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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十章 願いはペンタスの傍らで
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第七十五話



 七月七日の夜。大広間の明かりを消せば、辺りは暗闇に包まれた。けれど、伊夜彦が白い狐火を何個も出せば、その場はたちまち幻想的な空間に変わる。


 縁側に並んで座った子どもたちは、満天の星空を見上げながらお喋りを楽しんでいた。その手には杏咲特製の「たなばたゼリー」の器をしっかりと持っている。ゼリーに入っている色とりどりの星型は寒天で出来ていて、吾妻や湯希、桜虎たち年少組が一生懸命くり抜いてくれたものだ。


「お星さま、きれいやなぁ」

「きらきらしてる……」

「なぁ十愛、ぜんぶで何こあんのか、かぞえてみようぜ!」

「ええ、そんなのむりに決まってるじゃん!」


 子どもたちはゼリーを食べながら、美しい夜空を見上げて目をきらきらと輝かせている。


 杏咲が此処で働き始めてからすでに三ヶ月もの月日が経とうとしているが、改めて子どもたち一人一人を見てみれば、背もグンと伸びて、随分お兄さんになったのだなぁと――何だか感慨深く感じてしまう。


 個人差もあるらしいが、約一ヶ月程度で、人間でいう一歳くらい成長すると聞いている。この世界ではこれが当然のことなのだが、早い成長が嬉しいようで、ほんの少しだけ寂しいような……不思議な気持ちになる。



 月明かりの下、穏やかな空気が流れる中。

 ――突然、花瓶に生けていたはずのペンタスの花が、きらきらと輝きだした。


「……え、花が光ってる?」

「何あれ……!?」


 背後が急に明るくなったことに気づいて振り返れば、大広間の机に飾ってあったペンタスの花弁が、一枚、また一枚と宙に舞い、杏咲や子どもたちの周りをふわりと泳ぐように浮遊しながら、ゆっくりと空に舞い上がっていく。

 そして濃藍の夜空を背景に、ぱっと弾けたかと思えば――きらきらと小さな光の粒となって、杏咲たちの頭上に降り注ぐ。


「すっげぇ……」

「きれい……」


 子どもたちもその幻想的な光景に目を奪われている様子で、双眸に煌めく星々を映しながら、口をぽかんと半開きにして空を見上げている。


「……これも、伊夜さんの力ですか?」


 杏咲も視線は美しい光に向けたまま、隣に座っている伊夜彦に問いかけた。


「いや、これは俺がやったことじゃないぞ。多分……雨の神からの、贈り物かもしれないな」

「神様の……」


 伊夜彦の言う神とは、つい先日出会った雨師様のことだろう。


「昔、これに似た景色を見たことがあるのを思い出す。……美しいな」


 伊夜彦が呟く。杏咲がそろりと視線を左に向ければ、伊夜彦の金の瞳に淡い光が映しだされて、美しく煌めいている。


「はい、本当に……綺麗ですね」


 光の粒子は、庭に飾ってある笹の木にも降り注いだ。笹の葉と共に、皆の願いを託した短冊をさらさらと揺らして――淡い光は静かに風に乗り、天の川を映し出す夜空に融けていったのだった。





“もっと強くなって、りっぱなごえいになる!”


“いまよりもっとかわいくなれますように♡ それと、かわいいきものがほしいです!”


“むっちゃかっこいいお兄ちゃんになれますように! おもちゃをいっぱいかってもらえますように! あと、おかんとおとんといっぱいあそべますように! あさちゃんともいっぱいあそびたいし、それから~(文字が多すぎて最後の方は解読不能)”


“早くじいちゃんに会えますように。ふわふわの毛布もほしい。です。”


“今度、お父さんとお母さんとたくさん遊べますように。みんなに幸せなことがたくさんありますように。よろしくお願いします。”


“かっこいいにんじゃになる! わるいやつはオレさまがぜんぶたおす!”


“クソオヤジをぶっ潰すくらい強くなる。透と伊夜さんに、もっと鍛錬に付き合ってもらう”


“子どもたちがこれからも元気に過ごせますように。最新式の洗濯機も買ってもらえますように。”


“探しものが、早く見つかりますように。”



“子どもたちが毎日元気に過ごせますように。これからも皆に楽しいことがたくさん訪れますように。”



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