第九話
「じゃあ最後は、年長組二人! 自己紹介よろしくね」
透に呼ばれて、部屋の一番後ろの方に座っていた二人の男の子が腰を上げた。
どちらも獣耳が生えている。真っ黒な髪に全身真っ黒な袴を着た黒尽くしの男の子と、銀灰色の色素の薄い髪をした、恐ろしいほど綺麗な顔立ちをしている男の子。皆がそれぞれに違う魅力を持ち整った顔立ちをしてはいるが、この男の子は一際浮世離れしたような美しさが感じられる。
「オレは火虎だ。歳は六つで、こん中じゃ一番の年長だな。よろしく頼むぜ」
まずは黒髪の男の子が自己紹介をしてくれた。その快活な笑顔からは、気のいい好青年と表すのがしっくりくるような感じの良さがにじみ出ている。とても六歳とは思えない、不思議な大人っぽさがある男の子だ。
「僕は玲乙といいます。歳は火虎と同じ六つ。……よろしくお願いしますね」
物腰の丁寧な柔らかな話し方。杏咲を見つめるその瞳は綺麗な金の色をしていて、目尻には紅のようなものが引いてある。
――そういえば伊夜さんの目尻にも、同じような紅が引かれていたっけ。お洒落なのだろうか。この子も大人っぽいなぁ。
そんなことを思いながら、挨拶してくれた二人に「こちらこそよろしくね」と笑って返した。
「よし。それじゃあ自己紹介も済んだことだし――杏咲先生には、早速最初の仕事をお願いしてもいいかな?」
透が着物の袂から小さな巾着袋を取り出した。
「はい。仕事って、何をすればいいんですか?」
「杏咲先生にはおつかいに行ってきてもらいたいんだ。そうだなぁ……顔見知りの二人、十愛と桜虎と一緒に行ってきてもらおうかな」
透に名を呼ばれ、桜虎はあからさまに顔を顰める。
「ハァ? 何でオレさまがおつかいなんていかなきゃならねーんだよ! イヤだね!」
「おれは……まぁ、透がどうしてもっていうなら……いってあげてもいいけど」
十愛は案外乗り気なようで、前髪を手櫛で整えながらソワソワしている。
「よろしく頼むよ。杏咲先生はまだ此処のことをよく知らないから、二人に付いて行ってもらいたいんだ。……これはしっかり者の二人にしか頼めないことだからね」
透の煽てるような言葉に、二人は気を良くした様子だ。
桜虎は満更でもない様子で鼻の下を人差し指で擦っているし、十愛は愛らしい笑顔を浮かべて透に抱きついた。
「ヘッ、そこまでいうなら……しかたねーな。ついていってやるよ!」
「うん、わかった! おれにまかせてといてよ!」
「うん、よろしくね」
透は二人の頭を優しく撫でる。十愛は甘えた猫のように瞳を細めているし、桜虎はそっぽを向きながらも、大人しく頭を撫でられている。――まだ出会ってから二日ほどしか経っていない杏咲から見ても、二人が透によく懐いていることが伝わってきた。
「え~、おれもおつかいいきたい‼」
これで話しが纏まったかと思いきや、勢いよく立ち上がり自分も行くと訴えるのは吾妻だ。
「んー、さすがに三人は杏咲先生が大変だろうし……吾妻は今回はお留守番だね」
「え~、やだやだ! おれもいくんや~‼」
透の言葉に納得できない様子の吾妻は、駄々をこね始める。畳の上に寝転がって両手足をジタバタさせているその様は、お手本のように見事な駄々っ子振りだ。
しかしそんな駄々っ子攻撃を目の当たりにしても、透は全く気にしていない様子で。
「はいはい。また今度ね」
笑顔でばっさりと却下して、畳の上をゴロゴロ転がり始めた吾妻から視線を外す。
周りの子どもたちも呆れたような視線を向けていることから考えると、どうやら吾妻の駄々っ子は、いつもの見慣れた光景のようだ。
「それじゃあ杏咲先生、この中にお財布と買ってきてもらいたいもののメモが入ってるから。店までは此処から十分程度の距離だし、道も十愛と桜虎が知っているから、何か分からないことがあれば二人に聞いてね。十愛と桜虎も、杏咲先生の言うことを聞いていい子にしてるんだよ」
「わぁ~ってるよ!」
「は~い」
「……あの、透先生。少しいいですか?」
「ん? どうしたの?」
どうしても気になることがあった杏咲は、談笑する子どもたちを横目に透に話しかけた。子どもたちには聞こえないように声量を落とす。
「その……悪い妖に子どもたちが襲われる可能性もありますよね? 私たちだけで出歩いたりして、大丈夫なんですか?」
「……あぁ、そのことか。大丈夫だよ。あいつらは、基本的には夜に活動するんだ。陽が高い内に襲ってくることは滅多にないよ。それに近くの店までだったら、ここら辺は護衛部隊が見回りもしているから安全だしね」
「そう、なんですか……?」
少しだけ不安感は残るものの、透がそう言うならと、杏咲はその言葉を信じることにした。
「分かりました。それじゃあ行ってきますね」
「うん、いってらっしゃい」
――こうして、妖界での杏咲のはじめてのお仕事(?)が始まったのだった。