第四十話
ドロケイ、ケイドロ、助け鬼等……呼ばれ方に違いはあるが、要は鬼ごっこの一種であるこの遊び。地方によってルールにも多少の違いは生じるだろうが、基本的には泥棒チームと警察チームに分かれて、制限時間内に逃げきれたら泥棒チームの勝ち、全員を捕まえることができたら警察チームが勝ちとなっている。
今回は室内のみで行うため範囲も狭いということで、泥棒チームは隠れるのもありだ。捕まった泥棒は、牢屋である大広間の一角で待機することに決まった。
制限時間は一時間と中々に長いが、捕まった泥棒を味方が助けにいくのもありとなっている。まだ捕まっていない泥棒から身体にタッチしてもらえば、一度捕まった子も再び逃げられる、ということである。
遊び方を聞いていた吾妻や桜虎ははじめポカンとしていたが、透と杏咲からの噛みくだいた説明で、何とかルールを理解できたようだ。
影勝や玲乙、湯希はあまり乗り気ではなかったようだが――そこに落とされた透の一言で、空気がガラリと変わった。
「勝てたチームには夕食時に特別デザート付き! そして、その中でも一番活躍できた子には……ご褒美に、何でも一つ願いを叶えてあげよう」
一瞬シンと静まり返った子どもたちだったが、火虎の声を皮切りにして、嬉々とした様子で話し始める。
「へぇ、何でも一つか。そりゃいいな」
「デザート!? よっしゃあ! 湯希、がんばろな!」
「……うん、がんばる」
「なんでもいいのか!? そしたらおれサマは……ぐっ、なんにするかまようぜ……!」
「えぇ、だったらおれは……、あたらしいきものがほしいかなぁ。あ、爪紅でもいいかも」
各々が盛り上がる中、皆の輪から少し離れた場所に居た影勝が、険しい顔をして透のもとへと近づいてきた。
「……おい。今言ったこと、忘れんじゃねーぞ」
それだけ言うと、プイッと顔を反らしてまた離れた場所に戻っていく。
――影勝くん、何か叶えてほしい願いがあるんだろうけど……一体何だろう。気になるなぁ。
しかし聞いたところで素直に教えてくれそうにはないため、杏咲は諦めて子どもたちに視線を移した。皆すでに勝つ気満々のようで、何の願いを叶えてもらおうかと考えている。……いや、玲乙だけは興味なさげに溜息を漏らしているけれど。
「透先生、あんなこと言って大丈夫なんですか? 何でも願いを叶えてあげる、だなんて」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。何なら、俺が一番活躍しちゃえばいい話だしね」
良い笑顔でサラッと大人気ないことを言う透に思わず苦い笑みを向けながら、杏咲は壁時計を確認する。時刻は十二時五十八分。あと二分で開始時刻だ。
「そろそろ時間だね。泥棒チームの子は逃げる準備をしようか」
杏咲の声掛けに、泥棒チームに振り分けられた子どもたちが返事をする。
ちなみに、チーム分けはこうだ。
泥棒チーム:杏咲、火虎、影勝、桜虎、十愛
警察チーム:透、玲乙、柚留、吾妻、湯希
一応チームバランスを考えて、年長組は同い年の子が別々のチームになるように振り分けられている。
「おれも杏咲ちゃんといっしょのちーむがよかったぁ~‼」
――チームを決めて直ぐ、そう言って延々と駄々を捏ねていた吾妻だったが、「吾妻くんかけっこも速そうだから、捕まらないように頑張らなきゃ」との杏咲からの言葉に乗せられて、やる気になったようだ。
「せやで! おれ、かけっことくいなんや! 杏咲ちゃんのこと、ぜぇったいにつかまえたるんやからな!」
「うん、私も捕まらないように頑張るね!」
そして――開始一分前。
「それじゃあ俺たちが六十秒数えるから、その間に泥棒チームの子は逃げてね」
透の言葉に、泥棒チームは一斉に動き出す。杏咲も十愛たちの背に続こうとすれば、背後から声を掛けられた。振り向けば、そこには影勝がいて。
「おい。足手まといになったら……どうなるか分かってんだろうな?」
「……うん、頑張るね!」
「……フン」
影勝のドロケイに懸ける本気を感じて、杏咲は大きく頷いた。杏咲の表情を一瞥した影勝は、満足そうに鼻を鳴らして廊下の方へと歩いていく。
――よし、私も頑張ろう。それで影勝くんのお願いが何なのか教えてもらおう。
そんなこんなで、何となくで始まった“ドロケイ”という名の戦いの火蓋が切られたのであった。




