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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十三章 離れて、近づいて、もっと近づく。
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第九十五話



「はぁ、どうしよう……」


 杏咲は私室で一人溜息を漏らしていた。視線の先にあるのは湯希のお面だ。その見目は先程から寸分違うことなく、無残にもぱっきりと割れたままだ。

 補強テープや接着剤でくっつける方法等色々考えてみたのだが、どうしても割れ目が目立ってしまうため、他にいい方法はないかと頭を悩ませていたのだ。


「すみません。入ってもいいですか?」

「……玲乙くん? うん、大丈夫だよ」


 そんな中、杏咲の私室を訪ねてきたのは玲乙だった。珍しい客人に何の用だろうと考えながら、杏咲は座布団を出して玲乙に座るよう促した。


「玲乙くん、どうしたの? 何か用事かな?」

「はい。透からの言伝なんですが……湯希も落ち着いたから、気に病まないように伝えてくれと言われました」

「……そっか。伝えに来てくれてありがとう、玲乙くん」


 杏咲たちが帰ってから十五分ほどして、湯希を連れた透は無事に戻ってきた。しかし湯希は杏咲たちに顔を見せることなく、そのまま透の私室に引きこもってしまったのだ。湯希は吾妻と二人部屋のため、あんなことがあった後で気まずく感じているのかもしれない。


 落ち込んだ表情で思い悩んでいる様子の杏咲を見かねて、玲乙はおもむろに口を開く。


「……もしかしたらそのお面、修繕できるかもしれません」

「っ、本当に……!?」


 耳に届いた希望の言葉に、杏咲は表情を明るくする。詰め寄ってきた杏咲に動揺した様子で僅かに後退りながらも、玲乙は自身の考えを伝えた。


「ただ、とても良い造りの面ですし、その面には付けている者の気配を薄くする妖術がかけられていたんです」

「妖術が?」

「はい。なので修繕するには、それなりに腕利きの職人でないと難しいと思います」

「でも……直せる可能性はゼロじゃないってことだよね?」

「それはそうですけど……でも低い可能性にかけるくらいなら、似たようなお面を買った方が早いと思います。それと似たような面を売っている店を知っていますし、紹介しましょうか? もしかしたら、嘘を吐いて見繕っても気づかないかもしれません」


 玲乙の提案に杏咲は逡巡するように目を閉じて、けれど直ぐに首を横に振った。


「……ううん、湯希くんがお爺さんから貰ったこのお面じゃないと、意味がないから」


 杏咲の意志の強さを感じた玲乙は嘆息したかと思えば「……分かりました」と立ち上がる。


「玲乙くん?」

「……修繕しに行くんですよね? 道案内が必要でしょうし、一緒に行きます」

「っ、ありがとう」


 きっと面倒に思っているだろうに、それでも杏咲の思いを尊重してくれた。同行してくれるという玲乙に、杏咲は心から感謝の気持ちを伝える。


「別に……この前看病してもらったので、そのお礼です。気にしないでください」


 素っ気なく言い放った玲乙は「支度をしてきます」とくるりと背を向けて、部屋を出て行った。


 杏咲も準備をしようと、和箪笥の一番上の引き出しから和柄の巾着袋を取り出した。この巾着袋には、伊夜彦から貰った給料が入っている。

 こちらの世界で使える小判を伊夜彦から給料として貰ってはいたが、未だにほとんど手付かずだったのだ。杏咲は小判が足りなくて直せないということがないようにと、貰った全財産が入った巾着を持っていくことにした。


「これで足りるといいんだけど」

「……十分すぎるくらいだと思いますよ」


 支度を終えて戻ってきた玲乙は、杏咲の持っている巾着袋の中身を見て、その多すぎる小判の枚数に些か呆気にとられた様子だった。


 そして透に外出することを伝えた二人は、玲乙の案内で、夢見草から徒歩十五分ほどの場所にある店にやってきた。年季の入った木造の建物には、看板さえ見られない。


 店の外観は古びていて今にも崩れ落ちそうな雰囲気があるが、店内に足を踏み入れてみれば、中は意外にも広くて綺麗だ。面の他にも、煙管や扇子のようなものから、美しい細工が為された小刀等が所狭しと並べられている。艶やかな雰囲気も漂いながら、どことなくノルスタジックな気持ちにさせられる内装だ。



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