第14話 勇者。
・・・・・目が覚めると、見知らぬ天井だった。
・・・・と、テンプレな感想を頭に浮かべて苦笑するくらいに、俺の心は落ち着いていた。
「目が、覚めましたか」
そう声をかけてきたのは、俺に何らかの魔法かけた男に間違いはなかった。
男は先ほどと同じく不適な笑みを浮かべる。
「気分はどうですか?・・・・・まぁ、その表情を見れば大体察しはつきますが」
「・・・・・・どうして俺にあんなものを見せたんだ?」
俺がそう質問すると、男は益々〈ますます〉笑みを深くした。
「そうですね・・・・我が主に関係があるから・・・・・というのは建前で、“世界の意志に選ばれた者”の本質を見極める為ですよ」
「・・・・・・なぜそれを?」
男は座っていた椅子からゆっくり立ち上がると、人差し指をすっと立てた。
「言ったでしょ?僕は龍族です。“世界の意志”とは親密にさせてもらっているんですよ」
龍、という単語に、少し前の出来事を思い出す。
まさか、あの灰色の龍を殺したことがどうのこうのって言うんじゃ・・・・・。
「あぁ。あの半端な龍を殺したことなら気にしなくていいですよ。この世は弱肉強食。弱いものが強者に狩られるのは“当たり前のこと”ですから」
「・・・・・まさか、人の心が詠めるとか?」
龍、というだけあってかなりあり得る話だ。
「・・・・あなた、考えたことが表情に出てる、なんて言われたことありませんか?」
・・・・・・なるほど、そういう事か。
だからリリアたちにもよく考えが漏れてたんだな・・・・注意しないと。
「フフフ・・・・やはりあなたは面白いですね。あの“世界の意志”があなたに興味を持った理由〈わけ〉が少しわかった気がしますよ」
「・・・・・ニヤニヤと気持ち悪いな・・・」
某アニメの古泉を彷彿とさせるその笑みは、この男のイケメンっぷりのせいでもあるだろう。
イケメンは滅びればいいんだ。
「ふぅ・・・・さて、そろそろ我が主が目覚める頃ですから・・・・・起き上がれますか?」
「大丈夫・・・・・それより、俺はどのくらい寝てたんだ?」
俺は、寝かされていたベッドから体を起こす。
この部屋が個室であることから、この男が貴族に関係のある輩〈やから〉だというのは間違いないだろう。
「そうですね。ほんの23時間程度でしょうか」
・・・・ほぼ1日ですか・・・・・。
俺は軽くため息をついて、リリアたちに迷惑をかけたなぁと後悔する。
気まずい雰囲気がさらに悪化しそうだ。
俺はベッドから降りると、体を動かして調子を確かめる。
ポキ、コキ、と骨がいい音で鳴いた。
気のせいか、前より随分と体が軽い。
心の中にあった“重り”が無くなったお陰かな。
「えっと・・・・色々とありがとうな」
俺がそう言うと、男は照れたように頬を掻いた。
「いえ。僕の自己満足と主の為ですから。こちらこそありがとうございました」
うん・・・・そうだ。
折角だし、この男を第一号にしよう。
「あのさっ!俺、閖島涼って名前なんだけど・・・・・・良かったら友達になってくれないか?」
俺は勇気を振り絞ってそう言った。
心からの言葉。リリアやフィオに、「友達になってくれ」と言った時は、まだ心の中にそれを否定している自分が居たのだ。
しかし今回は違う。
心の奥からそう言えた。
「・・・・いいですよ。僕の名前は、シオン・スタンレス・ブィリュウニと言います。呼ぶときは、気軽にシオンと呼んでください」
男・・・・シオンはそう言って、俺に握手を求めてきた。
俺はそれに応える。
人生で二度目の、本当の友達が俺に出来た瞬間だった。
俺は、友達百人という言葉を思い浮かべて、思わずクスリと笑った。
☆☆☆☆
俺はシオンの後ろに続いて歩く。
シオン曰く、主に俺を紹介したいらしい。
俺も、シオンが仕える人がどんな人物か少し興味があったので大人しくシオンに従うことに。
リリアたちに謝ったりするのは、もう少し後になるだろう。
「・・・・着きました。ここが主たちの部屋です」
「・・・・主“たち”?」
主が複数いるのか?と疑問を抱き、首を傾げる。
「あぁ・・・言ってませんでしたね」
シオンは苦笑するとともに、ペロッと舌を出した。
不思議にも、そんな仕草に違和感がないのはイケメンのなせる業だろう。
「実は僕の主、勇者なんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
その一言に、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「勇者って、あの勇者か?」
「えぇ。魔王を倒し、世界に平和をもたらす、あの勇者です」
まさかこんな船の中で勇者に会うなんて夢にも思っていなかった俺は、シオンの言葉にただただ呆然とする。
つまり、この扉の向こうには勇者とその仲間がいるわけか。
「では、扉を開けますよ?」
俺はシオンの言葉に唾を飲む。
勇者。そんな存在に会える日が来るなんて思ってもみなかった。
(確か、黒髪を横で二つに分けているちびっ子とかなんとか言ってたよな?・・・・・・・・・どんな奴だろう)
俺は様々な空想、もとい、妄想を頭に浮かべる。
男か女か。人間じゃないって可能性もあるな・・・・。
女で猫耳がついてたら・・・・・。
と、ユウリの存在を頭からかき消して可憐な猫耳少女の姿を想像し、思わずにやけてしまう涼。
何を隠そう、閖島涼は、バリバリの猫耳属性の持ち主なのだ。
ゆっくりと、逸〈はや〉る気持ちを急かすように扉が開く。
「・・・・・・・さて、帰るか」
俺は勇者らしきその人物を見た瞬間、回れ右をしてこの場から去ろうとーーーーーーーーできたらどれだけ良かったのか。
シオンからしっかり肩を掴まれて、一歩も前進出来なくなってしまった。
「・・・・・なるほど・・・・シオンが裕也の件を魔法で見せてくれた理由がわかった」
「僕としては、黒髪を横で二つに結んでいる・・・なんでしたっけ・・・・・ツインテール?その単語で気づいてほしかったのですが」
「・・・・・・確かに、初めて会ったときもそんな髪型だった気はするが・・・・・とりあえず、離してくれないか?」
「すみません。この船に乗るリョウさんを見た主が、どんな手を使っても連れてくるように、と僕に懇願してきたので。・・・・・龍の誇りとして、その願いは叶えたいじゃないですか」
「・・・・・・知らん」
ゴソゴソと、部屋の中から音がする。
先ほどまで寝ていたその人物が、俺とシオンの声で目覚めたらしい。
「・・・・・・友達としての頼み、と言っても聞いてくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・お前、案外せこいのな」
「ハハッ、龍はズル賢いですから」
俺は、はぁっ、とわざとらしくため息をつき、今回だけだぞ、と念を推す。
・・・・友達として頼まれちゃあ断れるわけないだろ?
俺は再び回れ右をすると、眠そうに目を擦っているその人物に近づき右手を軽く上げる。
「・・・・ひ、久しぶりだな、憂奈〈ゆうな〉ちゃん」
彼女の名前は、浦上 憂奈〈うらかみ ゆうな〉。
正真正銘、俺の親友だった男、浦上裕也の妹で、俺が最も苦手とする女の子だ。
何が苦手かって?・・・・・まぁ、話せば長くなるけどさ・・・・・・って、俺は誰に何を言ってるんだろう。
「じゃあ、もう挨拶はしたしいいよな?」
パチパチッ、と目を瞬かせて俺を凝視している憂奈ちゃんから視線をそらし、シオンに確認をとる。
憂奈ちゃんのベッドには、旅の仲間と思わしき女の子が二人、憂奈ちゃんに寄り添うよう寝ていた。
・・・・・・・ガチャッ。
無言で部屋を閉めるシオン。
しかも自分は外に出やがった。
「・・・・涼君、会いたかった」
そう言ってはにかんだ憂奈ちゃんの笑顔に、不覚にも少しときめいてしまう俺がいた。