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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第五章 喧嘩と仲直りと決意と

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第三十三話



「はぁ~、おかんとおとんにあえるん、たのしみにしとったんになぁ……」


 大広間に集められた子どもたちは、透から参観が中止になったことを知らされていた。

 子どもたちの反応は様々だったが、杏咲の予想通り、吾妻は特に落胆した様子でしょげた顔をしている。


「それと、もう一つお知らせがあるよ。これはとっても嬉しい知らせ」


 話は終わっただろうとさっさと部屋を出て行こうとする影勝を引き止めた透は、にんまり笑いながら人差し指をピッと立てて見せた。


 透の表情を見て、十愛や桜虎といった年少組は「なになに?」とソワソワしている。


「実はね……。もう少しで此処を辞めるかもしれなかった杏咲先生だけど、これからも此処で働いてくれることが決まりました! 皆拍手~‼」


 にっこり笑顔で手をぱちぱち叩く透を、ぽかんとした顔で見つめる子どもたち。そんな空気に居た堪れなくなった杏咲は、空笑いで自らも説明をする。


「えっと……そういうことで、これからも此処でお世話になることになりました。皆、これからもよろしくね」


 透から杏咲へと視線を映した子どもたち。そしてそんな杏咲の言葉に一番に反応を示したのは、吾妻だった。


「……って、えぇ!? 杏咲ちゃんと、あとちょっとでおわかれやったん!? っ、おれ、杏咲ちゃんとあえなくなるん……いややで‼」


 泣きそうな顔でプチパニックになる吾妻だったが、呆れたような顔をした十愛や湯希から窘められて、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「もぉ、だから、それがなくなったってことでしょ!」

「……これからも、ずっと……いっしょ」

「……ずっと、いっしょ……? っ、せやったら、これからもいっしょにあそんで、おふろはいって、えほんもい~っぱいよんでくれるってことやんな!?」

「うん、そうだよ。これからも一緒に、いーっぱい遊ぼうね」


 杏咲に頭を撫でられた吾妻は、顔をくしゃりと歪める。我慢できずにとうとう涙を流しながら、そのまま杏咲の胸へと飛び込んだ。


「っ、杏咲ちゃんだいすき! うれしいのぎゅ~っ‼ や‼」

「……じゃあ、おれもする」

「じゃ、じゃあ……おれも! ほら、桜虎も!」

「っ、ハァ!? なんでオレまで……!」


 吾妻の反対側から湯希にもぎゅっと抱きつかれる。更に十愛と、十愛に引っ張られた桜虎も一緒に突進してきたことで、杏咲の身体は四人の子どもたちに取り囲まれることになった。


 一瞬驚きに目を丸くする杏咲だったが、直ぐに腕を伸ばして四人を纏めて抱きしめて、頬をだらしなく緩ませる。


「……ありがとう。私もだ~いすきだよ!」

「あはは、杏咲先生モテモテだね」


 ほのぼのとする光景に、成り行きを見守っていた透は顔をほころばせている。


「ってかさあ、もう少しで辞めるはずだったとか、オレら初耳なんだけど?」

「……あれ? 言ってなかったっけ?」


 火虎の言葉に首を傾げた透は、考えるように視線を持ち上げた。


 ――思い返してみれば、確かに。透も杏咲も、これから此処で働くと告げただけで、お試しで働いているということは一切口にしていなかった。

 子どもたちの中でそのことを知っていたのは、十愛と桜虎くらいだろう。十愛と桜虎は、杏咲が伊夜彦に此処で働かないかと誘われた際、その場に居たからだ。


「……うん。そういえば言ってなかったかも。ごめんね?」

「いや、別にいいけどさぁ……」


 あまり気持ちのこもってなさそうな謝罪に、火虎は呆れた様子で小さく息を吐く。


「まあまあ、結果的には良かったわけだしさ。ほら、火虎も杏咲先生に嬉しいのぎゅう、しておいでよ」


 ニコリ。どこか試すような視線を向けられていると感じて、火虎は数秒考えた後、同じように笑みを返した。


「……そうだな。んじゃあ、オレも」


 そう言って、未だくっついたままの吾妻たちも抱き込むようにして杏咲に抱きついた。


 杏咲は軽い衝撃に少しだけ身体を揺らしながらも、火虎の身体もしっかりと受け止めてみせる。


「おわぁ、ひぃくんもぎゅ~や!」

「……ちょっと、くるしい……」

「っ、いいかげんはなしやがれ~‼」」

「ちょっと、あばれないでよ桜虎! かみがぼさぼさになるでしょ!」

「ハハ、たまにはこういうのも悪くねーな」


 吾妻たちの声を聞き楽しそうに笑う火虎は、いつもより少しだけ子どもっぽい、年相応の顔をしている。

 普段の言動は大人びている火虎だが、こうして抱きしめてみると、当たり前のことだが杏咲よりもずっと小さい。腕の中にすっぽりと納まってしまいそうな程には小さいのだ。


 まだまだ子どもなのだということを改めて認識して、杏咲は火虎の黒髪に無意識に手を伸ばした。


「っ、……何だよ。オレの頭なんか撫でたって、何も面白いことねーぞ?」


 気恥ずかしそうに笑う火虎はやっぱり年相応の顔をしていて、いつもより幼さを感じる。

 初めて見る表情に嬉しさを感じながら、杏咲はもう一度、火虎の柔らかな黒髪に手を滑らせたのだった。



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