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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第六章 泥棒さんとお巡りさんと、新たな出逢い
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第四十五話



「あ、もどってきた! 玲乙くん、杏咲ちゃんのことつかまえられたん!?」


 大広間には、すでに杏咲と玲乙以外の全員が揃っていた。

 先程から大声で召集をかけていた吾妻が真っ先に駆け寄ってきて、玲乙に杏咲を捕まえられたのかどうかと、期待した様子で問いかけている。


「捕まえられなかったよ」

「お、それじゃあオレらの勝ちじゃん」


 火虎がニヤリと嬉しそうに笑う。どうやら杏咲以外の泥棒組は皆捕まってしまったようで、杏咲と玲乙が戻るのを待っていたみたいだ。


 思い返してみれば確かに、杏咲は玲乙に触れられてはいない。自分がお喋りに誘ってしまったからだとはいえ、玲乙はいつだって杏咲を捕まえることができたわけで……。


 真実を伝えるべきかと思った杏咲が玲乙の方を見遣れば、ちょうど玲乙も杏咲のことを見上げていた。しかし玲乙は杏咲の心の内を読んだかのように、小さく首を振る。


 杏咲が開きかけた口を閉じれば、ほんの僅かにだが、玲乙は口角を上げて満足そうな表情になった。


「おっしゃぁ!」

「うあぁ、まけた~!」


 喜ぶ桜虎に、悔しがる吾妻。

 杏咲と同じ泥棒チームだった影勝も、小さく舌を打っている。逃げきれなかったことが悔しかったのだろう。存外負けず嫌いなのかもしれない。


「でも、十愛はあと少しで逃げ切れたのに……惜しかったね」

「……うん」


 柚留に声を掛けられた十愛は、しょんぼりした様子で俯いている。話を聞いていると、どうやらあと数分で逃げ切れるといったところで、運悪く鉢合わせてしまった吾妻に捕まってしまったみたいだ。


 湯希は疲れてしまったのか、ウトウトと目をこすりながら柚留の肩に凭れ掛かっている。


「それじゃあ今回の勝ちは泥棒チームということで! おめでとう! 一番活躍できたのは……最後まで逃げ切れた杏咲先生かな?」


 透の言葉に子どもたちも特に異論はないようで、杏咲がどんなお願いをするのかと――吾妻なんかはきらきらと瞳を輝かせて、興味津々といった様子の視線を送っている。


「杏咲先生、ご褒美は何にする?」

「えぇっと、私は……」


 杏咲は、子どもたちを差し置いて私がご褒美を貰うなんて……と謙遜していたのだが、とある妙案が浮かんだことで、ぱっと表情を明るくさせた。


「それじゃあ私、皆で美味しいお菓子が食べたいです! 前に十愛くんと桜虎くんとおつかいに行った時、凄く可愛い練り切りを売っているお店を見つけたので……皆でそれを食べられたら嬉しいです」

「え、それだけでいいの?」

「はい、十分です! あと一時間もしたらおやつ時ですし、皆で食べましょう。透先生、買ってきてもらってもいいですか?」

「うん、それはもちろん構わないけど」


 杏咲の控えめな願いに瞳を瞬かせながらも、特に異論はないといった様子で透は頷いた。


「それじゃあ、十愛くんも一緒に行ってきてくれるかな?」

「っ、え、おれも?」

「うん。十愛くんならあのお店の場所も覚えてるでしょ? 透先生に教えてもらってもいいかな?」


 突然名指しされて驚いた様子の十愛だったが、杏咲の顔を見て、透の顔をちらりと見てから、小さな掌をぎゅっと握って頷いた。


「……うん。いいよ」

「ありがとう、十愛くん」

「それじゃあ早速行ってこようか。今なら雨脚も弱まってきてるし、おやつ時にも間に合うしね」

「……うん」


 窓の外を見て言う透に、十愛は少しだけ表情を強張らせて返事をする。


 ――十愛くん、頑張れ。


 十愛が透に謝れる機会を作れたらと咄嗟に提案した杏咲は、心中でエールを送った。


「十愛、透、はよかえってきてな~!」

「いってらっしゃい」


 玄関で二人を見送った吾妻と杏咲は、手を繋いで大広間へと戻る。


 十愛たちが帰ってくるまでの間、杏咲と子どもたちはまったり休憩タイムだ。



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