守る為に魔王討伐に乗り出した、と」
「まぁな。・・・・・たぶんシオンに会わなきゃ、誓いを破ってたかもしれないけど」
シオンに会う少し前の心境を思い出して、涼は苦笑する。
「それにしても、リョウさんはこれから先大変でしょうねぇ」
「・・・・まぁ、それはお互い様ってことで」
涼は憂奈のことを思い出しながら、ため息混じりに呟いた。
それから暫〈しばら〉くの間、風にあたりながら他愛もない会話をする二人。
「・・・・見えてきたな」
水平線の向こう側に、島の影らしきものが見えた涼は、ボソリと呟く。
「リョウさんたちは、どこへ行くんですか?」
シオンの言葉に、涼はリリアたちが言っていたことを思い出しながら返答する。
「確か、魔法都市がどうとか言ってたなぁ」
「なるほど、では、僕たちとは船を降りたら別れることになりますね」
「・・・・うん」
シオンが染々と呟いたその言葉に、微笑みながら返事をする涼。
「でも、また会えるさ」
涼はそう言って、島をよく見るために目を細める。
太陽の明るさに、手で影を作りながら見る島は、海の光が反射しキラキラと輝いていた。
涼視線ではなく、作者視線から文を書いてみました。
・・・楽すぎるw