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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
第十五章 兄と弟、妖と人
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第百十八話



 あの後。会場をめちゃくちゃにしてしまったことを謝罪して回った杏咲たちは、急いで帰宅したのだが、玄関前で待ち構えていた透にそれはもうこってりと絞られた。


 とっくに離れに到着していた虎雷は、ボロボロになった三人を見て、目を丸くした。しかし次の瞬間、小さく肩を震わせる。笑うのを堪えているようだ。


「ふっ……お前たちも、随分腕白をするような歳になったんだな」


 口許を緩めたのはほんの一瞬のことで、直ぐに真顔に戻ってしまったが――今の表情は、火虎と桜虎を、愛する我が子の成長を喜ぶ、優しい父親の顔だった。


「……と、父ちゃん」


 掌をグッと握りしめた桜虎が、意を決した様子で顔を上げた。切れ長の赤い瞳は、真っ直ぐ虎雷に向けられている。


「オレ、自分が弱いってこと、ちゃんとわかってるんだ。だからさ、もっと鍛錬して、強くなるよ。父ちゃんや兄ちゃんみたいに、もっと強くなる! だからさ、そしたらオレも……っ、父ちゃんと一緒に、護衛の任につけるようになれるか?」


 思いを吐露する桜虎を黙って見下ろしていた虎雷は、再びその口許を緩めた。


「……あぁ。お前はまだまだ強くなれる。来年、共に出雲の地に赴くことを、楽しみにしているからな」

「っ、……あぁ! 任せとけ!」


 強張った表情で父親からの返答を待っていた桜虎は、虎雷に頭を撫でられると、その顔にパッと喜色を浮かべる。


「――あっ、桜虎たちが帰ってきたで!」

「わっ、桜虎ってば泥だらけじゃん! って、杏咲も汚れてるし、火虎も? ……三人共、何してたの?」


 そこにわらわらと子どもたちが集まってきた。十愛が怪訝そうな顔で指摘すると、柚留は持っていた手拭いで、桜虎の頬にこびりついている泥を拭い始める。


「杏咲先生まで泥だらけになって……お使いに行ってたんですよね?」


 心配そうな面持ちの柚留に尋ねられた杏咲は、空笑いを浮かべながら、さぁ何と答えるべきかと頭を悩ませる。


「それはオレたちと杏咲の秘密! ……なっ、桜虎」


 しかし、杏咲の手を引いた火虎が、反対の手で桜虎の頭に手を置いて悪戯っ子な笑みを広げ、そんなことを口にした。

 杏咲が戸惑っていれば、それに便乗した桜虎も耳をピコピコと動かしながら大きく頷く。


「ふん、これはな、オレさまたちの闘いの勲章なんだ!」

「「闘いの、くんしょう……?」」


 意味が分からない十愛たちは揃って首を傾げているが、火虎と桜虎に挟まれた杏咲は何だか可笑しくなってきて、クスクスと笑みを漏らしてしまった。


「火虎」


 そこに遅れてやってきた玲乙は、砂埃を被って汚れている火虎の顔に手拭いを押し付ける。


「出雲、行くんだろ? ……精々足を引っ張らないよう、励んできなよ」


 玲乙なりの不器用なエールに気づいた火虎は、目を細めて嬉しそうに笑う。


「おうっ、頑張ってくる! ……オヤジ、オレも出雲に付いてくよ」

「……あぁ、わかった」


 こうして火虎の出雲行きを本人の口から聞いた虎雷は、来月に迎えにくるから準備をしておけと言って帰っていった。

 ギスギスしていた桜虎と火虎の仲がすっかり元通りになったことに、子どもたちも気づいたらしい。笑顔の子どもたちに囲まれた火虎と桜虎も、嬉しそうに笑っている。杏咲もそんな子どもたちの姿を目にして、穏やかな気持ちで笑みをこぼした。


 ――そんなほのぼのとした雰囲気で幕を占めることができれば良かったのだが、それで終わるわけもなくて。


「三人共。話はまだ終わってないからね」


 当然とも言うべきか、笑顔の裏に黒い圧を滲ませた透に呼び出された杏咲と火虎、そして桜虎は、それはもう、た~っぷり長々とお説教を受けることになり、足の痺れに身悶える羽目になったのだった。



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