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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十章 願いはペンタスの傍らで
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第六十九話



 翌日。やはり雨は降り続いているが、雨脚は弱く、散歩に行く分には問題なさそうだ。

 透と相談して、今日の予定は午前中にお散歩に行き、午後に七夕飾りを作ることに決まった。


 子どもたちには念のためにレインコートを着てもらった。影勝なんかは着なくていいと渋っていたけれど、透に半ば強制的に手渡されて、早々に諦めた様子だ。きちんと着用していた。杏咲が似合うと褒めれば、無言で睨まれてしまったけれど。


「あ! 透と杏咲もおそろいだぁ!」


 大人用のレインコートも、透が伊夜彦に頼んで用意してくれていたのだ。十愛の声に、杏咲は屈んでその頭を撫でる。


「ふふ、お揃いだねぇ」


 顔を見合わせて笑い合う二人のもとに、青い狐火がゆらりと近づいてくる。


「あ、これって……」

「伊夜さんがまた用意してくれたんだ。せっかく散歩に行くなら連れて行けって」


 透の言葉に応えるように、青い狐火はゆらりと揺れてその姿を主張している。


「狐火さん、ありがとうございます」

「へへ、杏咲いっしょにとろ! ぎゅ~!」


 くっついた十愛と杏咲の二人を、青い狐火がパシャリとカメラに収めてくれる。自動で撮影してくれるなんて、本当に便利な機能だ。

 ほのぼのとした空気が流れる中、そばで二人が撮影される姿を目にした玲乙の顔が、僅かに強張った。


「玲乙、どうかした?」


 玲乙の顔色が悪いことに一番に気づいた透が心配そうな面持ちで問えば、玲乙は戸惑うような素振りを見せた後、狐火を指さした。


「……それ、大丈夫なんですか?」


 玲乙が、杏咲の真横でゆらゆらと揺れている狐火をじっと見据えて言う。


「大丈夫って……何のことかな?」


 不思議そうな杏咲の表情に、玲乙が歯がゆそうな顔で眉を寄せる。


「いえ、ただ……」


 俯いた玲乙は、言葉を選ぶようにして続きを口にした。


「写真を撮られると……思い出を残せる分、魂を吸われて、寿命が縮まってしまうって……」

「「……え?」」


 一拍置いて、杏咲と透の声が重なった。二人は顔を見合わせる。まさか玲乙の口からそんな言葉が出てくるとは思ってもみなかったので、驚いたのだ。


「なぁ、じゅみょうって何や?」

「寿命はね、えぇっと……命の長さってこと、かな」


 玲乙の言葉を聞いていた吾妻が、隣にいた柚留に尋ねている。


「いのちの長さ? ……え、そうやの!? っ、いやや! おれ、じゅみょうとられたくないで……!」


 玲乙の言葉を真に受けた吾妻が涙ぐみ始めた中、俯き肩を震わせていた火虎が、プハッと噴き出す音が聞こえた。


「わ、ワリィ玲乙……! ま、まさかほんとに信じるとは思わなくて……!」


 ――どうやら、玲乙に嘘の知識を教えた相手は、火虎だったようだ。


 火虎から話を聞けば、忍者ごっこをした翌日にからかい半分で伝えていたらしい。初めはそんなの迷信だろうと一蹴していた玲乙だったが、あまりにも真剣な表情で話す火虎にまんまと騙されて、生真面目な玲乙は信じてしまったようだ。


 騙されていたと漸く気づいた玲乙は、ぷるぷると身体を震わせている。


「れ、玲乙くん、大丈夫……?」

「……。……大丈夫です」


 杏咲が恐る恐る声を掛ければ、俯いていた玲乙が顔を上げる。その頬は薄っすらと赤く染まっていて――杏咲が見たことのない顔をしていた。その表情を見た感じ、怒っていたというよりは、羞恥に耐えていたことが分かる、


「玲乙、悪かったって~」

「……知らない話しかけるな」

「玲乙~!」


 謝る火虎に、玲乙は冷たい視線を向けてから顔を背けた。


 大人びている玲乙の年相応な姿を見たのは初めてかもしれないと、杏咲は内心でほっこりしながら、狐火にこっそり頼んで、最年長二人の姿を撮影しておいてもらった。これも良い思い出になるだろう、と。


「でもこれ、本当に便利だよね。……伊夜さんもこんな凄いものを用意してくれるんだったら、面倒くさがらないで、さっさと最新の洗濯機も早く買ってほしいところなんだけど……」


 小さな声でボソリと愚痴をこぼしながらも、子どもたちが靴を履き終えたことを確認した透は、皆を見渡しながらこれからの行き先を告げる。



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