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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十一章 想うが故の、すれ違い
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第八十五話



「玲乙くん、屋台は回った?」


 杏咲が声を掛ければ、顔を上げた玲乙は小さく首を横に振る。


「いえ」

「それじゃあ玲乙くん、私と一緒に回ってくれないかな?」


 玲乙の隣に座った杏咲は、屋台の方を見ながら食べたいものを一つ一つ上げていく。


「林檎飴に、焼きそばに、だいふくに……折角だし、美味しいものを色々食べたいなぁって思ってたんだけどね。一人で回るのはちょっとなぁって思ってたから……玲乙くんが一緒に回ってくれるなら、気兼ねなくたくさん食べられそうだし」

「……双葉先生は、案外食い意地が張ってるんですね」

「く、食い意地……」

「……ふっ、すみません。冗談です」


 表情を固くした杏咲を見て、玲乙は口許を隠してクスクス笑う。杏咲も玲乙の笑顔を見て安心したように微笑みながら、わざと少しだけ唇を尖らせて言う。


「まぁ食べることは大好きだから、食い意地が張ってるっていうのも……強ち間違ってはないんだけどね」

「いえ、本当に食い意地が張ってるっていうのは……ああいうのを言うんだと思いますよ」


 玲乙が視線を向ける先を辿れば、そこには、片手に焼き鳥を数本、もう片方の手には大きなわたあめを持ち、口にも食べ物を詰め込んでいるらしい火虎の姿があった。

 そばにいる桜虎も、火虎のぱんぱんに膨らんだ頬を見上げて「にいちゃん……」と若干呆れた様子で顔を引き攣らせている。


「あはは、火虎くんは食べるのが大好きだもんねぇ」


 杏咲が堪らず笑ってしまえば「何か面白いもんでもあったのか?」と声を掛けられる。今の声は、玲乙ではない。とすると――。


「伊夜さん!」

「悪いな、来るのが遅くなった」


 杏咲の左隣に、人一人分座れる程度の距離を空けて座っている。玲乙の方に身体を向けて話していたとはいえ、いつの間にそこにいたのか、全く気がつかなかった。


「お店の方はもう大丈夫なんですか?」

「ああ。大方は済んだから、後は残ってる奴らに任せてきたさ。……皆、楽しんでいるようだな」


 屋台の方を見て目を細めた伊夜彦は、次いで杏咲に視線を移す。


「……着物、よく似合っているな。やっぱり俺の見立てに狂いはなかった」


 杏咲の頭のてっぺんから足元まで見て満足そうに頷いた伊夜彦は、その場から立ち上がったかと思えば、黙って二人の会話を聞いていた玲乙の片手をさらりと取った。


「よし、そんじゃあ屋台を回るとするか」

「……ちょっと、」

「ふふ、そうですね」


 伊夜彦の思惑に気づいた杏咲は、玲乙の空いている反対の手をそっと握る。

 両手を大人二人に繋がれた玲乙は不機嫌そうに眉を顰めているけれど、敢えて聞こえない振りをした二人が歩き始めれば、玲乙もつられて足を踏み出すしかなくて。


「……はぁ」


 諦めた様子で小さな溜息を漏らした玲乙に「どの屋台から行こっか?」と杏咲が笑いかければ、「……じゃあ、林檎飴で」と、杏咲が先ほど口にしていた屋台を選んでくれる。


 そして三人で屋台を回りながら、他の子どもたちや保護者と挨拶を交わし、林檎飴に焼きそばにかき氷にとお腹いっぱい食べて、ヨーヨー釣りや射的を存分に楽しんだ。


 伊夜彦が準備していた狐火のカメラには、皆の笑顔あふれる写真がたくさん写っていたのだった。



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