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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十六章 神議り(かむばかり)と秘色(ひそく)の忌み子
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第百二十四話



 龍のような見目をした妖怪の背に乗った伊夜彦は、草嗣が謀反を企てたとの知らせを聞き、一人で先に出雲を出て夢見草へと向かっていた。


 妖はビュンビュンと速度を上げて空の上を進んでいく。


 真っ直ぐ前だけを見据えて夢見草に向かう伊夜彦の胸中では、焦燥や苛立ち、そして濁流のように激しく強い後悔の念が渦まいていた。


「俺は……っ、また、守れなかったのか。側にいることもできずに、また……」


 ――失うことに、なるのか。


 妖は伊夜彦の思いに応えるように、グングンと速度を上げる。


 夢見草まで、あと少し。伊夜彦は子ども達や透、草嗣、そして杏咲の顔を思い浮かべながら、ただ無事を祈ることしかできない自分自身に対して苛立ち、血がにじむほどにきつく掌を握りしめていた。




 ***


 ――――此処は、どこだろう。


 真っ暗な闇が広がる空間を、杏咲は一人ぼっちで歩いていた。


 歩いても歩いても、出口の見えない真っ暗闇。歩き疲れた杏咲は、その足を止める。


 ――あれ? 私、何処に向かってるんだろう。何で歩いてるんだっけ? ……まぁ、もういいかな。


 とうとう考えることさえ止めてしまった杏咲は、その場に座りこもうとする。


 そんな杏咲の耳に――誰かの声が、聞こえた気がした。



「――ぁ、――さ……っ!」


 ――誰だろう。もしかして……私のことを呼んでるの?


「――さ! あ…ぁ、……て!」


 胸をじんわりと温かくしてくれるような、優しくて、どこか懐かしい声。けれどその声は、今にも泣きだしてしまいそうなほどに震えている。……いや、もう泣いているのかもしれない。涙に濡れた声は、必死に杏咲の名を呼び続けている。


 杏咲が視線を上げれば、暗闇の先に、ぼんやりと光が灯っているのが見える。



「――皆が待ってるわよ」


 背中に触れた優しい温もりは、杏咲の背をそっと押した。杏咲は振り返りたくなる衝動をグッと堪えて、皆が待つ光の先に向かって、一歩、足を踏みだした。



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