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第12話 逆行。



朝、眠たげな目を擦りながらリリアたちの後ろを追う。



俺たちの仲間にユウリが加わってからそれほど時間は経っていないのに、リリア、フィオ、ユウリの三人は軽く憎まれ口を言い合うくらいの仲になっていた。



俺は、同じ部屋に泊まれば嫌でも仲良くなるもんなのかな、なんて適当な予想をたてて、もう一度目を擦る。



さてさて、俺たちがこんな朝早くから何をしているかと言うと、この街に来た“目的”を果たしに、港へ向かっていた。



元々この街には、次の街へ移動するための船に乗りにきたわけで、長く滞在するつもりはなかったのである。



そんな短い期間でユウリに出会ったことは、まさに“運命”なのかもしれない。


「あぁ、早く行ってみたいですねぇ」



ふと、フィオが胸の前で両手を合わせて、ぽわ〜んとしながら呟いた。



確か次の目的地は・・・・・・・どこだっけ?



俺が首を傾げていると、タイミングよく、ユウリがフィオに質問してくれた。



「そういえばフィオさん。これからどこへ行くんですか?」



「ん?・・・・・えっと・・・・」



ユウリの質問に、フィオは少し気まずそうな顔をしながら、沈黙する。



そして、少し躊躇ったのち、フィオは口を開いた。



「魔法都市エンデュランスに向かおうとしているんですけど・・・・・」



フィオの言葉に、俺は彼女が躊躇った理由を少しばかり理解できた。



実は、昔ほどではないが魔法というものを嫌っている者は多い。



その理由の一番多くが、“魔法は誰でも使えるわけではない”というもので、所謂〈いわゆる〉嫉妬のようなものが大半をしめる。



人種の自分勝手さは、どの世界でも変わらないらしい。



「・・・・そうですかぁ。私、行ったことがないのでとても楽しみですっ!」



ユウリがそう言うと、フィオはホッとため息をついた。



まぁ、世の中には自分勝手じゃない人種もたくさんいるわけで。



・・・・・そもそも、ユウリは獣人だから普通の人間とは少し違うんだろうな。


そう思いつつ、前を歩く彼女達の会話を聞きながら軽く微笑んだ。



チラッ、チラッ。



そういえばさっきから、リリアが俺の方をチラチラ見てくる。



俺はそれを、敢えて無視しているわけだが、どうしたもんか・・・・・。



え?なんでそんなことしてるかって?



そりゃあ、某白い悪魔さんばりの“お話し”を体験させられたわけだし、体がリリアに対して拒否反応を起こしてるわけで・・・・・・・別に、俺がいじけて無視してるわけじゃないぞ?


「・・・・・・・はぁ」



リリアの方からため息みたいなのが聞こえたけど・・・・・いや、聞いてない聞いてない。きっと空耳だ。


俺は、昨日買ってズボンのポケットに入れっぱなしにしていた黄金の櫃をソッと撫でながら、こういう時はどうしたらいいのかなぁ、と思案し始めた。



なんせ、友達が出来たのすら初めてなのだ。そんな俺が、仲直りのやり方なんてわかるはずもない。



(・・・・・いったいどうすればいいんだよ・・・・・・・)



そんな俺の悩みは、船着場に到着しても解決の糸口すら見えてこなかった。






☆☆☆☆






「さぁて。どうしようかなぁ」



俺たちを乗せた船が出航してから、どれくらい時間が経っただろうか。



個室、というものは貴族とか専用らしく、俺たちを含め一般の乗客はみな一つの大部屋に寝るらしい。



まぁ、ちゃんと警備員っぽい人もいたし、犯罪に関わる行為は起きないと思うが。



俺はその部屋を抜け出して、一人船の中を歩いていた。



色々考えてみた結果、とあることに気づいた。



「俺、だいぶ変わったよなぁ・・・・」



声に出すことで、改めてその事実を再確認する。



俺はこの世界に来てかなり変わったと思う。



今では多少の人混みも平気になったし、見知らぬ店で値引き等の交渉も出来るようになった。



これは、俺が“他人”に慣れてきている証拠に違いない。



・・・・・でも、それで本当にいいのだろうか。



親しくなるってことは、裏切られたときの悲しみが大きくなるってことで・・・・・・・・。



俺は下唇をギュッと噛みながら、思い出したくない“とある出来事”が頭に浮かんできて、泣きたくなるのを堪える。



(そうだ・・・・そうだよ。信じるな、誰も信じるなよ。だって、俺は“一人”なんだから)



俺は自分にそう言い聞かせる。すると、不思議なことに頭が冴えてきた。



(簡単じゃないか。表面だけで、ごめんなさいって謝れば済む問題なんだし)



開きかけていた心を再び閉じる。



そこには、この世界に来たばかりの彼がいた。






☆☆☆☆






「綺麗だなぁ・・・・」



青く、蒼く、どこまでも続く水平線を見ながら、一人感嘆する。



やっぱり一人は気楽だよな。



そう思いながら、ボーッとしていると、不意に後ろから声がかかった。



「すみませんっ!この辺りで黒い髪を横で二つに分けているちびっ子見ませんでしたか?」



俺が声のした方を振り向くと、一人の男が息を切らしながらキョロキョロと視線を動かしていた。



見た感じ、俺と同い年くらいだろうか。



どうやら誰かを探しているみたいだが・・・・。



「別に、誰も見てないけど」



俺は、早くどこかへ行ってくれよと思いつつ、返答した。



「・・・・・・・・」



すると男は、俺をジィッと見つめてきた。



男の瞳は、まるで俺の心を覗き込むように、蒼く澄んでいた。



船の周りの大海原に負けないくらい綺麗な蒼は、数秒後、ふと揺らいだ。



「悲しい、ですか?」



男の突然の呟きに、俺の心は大きく跳ね上がった。



「俺が、悲しい・・・?」



「・・・・・・・・・確かに、裏切りとはとても恐ろしいことです」



男は、まるで俺の心を見透かしたように語りだした。


「そんなこと、ない」



俺の口から出てくる言葉は、萎れた野菜のように力を無くしていた。



「あなたは、自分に嘘をついている」



そう言われた瞬間、頭が真っ白になった。



(コノオトコハ、トツゼンナニヲイッテイルンダ・・・・・・?)



「あなた、本当は友達が欲しいんですよね?本当は、友達を信じたいんですよね?」



何なんだコイツは。



俺はそんなことは思っていない。



だって俺はーーーーー。



「・・・・ふぅ・・・・・・本当はあまり使いたくないんですけどねぇ・・・・・・あなたは我が主の手助けを出来る力を持っていますし、こんな所で人間不信になってもらっては困るんですよ」



男はそう言うと、ニヤリと不適に笑い、俺の額に人差し指を当てた。



「僕たち龍から気に入られる人間は多くないんですよ?これは、僕からのサービスです。ありがたく受け取って、真実を、心に刻みなさい」



男の蒼い瞳に、一本の黒が混じる。



「・・・・・・“逆行”」


男がそう呟いたとたん、俺の意識は真っ暗な闇の中に落下した。






☆☆☆☆






(ここは、どこだろうか・・・・・)



闇の中を、下に、下に、と落下しながら、ふと考えてみた。



しかし、答えは見つからない。



それよりもこの闇はなんて暖かくて、心地がいいんだろう。



ボーッとそんな事を考えていると・・・・。



「りょ・・・・・う。おい・・・・・起きろって!」


「・・・・!??」



誰かに頭を叩かれて、ガバッと頭を上げた。



視界に、見覚えのある光景が入り込んでくる。



(ここ・・・・は?)



「やっと目ぇ覚ましたか。ほら、移動教室遅刻すんぞ?」



声がした方に視線を向けると、そこには、俺が唯一親友だと“思っていた”人物がほほ笑みを携えて、立っていた。



現状に追い付けず、何がなんだかわからずにいると、その親友だった男が、「早くしろって」と俺の腕を掴んで走りだした。



見覚えのある教室。



走っている廊下は、あの時のままで・・・・・。



『真実を、心に刻みなさい』



ふと、あの男の言葉が頭をよぎる。



どうやら、何らかの魔法をかけられたらしい。



俺に、あの忌々しい出来事を思い出させて何になるって言うんだ。



しかし、俺の体は、俺の意志通りに動かない。



つまり、あの出来事には嫌でも遭遇してしまう。



親友だったこの男、浦上 裕也〈うらかみ ゆうや〉から裏切られるあの瞬間の悲しみをもう一度味わわないといけないと思うと、とても気だるい気持ちになってくる。



俺は大きくため息をついて、もうどうにでもなれ、と呟いた。




次回、かなり欝展開になるかも・・・・シリアスはあんま得意じゃないっす。

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