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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十章 願いはペンタスの傍らで
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第七十話



「よし、皆準備はできたね。今日は街の方じゃなくて、森林の方に散歩に行くよ」

「しんりん?」

「ってどこだ?」


 吾妻と桜虎が揃って首を傾げる。


「木がたくさん生えていて、花もたくさん咲いているところだよ。吾妻とか桜虎は、初めて行くかもしれないね」

「おれも行ったことない! きれいな花がさいてるといいなぁ」


 可愛いもの好きの十愛は、綺麗な花が咲いているのを想像してウキウキしているようだ。


「でも、皆で雨の中の散歩に行くのって何気に初めてだからね。道中、俺と杏咲先生の言うことをちゃんと聞くように!」

「「はぁい!」」


 吾妻や十愛が元気よく返事をする。


「皆、お散歩の時のお約束は覚えてるかな?」


 杏咲の言葉に、湯希がそっと手を挙げた。


「手を、はなさないのと、ひっぱらないのと……ひとりでかってに、どこかに行かない、こと?」

「うん、そうだね。湯希くん大正解! でも今日は皆傘を持つことになるから、手は繋がなくても大丈夫だよ。ただ、前のお友達にしっかりついて行ってね」

「「はぁい!」」


 最後に約束事を確認し合って、いざ雨の中の散歩に出発である。雨はいまだにポツポツと降ってはいるものの、その勢いは弱く、歩く分にはそこまで支障がなさそうだ。


 片手に各々傘を持った子どもたちは、先頭の透に続いて二人ずつで横並びになる。


「それじゃあ俺が前を歩くから、皆しっかり付いてきてね」

「「うん!」」


 前から順に、吾妻と湯希、桜虎と火虎、影勝と玲乙、十愛と柚留の順で並んでいる。最後尾に杏咲が続く形だ。


 透が言うには、夢見草から目的地の森林までは、徒歩二十分ほどで到着するようだ。

 普段の晴れの日のお散歩とは少し違って見える景色に、子どもたちの興味があちこちに向いているのが分かる。


「わ、あの花、雨にぬれてきらきらしてる!」

「あれは紫陽花だね。丁度この時期に咲く花なんだよ」

「ちっちゃい花がいっぱいくっついてて、かわいいね」


 十愛は道沿いに咲いている紫陽花に目を奪われたようだ。十愛が指でちょん、と花に触れれば、小さな雫がぽたりと下に伝って流れていく。


「ぎゃ! なんか、ヘンテコなのがおる……!」


 前の方で同じように紫陽花を見ていた吾妻が、大きな声を上げた。吾妻の言う“ヘンテコなの”とは何なのか、気になった皆でその周りに集まれば、そこにいたのは――。


「あ、てんとうむし!」

「ちげぇよ、これは……えっと、あれだよ……」

「……カタツ?」

「っ、カタツムリだ!」


 十愛の間違いには気づきながらも、名前が中々出てこない様子の桜虎が口籠っていれば、隣にいた火虎が小声で助け舟を出した。答えられた桜虎は、えっへん、と胸を張って得意げな顔をしている。


「うん、そうだね。前に皆でお歌の絵本を見たと思うんだけど、そこにもいたんだよ。で~んでんむ~しむし、か~たつむり~、って」


 杏咲が口遊めば、子どもたちも思い出したみたいだ。吾妻や桜虎など、カタツムリを初めて目にしたらしい年少組の子どもたちは、興味津々な様子で観察を続けている。


 吾妻と同じように顔を近づけてカタツムリを観察していた湯希は、自身の頭の横に人差し指をちょん、と立てている。触角があることに気づいて、カタツムリの真似っこをしているみたいだ。可愛らしい姿を目撃してしまい、杏咲の頬はだらしなく緩んでいく。

 そんな湯希の姿を、狐火は勿論見逃すことなく、ばっちり写真に収めていた。


「よし、それじゃあカタツムリさんにはさようならして、そろそろ行こうか」

「うん、カタツムリさんバイバイ!」

「カタツムリさん、またなぁ!」


 十分観察を楽しんだらしい子どもたちは、紫陽花の葉にくっついたカタツムリに手を振って、目的地に向かって足を進める。森林までもう直ぐだ。



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