表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十章 願いはペンタスの傍らで
76/149

第七十二話



「では、行きましょうか」

「……えぇっと、そうですね。それじゃあ皆、行こうか」


 露草色の髪の妖に促されて、透を先頭に、森林の奥の方に進んでいく。


 一つ目小僧は吾妻と手を繋いで前の方を歩いている。木の根に引っかかって前のめりになった吾妻を、一つ目小僧が手を引いて支えている姿が見えた。

 露草色の髪の妖は一つ目小僧たちからは離れて、杏咲の斜め前を歩いていた。傘を差さずに歩く妖を見かねて、杏咲はそっと声を掛ける。


「あの……良ければ私の傘に入ってください。濡れちゃいますよ」

「あぁ、私は雨に濡れることがないので平気ですよ。お気遣い感謝します」


 杏咲が傘を差し出すが、妖は緩く首を振って応えた。妖の上を見てみれば、確かに雨は、妖に触れる前に、スッと溶けるようにして宙で消えている。さっき「力を使えば問題ない」と言っていたし、そういう妖力を持った妖なのだろうと杏咲は納得した。


 そのまま道なりに森林の中を進んでいけば、少しだけ開けた場所に出た。


 森の更に奥、小高い方からは雨水がちょろちょろと流れ下ってきて、小さな川のようになっている。左の方を見てみれば、山葡萄に似た紫色の木の実や、赤く色づいたクサイチゴが生っているのが目についた。


「それじゃあここらへんで少し自由行動にしようか。好きに見て回っていいけど、あまり遠くには行かないようにね」


 透の言葉を皮切りに、子どもたちは自由に探索を始める。杏咲も散らばった子どもたちのもとを順に回っていれば、後ろから控えめに声を掛けられた。


「あ、あの、杏咲先生! ちょっときてください」


 振り向けば、そこにいたのは柚留だった。白藍色の瞳には興奮の色が垣間見えて、その顔には笑顔が咲いている。

 どうしたのだろうと、杏咲もワクワクしながら柚留の後をついて行けば、深緑が生い茂った大きな木々の後ろに、小さな花がぽつぽつと咲いている場所に着いた。大きな木の下に咲いていたからか、辺り一面は雨に濡れていないようだ。

 傘を閉じた杏咲が屈んで地面に咲いた花をよく見てみれば、それはつい昨日、柚留と図鑑で目にした花だった。


「あ、これ……!」

「「ペンタスの花 (です)!」」


 杏咲と柚留の声が綺麗に重なった。顔を見合わせた二人は、揃って破顔する。


「柚留くん、見つけたんだね!」

「はい!」


 星の形をした花弁は、白にピンク、黄色に水色と多様な色であふれていて、人間界では見られないような、金色をした花まで咲いている。


「凄いね。この花、金色だよ」

「わ、本当ですね! 本当にお星さまみたいです」


 楽しそうに花を見る杏咲たちの声に引き寄せられるようにして、吾妻や十愛たちも集まってきた。


「杏咲ちゃんたち、何見てるん?」

「わぁ、かわいい花!」

「へぇ、花弁が星みたいな形になってんのか」


 集まった皆でペンタスの花を観察していれば、いつの間にそばに居たのか、露草色の髪をした妖が、杏咲の横に同じように屈みこんでいた。


「良ければ、摘んでいってください」

「えっ……いいんですか?」

「はい。この花々も、貴女たちのような心優しい方々に摘んでもらえるのは、喜ばしいことでしょうから」


 自然に咲いた花だと思っていたけれど、妖の今の言葉を聞いた感じだと、もしかしたらこの花は妖たちが育てていたのかもしれない。こんなに綺麗に咲いているのだから、大切に育てていたのだろう。


「ありがとうございます」


 妖の好意に甘えて、子どもたちと一緒にペンタスの花を摘んでいく。帰ったら花瓶に飾ることにしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ